第四十四章:「吐き捨てられた言葉」
病院を出ていく仁さんはどこか冷静で、
でもその冷静さの中に深い怒りを隠しているようだった。
その姿を見た私は、どうしても泣きそうになった。
仁さんが私を守ってくれると信じられたから。
”これ以上、誰にも迷惑をかけたくない”
心の中でそう誓いながらも、足元がふらつく。
その瞬間、病院の入り口に停まった車が目に入る。
一瞬、目を見開いてしまった。
その車の中に、あの顔が見えたからだ。
「咲…さん」
体が硬直して、その場から動けなくなった。
咲は車の中から降り、私の目の前に立つ。
「ひなちゃん、どうしたの?…酷い怪我ね」
心配する言葉とは裏腹に、私を見るその目はどこか冷たい。
「何かあった?」
咲の表情は、明らかに私が元気がないことを知っていて、それを隠そうとしているようにも見えた。
でも、私は何も答えられなかった。
「…すみません。帰るので。」
咲はその場を後にしようとする私をじっと見つめて、口を開いた。
「ひなちゃん、このままで後悔しない?」
その一言で、私の胸が締め付けられる。
咲の言葉は、全てを物語っているようだった。
「私、ずっと仁のことを想っていたのよ。
そして、ずっとあんたに嫉妬してた。」
私を見つめるその目には、得体の知れない何かが宿っていた。
「私だって、仁を手に入れたい。仁の心が欲しいの。
なのになんであなたが…後から現れたあんたが彼の特別になれるの…!」
私が言葉を返すことなく、咲は続けた。
「あなたが私にできることは、せいぜい目の前からいなくなることよ。
あんたも分かるでしょ?自分のことを守りたいなら、私の元に戻す方法を考えなさい。」
その言葉は、まるで本音を言い切った後の満足感に満ちていた。
何も言わずに去っていった咲の背中に、私は何も言い返せなかった。




