第四十二章:「俺のせいで」
夜の2時。
仁のスマホが震えた。
LINEでもなく、店の業務連絡でもない。
杏奈からの着信だ。
嫌な予感しかしなかった。
「…どうした」
出た瞬間、杏奈の声が泣いていた。
『ひな、病院に運ばれたの』
心臓が止まった。
『帰り道に後ろから押されて、階段から落ちて…。
頭打って意識がなくなって…今は意識戻ってるけど、顔も手も…ひどく怪我してて…』
言葉が出なかった。
『前に咲が話してる男と、ひなが襲われた場所の防犯カメラに映ってた男、すごく似てた。
仁さん、もう…限界だよ。ひなをこれ以上傷つけないで…』
仁は無言のままスマホを握りしめた。
痛いほど、指に力が入っていた。
”俺が…守らなかったからだ”
ずっとどこかでわかっていた。
咲が異常になっていることも、ひなが狙われていることも、感じていた。
でも、太客という存在が、自分の判断を鈍らせていた。
「仕事だから」
「売上に響くから」
「店に迷惑をかけたくないから」
どこかで言い訳していた。
でも今、そんなものが一瞬でどうでもよくなった。
血の気が引くような怒りと、自分への嫌悪感がこみ上げてくる。
誰よりも大切にしたいと思った人を、ひなを守るべきだった。
“仕事”の外に出ることができなかった自分が――全部、間違っていた。
もう無かったことにはできない。
仁はスマホを持ったまま、上着を掴んで家を出た。
”咲…もう次はないから”
その目は、いつもの仁ではなかった。
冷静でもなく、飄々としてもいない。
ただ一人の男として、大切な人を傷つけられた怒りが、静かに燃えていた。




