表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/48

第三十八章:「変わらない覚悟」

咲の動きが妙だ。

ここ最近、明らかにおかしい。

名前を知らないはずなのにひなちゃんと呼び、そして話題にあげてくる。

笑顔の奥で、何かを探ってるような感じがしていた。

気のせいだと思いたかった。

でも――俺の勘はずっと当たる方だ。


咲は俺の太客。

そしてそれは、店の中でもトップクラス。

何年も前から付き合いがあって、金も時間も惜しみなく使うタイプ。

だからこそ、簡単に切れない。

感情で動いて、俺一人の判断で関係を壊せば、俺の成績はもちろん、店にもダメージがいく。


下手に刺激したら何をするか分からない、そういう危うさも咲にはある。

それは、ホストをやってきたこの数年で、嫌というほど見てきた類の人間だ。


そんな中、後輩ホストが俺に耳打ちしてきた。


「仁さん、ちょっとヤバい話があるんすけど…。咲さん、裏で何か探ってるっぽいです。

最近、別のスタッフに色々と聞き回ってるらしくて…。

たぶんターゲット、仁さんの“本命”かと」


息が詰まりそうになった。

やっぱりか――その言葉が、頭の中で鳴る。


ひなに直接何かしたとは聞いていない。

けど、動いている。間違いなく。

俺が何度かひなと店の外で会っていたのを、どこかで気づいたのか。

それとも、ただの勘なのか。

どちらにせよ、咲がそこに執着を始めたら、止まらないのは目に見えてる。


ひなには、絶対に知られたくなかった。

咲のことも、こういう裏の世界の人間関係も。


今まではどれだけ気を遣っても、俺の“仕事”の枠から抜けなかった。

でも、ひなだけは違った。

最初はただの客だったはずの彼女が、俺の心の中にどんどん入ってきた。


だから、守りたいと思った。

一人の男として、彼女の傍に立ちたかった。

けど、それを現実にするには、あまりに多くの代償が必要だった。


売上が落ちれば、俺の地位は危うくなる。

俺が潰れるだけならまだいい。

でも、今の俺の売上で店全体が回っている部分もある。

従業員、集客、広告、全部が俺の数字に依存している現実。

それが崩れれば、俺一人じゃなく、何十人の人生に影響する。


それでも、もしも咲が本当にひなに何かしていたとしたら?

守らなきゃ――それが俺の中でどんどん強くなっていく。


「どうしたらいい…」


心の中で呟いた。

咲を怒らせずに、ひなを守る方法。

そんな都合のいい選択肢は、どこにもなかった。


俺が中途半端な態度を取り続ければ、ひなは壊される。

でも俺が咲を切れば、すべてを失う。

この仕事をしてきて、何度も“割り切ること”を覚えたはずなのに。

今だけは、割り切ることができなかった。


ただ、一つ確信してることがある。


――もし、ひなに何かあったら。

俺は全部捨ててでも、咲に牙を剥くだろう。


その覚悟だけは、もう心に決めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ