13話 少年とヒーロー
俺は大きくなったら公安になるんだ。お前ならきっと公安になれるって友達もママもパパも、みんなが口を揃えて言う。だって俺は優秀なんだもん。絶対に真壁さんみたいな異能力者になるんだって。
真壁一郎[まかべ いちろう]。公安トップクラスの実力を持つ3TOPの一角で圧倒的な人気を誇る。子どもたちは誰もが彼に夢中で俺らのヒーローだった。それは俺にとっても変わらない。
キーンコーンカーンコーン
朝のホームルームが始まるようだ。しかしチャイムが鳴ろうとみんなは喋るのをやめようとしない。
いつも通りの朝、いつも通りのクラス。
でもなんだかいつもと雰囲気がぜんぜん違うように感じた。
自然とワクワクしてしまうような。
「みなさん、静かに。今日は4年A組に新しい友だちが来ます。さあ、入ってきて。」
最初に目に入ってきたのは目を奪われるほどの銀髪。次第に顔全体が自分の頭の中にすっと入ってくる美形の少年だ。どこか儚げで、壊れてしまいそうで。それでいて『我』を持った強い目をしていた。
「白金 御影[しろかね みかげ]です。将来の夢は公安。よろしく。」
俺の通う国公立異能者学園では警察や公安志望も多かった。
でもこいつは、他のクラスメートとは違う予感がした。
いつだって俺は成績一位。座学だって異能力の実技だって。一瞬たりとも負けることはなかった。御影が転校してきてからも。ただこいつは圧倒的な追随を許さない俺の常に真後ろにいた。
独走を邪魔された、とは思わなかった。悪い気はしなかった。それどころか自分に追いつく、そして追い越せるだけのポテンシャルを持つ人間。すべてが刺激的だった。
「お前俺んちに遊びに来いよ。いつも呼んでもらってて悪いからな。」
「マジで!?いいのかよ。」
次第に彼とは互いの家へ行き来するほどの関係性になっていた。
「お邪魔します。」
「君が御影がよく言ってる鉄也君かな?はじめまして。いつも御影がお世話になってるよ。」
開いた口がふさがらない塞がらない。人生、こんなことあるんだなって。
そこにいたのは真壁 一郎、本人だった。
「えっ、真壁さん!?」
「あれ、御影伝えてなかったのか。事情があって御影と同居してるんだよ。まあ家事は任せちゃうことが多いんだけどな。」
家でのだらしない姿の真壁さん。より人間としての親近感も湧き俺は余計に真壁さんのことを尊敬するようになった。
家に帰ってからどうしても御影と真壁さんの関係性が気になってしまった。
真壁さんは独身のはずだ。御影は実の子ではないのだろう。探りたくなった。おれの知らない真壁さんをもっと知りたくなった。
それが良くなかった。
真壁一郎 白金
ついつい検索検索してしまった。
白金夫妻死亡、異能力者の仕業か。
◯月✕日、午後三時、△△市に住む夫婦が死亡したことが発覚した。遺体は残っていなかったものの出血量から死亡と見て間違いない。独特な血痕が残っていたことから異能力者による誘拐をされた可能性が高い。真壁 一郎が到着したときには白金夫婦の息子である10歳の男の子、白金 御影くんがクローゼットの隅で縮こまっていたという。誰がなんの目的で白金夫妻を殺したのか、真相は闇へと放り投げられた。
あいつの両親は死んでいた。真壁さんですらそれを守れなかった。公安は夫妻の血痕を発見した近隣住民の通報を元に真壁さんを出動したらしい。でもそれじゃあ遅かった。
俺は俺の守れる範囲の大切な人を守りたかった。そのために公安に入りたかった。ただそれは本当に俺のしたかった事のためになるのか、それで俺は後悔しないのか⋯⋯。
俺は転校して地元の小学校へ通うことにした。俺が守りたかった川崎の地の。
そこでは『普通の子』だらけだった。異能力が使えない子も弱い子もいる。それでも自然と後悔はなかった。
◇◇◇◇◇
「とある事件をきっかけにさ、俺が守りたいものって公安として守れるのかなって。自分を捨てて機械的に人を守るのは嫌だ。俺は俺の意思で眼の前の人間を守りたいって思ったんだよ。たとえ何を犠牲にしようと。だからこそ俺が間違ってるって否定されないように公安に勝たなきゃいけねえんだ。」
「すまない、会ったばかりで振る話じゃなかったな。」
迅は誠意を持って謝るがきちんと前方を見て運転に集中している。
「いいや、問題ない。だからこそ俺は、ヤクザを潰す。俺が間違ってないって証明してやるんだ。」
彼らはヤクザのアジトへと少しずつでありながらも距離を縮めていた。




