第四十三章:「あなたがいてくれるなら」
病室の天井は、やけに白かった。
蛍光灯の光が滲んで、ぼんやりとしか見えない。
少し体を動かそうとすると、全身に痛みが走る。
足首には包帯。
転倒したとき、足を捻ってしまったらしい。
「…やっちゃったなぁ」
声に出すと、少しだけ涙が出た。
体の痛みよりも、心が痛かった。
怖かった。
本当に、怖かった。
誰がやったのか、もう分かっている。
でも証拠がない限り、何も言えない。
誰かを責めたところで、何も戻らない。
「仁さんには…絶対言わないって思ってたのに」
でも、こんな姿になってまで隠し通すなんて、無理だよね。
杏奈が泣きながら付き添ってくれていた。
しばらくして、病室のドアが静かに開いた。
振り返ると、そこには、仁さんがいた。
何も言わずに、ただ立ち尽くしている。
目が合った瞬間、私は反射的に俯いた。
「…なんで」
そう言うのがやっとだった。
でも、声が震えてしまって、言葉がうまく届かなかったかもしれない。
仁さんは、私のベッドのそばまで来ると、ゆっくりと腰を下ろした。
その目には、見たことのない色が宿っていた。
怒ってるような、悲しんでるような、何か…違う感情。
「ごめん」
たった一言だった。
それなのに、その言葉が胸に刺さって、涙が止まらなかった。
「なんで…謝るの、仁さんは悪くないのに…。私が、勝手に…」
「違う。俺が、何もしてこなかったからだ」
低く、でも確かな声。
仁さんのその言葉に、私は涙で滲んだ目を閉じた。
「来ないと思ってた。
…でも、来てくれて、よかった」
小さくそう伝えると、仁はふっと眉を下げて、私の手をそっと握った。
その手は、思っていたよりも温かかった。
「もう、黙ってんなよ。何があっても相談して欲しい。…俺がいるから」
”俺がいる”
たったそれだけの言葉が、どれだけ欲しかったか。
どれだけ、待っていたか。
私はもう、何も強がれなかった。
「…ずっと、言いたかったよ」
ぼろぼろと涙がこぼれる中、私は仁さんの手を握り返した。
「怖かった…。
でも、あなたがいてくれるんだったらそれだけでいい。」
今はそれしか、言えなかった。




