第三十五章:「あなたは私の”モノ”」
”あの子、また来てる”
私の視線は、自然と仁を追いかけていた。
私の席から微かに見える仁の横顔。
仁が笑顔を向けているその相手が誰かなんて、考えなくても容易に分かる。
“やっぱり”そう思った。
仁があの子を特別視しているのが、私にはすぐ分かった。
最初は全く気にしていなかった。
だって、私は仁をずっと見てきたし、ずっと仁の”1番”だったから。
彼は私のモノ。
他の客なんか、私の足元にも及ばない。
私と仁の人生に出演する、ただの脇役でしかなかった。
でも今、ふと感じる違和感。
あんなに冷たい、無表情で誰にも興味を示さない仁が、
あの子にだけは違う顔を見せている。
「……ふーん、面白い」
あの子もただの“客”でしかない。
そう思っていても、段々と沸き上がる黒い感情。
あの子の無邪気な笑顔が、私の怒りに火をつけたのを感じた。
“私はあの子と違う”
そう、私は特別なの。仁にとっても。
あの子にはその「特別」の意味を理解させる必要がある。
「ねぇ、仁を呼んで。」
ヘルプでついているキャストに笑顔で声をかけると、
少し引き攣った顔で、小さく「はい」と答えた。
少しして、仁が私の席に戻ってきた。
「ごめん、遅くなった」
仁はいつも通りの様子を装っている。
でも。
あの子と一緒にいた余韻が残り、表情がどこか穏やかであることを私は感じた。
それがまた、私の苛立ちと独占欲を煽っていた。
“私の、私だけのモノでなきゃ、ダメなの”
その言葉が頭の中で繰り返し響く。
私は何もかも察している。
あの子がどれだけ純粋で、仁もあの子を特別に思っているということを。
でもそれが、私の「支配」から外れるなんて許せない。
私が”全てにおいて1番”じゃなきゃダメなの。
「この後、私と飲みに行ってくれるよね?」
仁が少し戸惑ったように顔を曇らせる。
でもすぐに、いつもの表情に戻った。
「ごめん、今日はちょっと。」
その一言が、どこか虚しく響く。そしてまた察した。
”あの子との予定があるんだ”
それが私の黒い感情をヒートアップさせた。
“どうしてあの子と?”
“私じゃダメな理由は?”
私は思いっきり口角を上げて、仁の目をじっと見つめた。
「今度3桁使う予定だからいいよね?
じゃあ、終わったら連絡して」
その言葉が、仁の心を揺さぶることを願って。




