↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/192

その違和感は、魔法だった——繋がる記憶

「真耶……司」


 来てくれたのは、

 カナタと養護施設で育った二人。


 白髪のボブヘア。


 色白の肌。


 真っ黒な瞳。


 ――真耶。


 癖っ毛のショートヘア。


 今のこの場に似合わない、

 ふわふわした雰囲気。


 ――司。


 真耶は私と目が合うと、

 綺麗なアーモンドアイを柔らかく細めた。


「莉愛。状況を説明してくれる?」


「っ、うんっ」


 私たちは真耶と司に、

 昨日の体育の時間から――


 そして、

 カナタの鞄から

 私の菊理が出てきたところまでを、

 一気に説明した。


 途中で何度か言葉に詰まる私に、

 司は頷きながら笑顔を向け、

 真耶は腕を組んだまま静かに聞き入っていた。


 話し終えると、

 真耶が小さく息を吐いて口を開く。


「それで、なぜかカナタの鞄のポケットから見つかったと――」


「ふ〜ん……」


 色白の顔に、思考の影が落ちる。


 真耶は腕を組んだまま顎に指を当て、

 目を伏せた。


 真っ白の前髪が、頬にかかる。


 その横で司は、

 目を光らせながら

 教室を見回している。


 まるで、

 そこに答えが落ちているかのように。


「カナタの持ち物に無いって証明されてるのに、そこから出てくるなんて――」


「……犯人、焦ってたのかな?」


 軽い調子なのに、どこか冷たい。


 その一言で、

 教室のざわつきがふっと止まった。


「いや、それがこいつの思惑だろっ!」


 男子が声を荒げる。


 さっきまでの余裕は消え、

 顔が強張っていた。


 指先が僅かに震え、

 声に焦りが滲む。


 だけど、真耶はまったく動じない。


「そうだね。その可能性も否定はしない」


 一度、受け止めてから、


「でも、今回に限っては――」


「「絶対にあり得ないね」」


 真耶と司の声が、同時に重なった。


 男子が目を見開く。


 僅かに後ずさり、言葉を失う。


「な、なんでそんなこと分かるんだよ……」


 司はいつもの調子で笑った。


「俺たちさ、三歳からの仲なんだぁ。だからねもう、ほぼ家族みたいなもんなの」


 一拍。


「だから分かるの。カナタはこんなふざけたことしない」


 そして私を見て、

 少しだけ声を落とす。


「……特に、莉愛にはね」


 胸が、きゅっと締まる。


 真耶の口角が、

 ゆっくりと上がる。


 カナタは腕を組んだまま、

 静かに肩をすくめた。


 真耶はそのまま視線を教室へ滑らせる。


 黒曜石のような瞳が、

 真っ直ぐに空気を射抜く。


 誰もが、思わず息を止めた。


「莉愛の菊理に連絡した時、音、聞こえなかったんでしょ?」


 優ちゃんが私に尋ねる。


「うん、何も……」


 真耶は一瞬だけ目を細める。


「そのとき、教室の出入り激しくなかった?」


「あ、うん。一時間目の前だったから」


 真耶は、ほんの少しだけ口角を上げた。


「じゃあそれに紛れて、焦って教室を出たんだろうね」


(焦ってた犯人……)


 その言葉が、頭の中で何度も響く。


 真耶が、真っ直ぐ私を見る。


「莉愛。どんなことでもいい。思い出して」


 中性的で落ち着いた声。


 でも、逃げられない強さがあった。


「えっと……」


 私は目を閉じる。


「……ずっと、変だったの。頭の隅がモヤモヤしてて」


「モヤモヤ?」


 真耶が眉を寄せる。


 その瞬間――


「あっ!」


 司が声を上げた。


「それだ!」


 勢いよく、私の鞄を指さす。


「ポケット、見せて〜!」


「えっ……?」


 心臓が跳ねる。


 司の真っ直ぐな目に押されるように、

 私は手を伸ばした。


 指先が、何かに触れる。


 硬い。


 冷たい。


「っ……!」


 息を呑む。


 取り出したのは、小さな石だった。


 歪な形の――人工魔法石。


「これは……?」


 玲央くんが身を乗り出す。


「文字、彫ってあるね」


 司が覗き込む。


 そのとき、

 詩乃ちゃんが恐る恐る聞いた。


「えっ、司くん……なんでわかったの?」


 司は、少しだけ笑う。


「“視えてた”から」


 優ちゃんが小さく呟く。


「……これが、第六感魔法ね」


「そーみた〜い」


 軽い声。


 でも、その言葉は確かな重みを持っていた。


 五感じゃない“何か”。


 司は小さい頃から、

 真耶と一緒に“探偵ごっこ”をしていた。


 でも正直に言うと、

 推理力だけなら私とそんなに大差ない。


 それでも真耶と肩を並べて遊べたのは、

 誰よりも鋭い“探索力”と“観察力”があったから。


 司の目にかかれば、

 隠されたものなんて一瞬で見つかる。


 誰かの小さな嘘だって、

 顔色で簡単に見抜いてしまう。


 その秘密が、

 最近の授業でようやくわかった。


 司の力は、“第六感魔法”。


 魔械(マギア)義肢を媒介にしない、

 極めて特殊な感覚魔法。


 五感以外の“もうひとつの感覚”が

 研ぎ澄まされている人だけが扱える魔法。


 ――それが、司の魔法。


 真耶はパチンッと指を鳴らした。


 全員の視線が集まる。


「カナタ、読める?」


 カナタは静かに歩み寄る。


 私の手の中の石を見て、短く言った。


『……忘却魔法だね』


「忘却……?」


 カナタは頷く。


『古代魔法の原理を理解しないで、お手本をそのまま書き写したんだと思う』


『だから中途半端に魔法が発動して、莉愛の頭に違和感が残ってたんじゃないかな』


 ――全部、繋がった。


 あのモヤモヤの正体。


『はい』


 カナタが手を差し出す。


『持ち主が変われば、魔法が切れる』


『それ、僕にちょうだい』


 息が、一瞬止まる。


「えっ! でも、それって――」


 私の声が震えた。


「……カナタが、何か忘れちゃうんじゃないの?」


 怖かった。


 カナタの大切な記憶を失ってしまう気がして。


『大丈夫だから』


 短く返す、機械混じりの声。


「でも……っ!」


 言葉を重ねようとしたそのとき、


「莉愛。今は緊急事態だから、カナタの言う通りにして」


 真耶の目は真っ直ぐで、

 嘘ひとつない光を宿していた。


「カナタなら、きっと大丈夫だから」


 僅かに、微笑む。


 その表情に押されて、

 私はもう一度カナタの顔を見る。


 カナタは――


 いつものように優しい目元をしていた。


 震える手で、石をカナタに渡す。


 その瞬間――


 頭の奥にかかっていた靄が、

 一気に晴れた。


 重かった思考がほどけて、

 視界が、音が、感覚が、

 全部一度に戻ってくる。


 息を吸う。


 こんなに、軽かったっけ。


 こんなに、世界って澄んでいたっけ。


 違和感の理由も、

 気持ちの引っかかりも、

 全部、ちゃんとそこにあった。


(……すごい)


 ただ戻っただけなのに。


 それだけなのに――


 こんなにも、世界が変わる。


 これが、魔法なんだ。


『莉愛』


 初めて体で体験した魔法に感動していると、

 カナタの声が聞こえた。


『どう? 思い出せる?』


 ――思い出さなきゃ。


 私は目を閉じる。


 記憶を辿る。


 バラバラだったものが、

 少しずつ繋がっていく。


 そして――


 ぱちん、と。


「……あっ!!」


 全部、繋がった。


読んでいただき、ありがとうございます!


違和感の正体は「忘却魔法」でした。


そして——

莉愛は“思い出した”。


つまり、もうすぐ答えが出ます。


次話、犯人に近づきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。