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知らない隣

 私たち三人は寮を出ると、

 バスロータリーへ向かう道の途中で、

 見慣れた背中を見つけた。


「あっ! 優ちゃーんっ!」


 詩乃ちゃんが真っ先に声を上げる。


 振り向いた優ちゃんが立ち止まり、

 私たちは小走りで駆け寄った。


「おはよー!」

「おはようっ」

「おはよっ」


 優ちゃんは目を細めて笑う。


「おはよう。『女三人よればかしましい』って言うけど、本当ね」


「かしまし?」


 詩乃ちゃんが首を傾げる。


「賑やかってことっ」


 くすっと笑って歩き出す優ちゃんに、

 私たちも並んで歩き出した。


 その途中――


「……あら、あれ、カナタちゃんじゃない?」


 優ちゃんの視線の先。


 確かにカナタがいた。


 見間違えるはずもない、あのマスク姿。


 ――でも。


 その隣には、見知らぬ男の子。


 二人で並んで歩いている。


(如月寮の友達、かな?)


 それは、いいことのはずなのに。


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。


 ――知らない時間が、そこにある。


 そう思った瞬間、

 少しだけ距離を感じてしまう。


 私は何でもない顔をして、

 視線を前に戻した。


 バスロータリーに着くと、


「カナタくーん、おはよー!」


 詩乃ちゃんが元気よく声を張る。


 カナタの肩が、ぴくりと揺れた。


 少しだけ目を見開いて振り返る。


 その視線が、

 隣の男子と私たちの間を行き来する。


(……?)


 らしくない反応に、違和感が残る。


 そのとき。


「えっ、カナタちゃんの隣のイケメン、誰っ!?」


 優ちゃんの小声が弾けた。


 完全に釘付けになった。


「あ〜……優ちゃん、好きそうだね」


 芽依ちゃんが苦笑して、肩をすくめる。


 その何気ない一言に、また驚いた。


 その男子が、カナタに何か耳打ちする。


 次の瞬間――


 カナタが、僅かに眉をひそめた。


 そして、そのままこちらへ。


『……おはよう』


 どこか渋い調子の挨拶。


 ほんの少しだけ、距離を感じる声。


 胸の奥が、また小さくざわめいた。


「おはよう。……えっと、初めまして」


 私はその男子にも視線を向ける。


「初めまして、カナタの同室の晶(しょう)です」


「あっ、同室の……」


 柔らかく笑うその人は、

 初対面なのに妙に安心感があった。


 ――警戒心が、自然とほどけていく。


(……不思議な人)


「で、カナタ。誰が莉愛さん?」


『誰だっていいだろ』


「えっ……」


 思いがけず名前が出て、心臓が跳ねる。


 ――けど。


 胸の奥が、ずきりと痛んだ。


 カナタの声が、少しだけ冷たかった。


『っ、違う、莉愛。そういう意味じゃないよっ!』


 慌てて言葉を重ねるその様子に、

 少しだけほっとする。


 そんな空気を切るように、

 晶(しょう)くんは口の端をゆるめた。


「へぇ、君が莉愛さんか」


 晶くんが笑う。


「なるほど、カナタが隠したがるわけだ」


 茶化すように言ってから、

 すぐに人懐っこい笑みに戻った。


「よろしく。カナタと一緒に、俺とも仲良くしてくれると嬉しいな」


 断れない柔らかさ。


「……えっとぉ、はぁ……」


 変な返事しか出てこない。


 カナタを見ると、

 じとっとした目で晶くんを見ていた。


「……じゃあ、君たちが莉愛さんの友達かな?」


「は、はいっ! 詩乃です」


「め、芽依ですっ」


「……優です」


 少し緊張した声。


「へぇ、元気で可愛いね」


 さらっと言われて、

 三人がほんのり頬を染める。


(……やっぱり、不思議な人)


 そのまま自然と歩き出す。


 空気はもう、

 すっかり柔らかくなっていた。


 優ちゃんは早速質問攻め、

 詩乃ちゃんと芽依ちゃんも笑っている。


 私は、

 少しだけ距離を詰めて

 カナタの隣へ。


「ねぇねぇ、カナタ。……晶くんと、仲いいの?」


 思い切って聞く。


 カナタは、きょとんとしてから――


『うーん……』


 言葉を探すように、マスクに手を当てた。


『……仲、悪いわけじゃないけど、良いわけでもなくて』


『……でも、悪い奴ではないんだけど』


 珍しく、歯切れが悪い。


 それだけで、少し引っかかる。


「……悪い人ではないんだね?」


 少しだけ間を置いて、


『……うん』


 ゆっくり頷いた。


『根はいい奴だと思うけど……』


 少しだけ眉を寄せる。


『……“人たらし”な奴』


「それって、いい意味?」


『……どっちもかな』


 チョーカーから小さく息を漏れる。


『でも、人を傷つけるタイプじゃない』


 その声はどこか不承不承(ふしょうぶしょう)ながらも、

 どこかで信頼を滲ませているように聞こえた。


 私は胸の奥に小さな安堵と

 不思議な引っかかりを同時に覚えた。


 安心させてくれる人なのに、

 カナタはあんな顔をしている。


 そのちぐはぐさが、妙に気になった。


(……でも)


 カナタは、無理をする人じゃない。


 嫌なら、ちゃんと距離を取る。


 そんなカナタが、隣にいる。


 ――それが、答えな気がした。


「……うん。私も、そう思う」


 そう言うと、


 カナタは一瞬だけこちらを見て、

 小さく頷いた。


 ほんの少しだけ――


 表情が、やわらいだ気がした。


読んでいただきありがとうございます。


今回から新しく登場した晶ですが、

一見柔らかくて人当たりのいい人物でありながら、

どこか引っかかる部分も持っています。


カナタの反応も含めて、

この関係がどう影響していくのか。


今後の変化を見守っていただけたら嬉しいです。

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