第三十七章:「耐えればいい、ただそれだけ」
杏奈に話してから数週間が経った。
相変わらず、いや。あの頃よりも嫌がらせは酷くなっていった。
ポストには何度も見慣れない手紙が入っている。
差出人は一切書かれていない。
その中身は私のプライベートに関することばかりが入っていた。
次第にその内容は過激になっていき、私の家や会社の情報が詳しく書かれていることもあった。
そしてある日、会社のロッカーを開けると、大切にしていた物が壊れていた。
私が大事にしていた、仁さんとのツーショット。
それを見たとき、冷や汗が背中を伝った。
私はその写真を、ずっと大切にしてきた。
なぜ壊されなければいけなかったのか、理由が分からなかった。
家に帰ると、玄関先の灯りがついていた。
でも、私はそれを消し忘れた記憶はない。
何もないはずなのに、確かに灯りが点いていた。
そしてその直後、何かを強く感じた。誰かが見ている、そんな気配。
振り返っても誰もいない。
ただただ、自分が恐れているだけかと思っていたけれど、その不安はどんどん大きくなっていくばかりだった。
それでも、私は仁さんに何も言えなかった。
心配をかけたくなかったし、咲の嫌がらせだという証拠が何もない。
もし彼にこのことを話したら、余計に悩ませてしまうだろう。
”迷惑をかけたくない”
その気持ちが何よりも先行していた。
でも、不安と恐怖は募るばかり。
私の周りの空気が、環境が、次第におかしくなっていく。
見えないものが、いつの間にか私を追い詰めているような気がしてならない。
毎晩、眠れない日が続いていた。
家に帰るのが怖い。外に出るのも怖い。
仁さんには、心配をかけたくなかった。
彼はホストだから仕事が忙しいし、私のために時間を取ってほしくない。
それに、私がこんなことで悩んでいる姿を見せるのが嫌だった。
彼にはもっと明るくて前向きな自分を見せていたかった。
だから、絶対に言わなかった。
でも、嫌がらせはエスカレートする一方。
私をどんどん追い詰めていく。
唯一頼れる杏奈にもあれ以上は話していない。話せない。
きっと杏奈は私のために、無茶なことをしてしまう。
ただ、私はひたすら耐えることしかできなかった。
このまま、すべてを乗り越えなければいけない。
心の中で強く誓った。
”これ以上、誰にも心配をかけたくない”
でも、次第にそれが限界に近づいてきていることを感じていた。
無理をして普通を装うことに、限界が近づいていた。




