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やさしい確信

 弥生寮の食堂。


 朝のざわめきとパンの香りに包まれながら、

 詩乃ちゃんと芽依ちゃんたちと一緒に

 朝食を摂っていた。


「芽依ちゃんは、操縦者と操導者はどっちだったの?」


 食後のミルクティーを飲みながら、

 芽依ちゃんに尋ねる。


「私は、操縦者だったよっ」


「私と一緒っ!」


 詩乃ちゃんが弾むように声を上げ、

 芽依ちゃんとぱちんと手を合わせた。


「優ちゃんも操縦者だし……なかなか操導者がいないなぁ」


 ぽつりと零す。


「そうだねぇ……他のクラスの友達も、操縦者だった気がする……」


 芽依ちゃんが少し首を傾げた。


 可愛い仕草なのに、

 内容は全然可愛くない。


「え〜ん……」


 ティーカップを持つ手が、

 力なくテーブルに落ちた。


 ――なんだか私だけ置いていかれたみたい。


 ほんの少しだけ、

 胸の奥が心細くなる。


「……で、でもペアは詩乃ちゃんでしょっ! すごいね、また二人が一緒なんてっ!」


 芽依ちゃんが少し慌てたように言う。


「そうだね、それは本当に嬉しい」


 私の言葉に、

 詩乃ちゃんは

 ぱっと花が咲いたみたいに笑った。


(あぁ、やっぱり一緒でよかったな)


 その笑顔を見ているだけで、

 自然と頬がゆるむ。


「操導者同士の関係も必要かもしれないけど、やっぱり大事なのはペアの相手じゃないかなって思うよっ」


 芽依ちゃんの声音は、

 背中をそっと押してくれるようだった。


 自分でもどこか納得できる言葉だったから、

 自然と肩の力が抜けていくのを感じた。


「……うん、そうだね。私もそう思う」


 すると詩乃ちゃんが

 嬉しそうに体を小さく揺らして微笑んだ。


 こうやって一緒に笑い合えることが、

 きっと一番の支えになるんだな。


「それじゃあ、操導者同士の相談は拓斗と玲央くんとするかなぁ」


「うんっ、それがいいよっ!」


 詩乃ちゃんが、

 ぱちんと手を合わせて頷く。


 芽依ちゃんが少し首を傾げた。


「えっと、拓斗くんはたまに一緒に帰ってる人だよね? 玲央くんは……あっ、階段で会った人?」


 その瞬間――


 目をまん丸に見開いた詩乃ちゃんと目が合う。


 思わず小さく頷き合った。


「……そうそう、よく覚えてたねっ」


 なんでもない顔で、話を繋ぐ。


「芽依ちゃん、玲央くんに会ったことあったんだっ! 私、最初はちょっと怖かったんだけど、芽依ちゃんはどう思った?」


(ナイス詩乃ちゃんっ!)


「えっ。う〜ん……そうだね……」


 芽依ちゃんは宙に視線を泳がせた。


「莉愛ちゃんがいなかったら、話しかけられない、かなぁ」


(やっぱり第一印象はみんな同じなんだな)


 心の中で小さく頷いた。


「でも、カッコいい人だよねっ。化粧の仕方次第で色んなタイプのイケメンになりそうっ」


(おぉっ……!!)


 思わず背筋が伸びる。


「じゃあ、男子がモデルのときに、お願いしてみる?」


 詩乃ちゃんが目を輝かせて提案する。


(頼もしいっ)


「え〜、いいよって言ってくれるかなぁ?」


 芽依ちゃんは眉尻を下げながら笑った。


「絶対に言うよっ!」


 思わず即答した。


「えっ、絶対に? なんで?」


 芽依ちゃんがきょとんとして首を傾げる。


 一瞬、言葉に詰まる。


「えーっと……」


(まずい、言いすぎた……!)


 しどろもどろになりかけた、そのとき。


「玲央くんねっ、頼まれたら断らないんだよっ!」


 詩乃ちゃんが勢いよく割り込んできた。


「特に仲いい子の頼みなんか、絶対断らないっ!」


 ぶんぶんと手を振り回しながら力説する。


(助かった……!)


「そ、そうそうっ! だから今から仲良くなっておこうよっ!」


 私も慌てて便乗する。


「えっ、でもそれって……」


 芽依ちゃんが少し引き気味に眉を寄せた。


「なんか、下心というか……ずるくない?」


 ――グサッ。


 一瞬、言葉が止まる。


「だ、大丈夫っ!」


 詩乃ちゃんが一歩踏み込んだ。


「本当に仲良くなっちゃえばいいんだよっ!!」


 ぐいっと顔を寄せる。


「そしたらそんな下心も、抹消されるっ!」


「理論が強引すぎる……!」


 思わず突っ込みが漏れる。


「むしろ、そんな下心でさえ玲央くんは喜ぶよっ!」


「そんなことはないんじゃないかなっ!?」


 思わず声が裏返る。


「『頼られてる!』ってなるタイプだもんっ!」


「それはわかるけど!」


「でしょっ!」


 なぜかドヤ顔。


「え、えっと……」


 芽依ちゃんが、

 ぱちぱちと瞬きをした。


 一拍置いて――


「頼られると喜ぶの?」


 こてん、と首を傾げる。


「うんっ」


「そうだよっ」


 うーんと、

 芽依ちゃんが何か考えた。


「じゃあ、いっぱいお願いしたら、喜んでくれるかなぁ?」


 ふわっと笑って、首を傾げる。


「うんっ、きっと喜ぶよ!」


 詩乃ちゃんが大きく頷いた。


「それじゃあ玲央くん、毎日嬉しいねっ」


「毎日するのっ!?」


 また突っ込みが零れた。


「ん〜、そうだなぁ」


 芽依ちゃんは唇に指を当てて

 楽しそうに考え始めた。


「ノート見せてもらったり〜」


「カフェも行ってみたいから、先に席とってもらったり〜」


「帰り道も部活で遅くなったら一緒に帰ったり〜」


「あ、でも玲央くん部活やってるかなぁ?」


「待って待って待ってっ!」


 詩乃ちゃんが慌てて止める。


「玲央くんが喜びすぎちゃうから!」


 忙しそうなのに、

 嬉しそうな顔で走り回る

 玲央くんが想像つく。


「ほどほどにしてあげてっ!」


「え〜?」


 芽依ちゃんは困ったように笑う。


「でも、喜んでくれるならいいことだよねぇ?」


「違う、そうじゃない!」


 その無邪気さが、

 逆にどうしようもない。


「お願いすることじゃなくて、仲良くなることが目的だからねっ!」


「あ、そっかぁ」


 一拍置いて――


「……なんか、芽依ちゃんが一番強い気がしてきた」


 詩乃ちゃんがぽつりと呟く。


「そんなことないよぉ」


 照れたように笑う。


 その無自覚さが、

 ちょっとだけ怖い。


 思わず三人で顔を見合わせて――


 吹き出した。

読んでいただきありがとうございます。


今回のやり取りで、

芽依ちゃんの“強さ”が

少し見えた回かもしれません。


無自覚で、でも自然に人の懐に入っていく。

そんな存在が、これからどう関わっていくのか。


今後の関係の変化も、

楽しんでいただけたら嬉しいです。

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