機械仕掛けの魔法使い——選ばれる真実
そうだ。
拓斗は犯人が隠していた
左手の小指の“指輪”に気づいていた。
一体どうやって――と、
教室中がざわめく。
みんなの視線が、
一斉に拓斗へ集まった。
「あぁ……あれか」
小さく漏らした声。
少し間を置いて、拓斗が口を開いた。
「……あいつ、左手で机を殴っただろ。上から、力任せに」
あの瞬間だ。
詩乃ちゃんと拓斗が状況を説明して、
疑いが向いた瞬間――
あの男子は机を叩いた。
あの音。
あの衝撃。
思い出しただけで、
胸の奥が少しだけ強く打つ。
私たちは頷きながら、続きを待つ。
「その時、素手にしては……音が硬かったんだよ」
教室が、ざわつく。
「え、そうだった?」
「いや……」
小さな声が交錯する。
私はそっと、隣のカナタに尋ねた。
「カナタ、わかった?」
カナタはほんの少しだけこちらを見て、
静かに首を振る。
それだけで、不思議と安心した。
「へぇ〜、拓斗って耳いいんだね〜!」
司の声が、
空気をふわりとゆるめる。
「さすが音楽家の家系ね……で、その“指輪”って何だったの?」
優ちゃんの問い。
「あれね〜、指輪じゃないよ。ナット」
「ナット?」
司が頷く。
「カナタの創駆のパーツを集めたときさ、ナットだけ一個見つからなかったんだよね〜」
教室の反応はバラバラだった。
すぐ理解する人、首を傾げる人。
私は首を傾げた。
すると――
『ナットは、ネジと一緒に使う部品だよ』
カナタが、静かに教えてくれる。
「じゃあ……ネジと数が合わなかったってこと?」
『そういうこと』
(なるほど……)
でも、ひとつだけ。
「……なんで、持ってたの?」
口に出してから、
自分で少し驚いた。
「そんなの……バレるに決まってるのに」
真耶が、ゆっくりと息を吸う。
その目が、少しだけ冷たくなる。
「“持っていたかった”んだよ」
「え……?」
「“トロフィー”……犯罪者心理のひとつ」
静かな声。
「自分の犯行を“証明するもの”。支配感を何度でも味わうための記念品」
教室が静かになる。
「罪悪感より、“自分がやった”っていう優越感を選ぶんだよ」
胸の奥に、冷たいものが落ちた。
(……そんな理由で)
カナタの創駆を壊して。
その一部を、持ち帰って。
唇を、噛む。
「ほんとさ。カナタの何が気に入らないんだか」
真耶が肩をすくめる。
「ちょっと頭いいだけの根暗じゃん」
「いや〜カナタはちょっと頭がいいどころじゃないと思うよ〜?」
司が苦笑する。
空気が少しだけゆるむ。
でも――
私の中の何かは、ゆるまなかった。
(……なんで?)
見た目?
魔械面?
機械混じりの声?
確かに、最初は少し驚いた。
でも――
(それって、“違う”だけでしょ)
私たちだって同じだ。
腕がない。
脚がない。
義肢で生きている。
それが、当たり前の世界で――
(なのに、どうして)
胸の奥が、
じりじりと熱を帯びていく。
怒りなのか。
悔しさなのか。
それとも、もっと別の何かか。
わからない。
ただ――
このまま、黙っていたくなかった。
「……カナタは、怖くないよ」
気づいたときには、声が出ていた。
思っていたよりも、静かで。
でも、はっきりと響いた。
「変でもない」
一度、息を吸う。
「私たちと――同じだよ」
教室が静まる。
誰も何も言わない。
その沈黙の中で、
私はもう一度、前を向いた。
「違うところばっかり見て……」
言葉を選ぶみたいに、
少しだけ間を置く。
「どうして、“同じところ”見ないの?」
もう一度、息を吸う。
胸の奥にあるものを、
確かめるみたいに。
そして――
「私たちはみんな」
一拍。
その一瞬で、空気が張りつめる。
「――“機械仕掛けの魔法使い”なんだよ」
言葉が、落ちる。
静寂。
だけどそれは、冷たいものじゃなかった。
誰かが何かを言うよりも先に、
その言葉だけがそこに残っていた。
「……そっか」
司が、小さく呟いた。
「……うちも、そう思う」
続いたのは、真耶の声。
優ちゃんと玲央くんも、
言葉にはしないまま、
僅かに頷く気配が伝わってくる。
空気が、変わる。
誰も、否定しない。
(……届いた)
胸の奥で、そっと息をつく。
そして――右隣を見る。
カナタと目が合った。
何も言わず、ただ静かに。
目元はいつもと変わらないのに、
瞳の奥だけが僅かに揺れている。
驚きでも、困惑でもない。
何かを受け取って、
そのまま確かめているみたいな――
そんな揺らぎ。
やがて。
ほんの少しだけ、目元がやわらいだ。
『……ありがとう、莉愛』
短い言葉。
だけどそれは、真っ直ぐに落ちてくる。
胸の奥へ。
重くて、でも優しくて。
触れた場所から、
じんわりと広がっていく。
「……うん」
うまく言葉にならなくて、
小さく頷くだけになる。
それでも――
ちゃんと、届いていた。
さっきまで胸の中で渦巻いていた
違和感やざらつきが、
ゆっくりほどけていく。
全部が消えたわけじゃない。
それでも、
確かにひとつ、
形を持った気がした。
隣にいるカナタの存在。
その静かな温もり。
それを、
私はちゃんと“同じ側”として感じられている。
――あぁ、そうか。
私たちは最初から、
同じ場所に立っていたんだ。
腕がなくても。
脚がなくても。
声が違っても。
姿が違っても。
魔法と機械に支えられて生きる――
私たちはみんな、
“機械仕掛けの魔法使い”なんだ。
お読みくださり、ありがとうございます。
タイトル回収の回でした。
でも——
これは“答え”であり、
同時に“始まり”でもあります。
この先、彼らがどう進むのか。
引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




