影が導いた答え——双輪試走
スクリーンには、
操縦者の詩乃ちゃんと
操導者の私がそれぞれ映っていた。
詩乃ちゃんは肩を軽く回したり、
手首を曲げたりしながら
リラックスした様子で準備運動をしている。
その隣で映る私はというと――
目の前の大きな鏡を覗き込んだり、
落ち着きなく視線を泳がせたりしていて、
見るからにそわそわしていた。
『莉愛、緊張してるね』
「こんなところまで撮られてたなんて……」
カナタの声に、
頬がじわっと熱くなる。
スクリーンに映る自分を見ているだけなのに、
今さら当時の緊張まで蘇ってきそうで、
私は思わず肩をすくめた。
教室のあちこちから、
くすくすと笑いが漏れる。
「莉愛ちゃん、わかりやす〜いっ」
「うぅ……」
詩乃ちゃんにまで笑われて、
ますます恥ずかしくなる。
やがて審判の合図とともに、
映像の中の私たちはスタートを切った。
最初の“変転コース”では、
動き続ける歯車に合わせて
道が目まぐるしく変化していく。
スクリーンの中で、
私は必死に歯車の動きを読み、
詩乃ちゃんへ指示を飛ばしていた。
その最中――
〈……っ!? 詩乃ちゃんっ、止まってっ!〉
私の声に、
映像の中の詩乃ちゃんが
咄嗟に創駆を止める。
次の瞬間、
そのすぐ先の足場が
大きく沈み込んだ。
教室中が一斉にどよめいた。
「うわっ!」
「え、危なっ!」
「っ! 今のよく分かったな……」
拓斗が思わず漏らした言葉に、
思わず笑みが零れる。
「ねっ! 私、あれ普通に突っ込むところだったんだよっ!」
詩乃ちゃんも興奮気味に身を乗り出す。
私はゆるみそうになる口元を、
そっと手で隠した。
変転コースを抜けると、
次は“迷宮コース”。
私たちが記録を出した、
あの巨大迷路だ。
その名前が表示された瞬間、
教室の空気が変わるのがわかった。
ざわついていた声が、すっと静まる。
みんな、
スクリーンに釘付けになっていた。
映像の中の私は、
プレートに義手を置いたまま少し前屈みになり、
鏡に映る迷路をじっと見つめている。
そして――影が動いた。
黒い線が、
迷路の上をするすると走っていく。
「おぉ……」
「すげ……」
息を呑む声が、
あちこちから漏れた。
その影を追うように、
詩乃ちゃんの創駆が迷いなく
迷路を駆け抜けていく。
曲がり角を滑るように抜けるたび、
教室のあちこちから歓声が上がる。
手を叩く音。
短い悲鳴みたいな声。
「速っ!」と漏れる驚き。
映像の中の私たちは
何も聞こえていないはずなのに、
今こうして見ていると、
その走りにみんなが
引き込まれていくのがわかった。
そしてミスなしでコースを抜けた瞬間――
「おぉぉっ!!」
教室が沸いた。
拍手が波みたいに広がっていく。
その音に包まれた瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなった。
――認めてもらえた。
そんな感覚が、
ゆっくりと胸の中で膨らんでいく。
『結構、早かったんじゃない?』
頭上から落ちてきたカナタの声に、
私は胸の中で小さくガッツポーズをした。
カナタが驚いてくれたことが、
何よりも嬉しい。
「ふふっ、そうかな?」
口では平然を装ってみせる。
だけど胸の奥は、
誇らしさで胸が高鳴った。
次に映し出されたのは、“薬苑コース”。
薬草の名前が書かれた四つの道から、
出題に合った薬草のルートを選んで
進んでいくコースだ。
問題が読み上げられるたびに、
映像の中の私は間を置かず答えていく。
「早っ」
「莉愛ちゃん、すご……」
教室のざわめきが少しずつ色を変えていく。
驚き。
感心。
そして、ちょっとした尊敬。
その空気が、
自分に向けられているのだと気づいて、
胸の奥がくすぐったくなった。
「莉愛頼みだな」
拓斗が感心したようにぽつりと呟く。
「植物なんてわかんないよぅ!」
詩乃ちゃんが即座に言い返して、
教室の空気がふっとやわらいだ。
そのまま順調に進んでいたけど、
一問だけクラス中がざわついた問題があった。
それは、まだ授業では扱っていない
“魔力植物”の問題だった。
〈えーっ! 何これーっ!?〉
映像の中の詩乃ちゃんが、
初めて聞く植物名に素直に声を上げる。
〈詩乃ちゃんっ、チョウドウソウだよっ!〉
〈ど、どれそれっ!? 漢字で読めないよっ!〉
〈えぇっと〜――〉
スクリーンの中で、
しどろもどろになっている自分を見て、
思わず顔を覆いたくなった。
「ふっ……」
「ははっ、何それっ」
気づけば教室は笑いに包まれていた。
恥ずかしいのに、
不思議と嫌じゃない。
最後に映し出されたのは、“迎撃コース”。
固定砲台が次々と砲撃を放ち、
それを避けながら進むコースだ。
映像が始まった瞬間、
あのときの緊張が一気に蘇ってくる。
空を裂くような砲撃音。
土煙。
跳ねる創駆。
私は触覚魔法で
飛んでくる砲丸を
次々と撃ち落としていく。
だけど後半に入るにつれて、
砲撃の数が一気に増えた。
撃ち落としきれない。
避けきれない。
そう思った、次の瞬間だった。
スクリーンの中の私が、
僅かに前屈みになる。
黒い煙みたいな影が、
操縦者を感知するセンサーへと絡みつき――
そのまま、覆い尽くした。
一瞬、教室が静まる。
そして次の瞬間、
どっとざわめきが広がった。
「えっ!?」
「うわ、何あれ!」
「センサー潰した!?」
砲撃がぴたりと止まる。
そのまま詩乃ちゃんは、
一気にコースを駆け抜けていった。
『……すごい。こんな使い方があるんだ』
カナタの声が落ちてくる。
その声音には、
驚きと感嘆がはっきり滲んでいた。
胸の奥がじわっと熱くなる。
「ふふっ、咄嗟に思いついたんだ」
軽く笑ってみせたけど、
あのときは本当に必死だった。
詩乃ちゃんを守らなきゃ。
助けなきゃ。
ただそれだけで動いていたのに、
不思議なくらい迷いはなかった。
まるで最初から知っていたみたいに。
影は自然にそこへ伸びていった。
ふと気配を感じて視線を向けると、
カナタが私をじっと見つめていた。
壁にもたれたまま、腕を組んで。
何も言わず、ただ静かに。
吊り目気味の視線が、
真っ直ぐに私を捉えている。
私は小さく首を傾げた。
するとカナタは、
ほんの少しだけ目を細めて――
『……すごいね』
ぽつりと、そう言った。
それはただの称賛じゃなかった。
驚きと感心。
そして、それだけではない何か。
まるで――
「知っている」と言われたみたいに。
その続きを聞きたくて、
私は思わず口を開きかける。
だけど、そのとき。
「おおっ、抜けたっ!」
「速っ!」
クラスメイトたちの歓声が一気に弾けて、
カナタの声はその熱気の中へ溶けていってしまった。
いつの間にかスクリーンの中では、
詩乃ちゃんが迎撃コースを突破していた。
読んでいただきありがとうございます。
今回は「自分たちの走りを、初めて“外側から見る”回」でした。
やっている最中は必死すぎて覚えていないことも、こうして映像になると、ひとつひとつに意味があったと分かる。
そしてもうひとつ。
カナタの「すごいね」は、ただの褒め言葉ではありません。
少しだけ、違和感のようなものを残しています。
それが何なのかは、これから少しずつ触れていく予定です。
引き続き、よろしくお願いします。




