宵に差した恋の気配——学校案内
先生たちの案内に従い、
私たちは鏡を抜けていく。
白砂の広がる屋外。
広大な演武場。
魔械義肢での魔法の実践訓練の場、
“練磨演武場”。
金属と油の匂いが混ざる、
歯車の音が響く廊下。
魔械の基本構造と
エネルギー理論、義肢工学、
そして機械と魔法の融合研究などを行う、
“魔械工学棟。
高い天井、大理石の柱、
まるでお城の中のような空間。
魔法理論や術式の構造を
解明・解析する知識を学ぶ場、
“呪術理論棟”。
蔓に覆われた洋館。
ガラスの天井から柔らかな光が降り注ぐ。
医療系魔法と自然療法の両面から
命を守る知識と技能を育む、
“治癒薬学棟”。
どこか南国を思わせる、
柔らかな灯りに包まれた空間。
芸術や感性表現を通じて
精神の安定や魔力共鳴の力を育てる、
“精神共鳴棟”。
見上げた高い天井には――星空。
星が瞬くたび、心臓が小さく跳ねる。
見たことなんてないのに。
胸の奥に、
すとんと落ちてくる。
天体、気象、時空、未来予測、
自然と時間の流れを読む力を磨く場
“時空観測棟”。
紫水晶の柱、揺れる香、
静かで、重たい。
魂・記憶・死に関する魔法体系を学び、
精神と存在の深層を探る場
“霊魂幽苑”。
それぞれの場が、
選択授業や部活で使われる場だそう。
◇ ◇ ◇
鏡を抜けると、空気が一気に軽くなる。
並ぶ教室。
見慣れたようで、少し違う景色。
「学年は十の刻名で分かれています」
先生の声が響く。
“有明”
“黎明”
“暁”
“曙”
“朝明”
“白昼”
“黄昏”
“夕闇”
“宵”
“真夜”
(時間の名前……)
「それぞれに20組まで存在します」
この学園の大きさを、改めて実感する。
◇ ◇ ◇
次に案内されたのは別館だった。
白いパラソル、木のテーブル。
「えっ、カフェあるの!?」
「やばい、絶対行く」
空気が一気に弾む。
(ほんとに、学校みたいじゃないな……)
食堂も、広かった。
明るくて、賑やかで。
その奥には、ガラス張りのカフェ。
そして最後は――図書棟。
(……大きい)
圧倒される。
知らないことが、
全部ここにある気がした。
胸が、少し高鳴る。
「これで案内は終わりです」
先生の声に、ほっと息が漏れる。
(あっという間だったな)
でも、不安はほとんど残っていなかった。
ここで過ごしていく未来が、
少しだけ見えた気がした。
「ふぅ〜……終わったぁ」
後ろから声。
振り向くと、
玲央くんがぐったりしていた。
「疲れちゃった?」
「疲れた〜。俺、こういうの慣れて覚えるタイプだからさ」
思わず、くすっと笑う。
そのとき――
「あっ! 莉愛ちゃんっ!」
振り向くと、芽依ちゃんが駆け寄ってきた。
「広かったねぇ……あれ?」
視線が、玲央くんに止まる。
(あっ……)
私は手を差し出した。
「同じクラスの玲央くんだよ」
「あっ……ど、ども」
さっきまでと全然違う。
急に大人しくなった玲央くんに、
ぱっと視線を合わせた。
「初めまして、芽依ですっ」
「あっ……俺、睦月寮です」
(なぜ寮の紹介……)
ぎこちない。
明らかに緊張してる。
芽依ちゃんは、にこっと笑った。
「よろしくねっ」
それだけ――
玲央くんの顔が、さらに赤くなる。
自然と、三人で教室へ戻る。
「じゃあ、また後でねっ!」
芽依ちゃんが手を振る。
私も振り返す。
玲央くんは――まだ見ていた。
ドアの方を。
「……ふふっ」
「な、なに?」
「よかったね」
揶揄ってみる。
「あー……はい」
なぜか敬語。
思わず吹き出しそうになる。
教室に戻ると、
玲央くんがぽつりと言った。
「……俺、もう莉愛ちゃんのそばにいるわ」
「え〜、なにそれっ」
笑いながら席へ向かう。
机の上には、新しい教科書。
(いよいよ、始まるんだ)
胸の奥が、少しだけ弾んだ。
読んでいただきありがとうございます。
七つの領域、それぞれの役割と空気を
感じてもらえたら嬉しいです。
特に「藍」と「紫」は、
この物語の核に関わってくる場所になります。
ほんの少しだけ違和感を残しつつ、
これからに繋げていきます。




