地上授業——女子会、開幕
「は〜、さっぱりした〜っ!」
みんなで作ったカレーを食べ、
片づけも終えたあと。
お風呂から上がり、
部屋着に着替えた私と詩乃ちゃんと芽依ちゃんは、
宿舎の廊下を歩いていた。
まだ少し、
みんなで話していたい気分だった。
「もう少し、みんなで喋りたいなぁ」
「私もっ!」
芽依ちゃんの言葉に、詩乃ちゃんがすぐ飛びつく。
「それじゃあ、芽依ちゃんの部屋に——」
そう言いかけた、そのとき。
「あっ! 二人ともー! いたー!」
今日一日で何度も聞いた、
元気いっぱいの声が廊下に響いた。
なれちょが、ぶんぶん手を振りながら駆けてくる。
「どこにもいないんだもんっ! お風呂、一緒に入りたかったのにー!」
「な、なれちょがいなかったから、別の子と行ったのかなって……」
嘘はついてない。
「あー、そっかー! じゃあさ、部屋で話そっ!」
(え、えっと……)
今は、いつものメンバーでいたい。
でも、そう言ったら仲間外れみたいだ。
(どうしよう……)
そのとき、視界の端に白い髪が揺れた。
真耶だ。
私は反射的にその腕を引き寄せた。
「っ……ん?」
「ご、ごめんっ! 今からこの子の部屋に行く約束してて……!」
勢いのまま言葉をつなぐ。
「その……あんまり大人数だと緊張しちゃう子だから、今日はごめんねっ」
一瞬の沈黙。
真耶は私の顔を見て、
「……ワタシ、ヒトミシリ、ハゲシイ。ゴメン」
なぜかカタコト。
でも、
(助かった……!)
「そっかー! 約束してたならしょうがないかっ!」
なれちょは笑ったけど、
少しだけ寂しそうだった。
胸が、ちくりと痛む。
「それじゃ、また寝るときねー!」
なれちょは手を振りながら去っていく。
角を曲がって姿が見えなくなるまで、
私はなんとなく手を振り返していた。
◇ ◇ ◇
真耶の部屋に入ると、畳の匂いがふわりとした。
低い机を囲んで座布団に座ると、
なんだか急に旅行に来たみたいな気分になる。
「てか、うちまで混ざってよかったの?」
真耶が壁にもたれたまま聞く。
「もちろんっ!」
芽依ちゃんがにこっと笑った。
「むしろ、真耶ともっと話してみたかったのっ!」
真耶は少し目を丸くして、
それから小さく笑った。
「……ありがと」
短くそう言って、向かいに座る。
「噂には聞いてたけど、なかなか濃い子だね」
「噂?」
詩乃ちゃんが首を傾げる。
「莉愛たちのクラスに、距離感バグってる子がいるって噂」
「……さっきの子でしょ?」
思わず、私と詩乃ちゃんは顔を見合わせた。
「莉愛があんなふうに逃げるくらいだもん」
「に、逃げてないよっ」
「逃げてたよ?」
「うっ……」
真耶がくすっと笑う。
「あの……悪い子ではないんだよ?」
「うんうん」
私と詩乃ちゃんは頷き合う。
「すみちゃんのことも、一番に気づいたし」
「ちゃんと周り見てるよねっ」
すると芽依ちゃんが苦笑いした。
「そうなんだよねぇ。悪い子ではないんだけど……ちょっと近いんだよね」
(……あれ?)
私は目を瞬かせた。
「芽依ちゃん、なれちょのこと知ってるの?」
「初等部で同じクラスだったの。五年と六年」
「えーっ!」
詩乃ちゃんが身を乗り出す。
「どんな子だったの?」
「うーん……」
芽依ちゃんは少し考えてから言った。
「特定の仲いい子がいるっていうより、いろんなグループに自然といる感じかな」
「あぁ」
真耶が納得したように頷く。
「“前からこのグループにいました”って顔で入ってくるタイプだ」
「わっ、うん!」
芽依ちゃんが机を指差した。
「まさにそれ!」
みんなで吹き出す。
「じゃあ、なんで私たちの班に来たんだろう?」
詩乃ちゃんの疑問に、真耶が即答した。
「莉愛たちが“イケてるグループ”だから」
「えっ!?」
「私たち、イケてるのっ!?」
詩乃ちゃんの目が輝く。
「詩乃、そこ喜ぶんだ」
「だって嬉しいもんっ!」
素直すぎる返事に、また笑いが起こる。
「そりゃそうでしょ。双輪試走の成績いいし、注目の先輩たちとも仲いいし」
一拍置いて、真耶が私を見る。
「莉愛に至っては、その先輩の妹だし」
「うぅ……」
なんだか急に居心地が悪い。
「そういえば」
真耶がにやっとした。
「利玖のアプレンティス、いるよね?」
「玲央くん?」
「利玖のこと、相当好きでしょ」
「わかる?」
思わず私も笑ってしまう。
「わかる〜!」
芽依ちゃんまで乗ってきた。
「ねぇねぇ!」
詩乃ちゃんがぐいっと芽依ちゃんに近づいた。
「最近、玲央くんと仲いいよねっ?」
「っ!」
思わず背筋が伸びる。
「うん! 今日も、かまど作るの手伝ってくれたの!」
「「おぉ〜!」」
私と詩乃ちゃんの声が綺麗に重なった。
(やるな、玲央くん……!)
真耶が頬杖をつく。
「カナタも遂にイケてるグループ入りかぁ」
「なんで嬉しそうなの?」
「弟の活躍は嬉しいからね」
「弟なんだっ!?」
「当然」
真耶が即答する。
その顔がおかしくて、思わず笑ってしまった。
そして何でもない顔で言った。
「そのうち莉愛も、うちの妹になるだろうし」
「へっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「結婚式のスピーチは任せな」
「えっ!?」
顔が一気に熱くなる。
「じゃあ私、友人代表やるっ!」
「私も!」
「ちょ、ちょっとみんな何言ってるの!?」
部屋の中が、笑い声で溢れた。
ひとしきり笑った後、
詩乃ちゃんがふと思い出したように言った。
「そういえばさ。なんで“なれちょ”なんだろう?」
「あー、確かに」
真耶が頷いた。
「名前に全然かすってないよね」
みんなで首を傾げる。
すると真耶が、ぱちんと指を鳴らした。
「……“馴れ馴れしい”で、なれちょ」
「ちょっと真耶っ!」
「ひどいっ!」
「でも、ちょっとありそう……」
「「芽依ちゃんっ!?」」
私と詩乃ちゃんの声がまた重なった。
私は首を振った。
「違うよっ。きっと、もっと可愛い理由だよっ」
「莉愛は甘いなぁ」
真耶が笑った。
私たちも、つられて笑った。
こうして、地上授業一日目の夜は、
にぎやかに更けていった。
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