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吾梁高校のグラウンドは、うちの高校の三分の二程度の広さだった。これならわざわざこちらが出向かなくても、むこうがこっちに来てくれればいいのに。と思うけれど、そこは部活動が盛んなことでおなじみの蔟西。我が校のグラウンドは毎週のようにいずれかの部活が練習、あるいは試合のために使用しており、空きがない。よって相手校のグラウンドをお借りするしかないのである。どうも霊球部ですけど日曜うちのグラウンド使わせてください、と誰か教師にお伺いを立てても、霊球部? はてそんな部活あったかな、という顔をされるだけだろう。
「さあ、練習試合ですよー! 練習を兼ねた試合です。気合が入りますねぇ!」
咲が高揚した様子で当たり前のことを言っている。気合が入りますねぇ、の前にもう幾許かの説明が欲しいところだ。
とりあえずあたしとしては、吾梁高校が蔟西からそれほど離れていなくてよかった。電車で五駅、駅からも徒歩圏内と、許容できる距離。おかげで前回のように早朝から集合せずにも済んだ。
「むこうは部員、たくさんいるねぇ」
まながのんびりとした調子で言う。たしかに、ざっと見た感じ十二、三人くらいはいるだろうか。それが一般的な運動部における人数として多いか少ないかはわからないが、少なくともうちに比べれば圧倒的な大所帯だ。
「やっぱり、ユニフォームを着てると運動部って感じがするね」
「ユニフォーム?」
言われてみれば、ほぼ全員同じ色柄のスポーツウェアを着ている。このあいだの大会で対戦した高校も、そういえばそうだったっけ? なかにはそれと違うデザインのティーシャツや、学校指定のジャージと思われるものを着ている人も何人かいる。一年生、とかかな。
「うちも作ろうか? ユニフォーム」
あのなかの、今日は誰が試合に出てくるのだろうか。ユニフォームを着た連中は、やはり上手い人たちなのだろうか。なるべくなら、あまり強い人とは当たりたくない。
「……みーちゃん?」
「え? ……ああ、うん。そうだね」
まながなにか言いたげに、口を開きかける。そこへ――
「おーい、おまえらー」
背後から聞こえてきた男の声。振り返ると、
「航士郎⁉」
が、手を振りながらこちらに向かって歩いてくる。
「試合、これからだよな? よかった間に合って。昨日、遅くまで次の定例会議用の資料作ってたから、今朝ちょっと寝坊しちゃってさ」
アハハ、と航士郎は頭を掻く。
「なんであんたがここに?」
「視察だよ」
「視察?」
「そ。霊球部さんが、ちゃんとその名に沿った活動を行なっているかどうかのね」
思わず舌打ちが出そうになる。相変わらず嫌味っぽいやつだ。
「ならなおのこと、どうしてあんたが? わざわざ生徒会長様が直々に来なくても、誰か下っ端に任せればよかったじゃない」
「そりゃ、僕が直接この目で見たかったからだよ。霊球部の創設に携わった人間の一人として、その後の部の動向には個人的に興味があるからね。応援も兼ねて」
部の創設に携わった。たしかにそれはそのとおりで、「霊球部」なんていうふざけた名前のクラブを、活動目的もその内容もはっきり伝えないまま新設することができたのは、生徒会に当時副会長だった航士郎がいたおかげだ。ほぼ空白だらけの申請書を一瞥し、フンと鼻を鳴らすと、
「まあいいよ、幼なじみのよしみだ」
と、他の生徒会役員や教師たちにうまいこと話をつけてくれたらしい。たしかにその節は大変お世話になった。なんだ、意外といいとこあるじゃん、と若干見直したりもした。
――しかし、いまは、
「部員数最低三人以上とか、その名称に伴った活動実態を、とか、意地悪な決定ばかりして苦しめてくるやつに、応援なんかされたくないね」
「み、みーちゃん」
「おいおい、誤解するなよ。前にも言ったとおり、それら決定は執行部会、および学校の正式な手続きを経て決定されたものだ。僕一人で決めたわけじゃない」
「ふん、どうだか。とにかく、あんたなんかに応援されたって調子が出るどころか、やる気が下がってかえってパフォーマンスが低下するだけだから。視察とやらが済んだら、さっさと帰ってよね」
「みーちゃん、失礼だよ。航士郎くん、せっかく来てくれたのに……」
わざとらしく肩をすくめる航士郎。と、そこへ、
「お二人とも! なにを呑気に話なんかしてるんですか⁉ もうすぐ試合が始まりますよ! 気合入れてください、気合気合気合ぃぃ‼」
気合バカがやってきた。じゃ頑張ってな、と手をひらひら振りながら航士郎はその場を去っていく。そのまま帰ってくれれば、と思うが、留まって観戦するつもりのようだ。どうでもいいけれど、吾梁高校の女子部員たちが近くを通るたび、なにやら小声で話しながらチラチラと航士郎のほうに目をやっているのが見える。あいつは昔から無駄にモテるのだ。見た目だけはいいから。見た目だけは。
まあ、あいつのことはもう気にするのはよそう。咲の言うとおり、もうすぐ試合が始まる。
手首につけた霊珠に目を落とす。




