第三十一章:「突きつけられる現実」
ひなと仁が久しぶりに言葉を交わして、
ほんの少しだけ、昔みたいな空気が戻りかけたとき。
店の入り口が騒がしくなり、他のキャストやお客さんたちが不思議そうにしていた。
「仁は!?早く仁に会わせて!!」
店内に鳴り響くBGMに混じり、微かに聞こえた叫び声。
はっきりと「仁」と呼んでいた。
入り口で止めるスタッフを振り払い、
香水のきつい匂いとともに、ひとりの女性が入ってきた。
長い髪、派手なメイク、ブランド品で固められたファッション。
その人が“この世界”の人間であることは、ひと目で分かった。
「あ!仁〜〜、今日連絡してないけど来ちゃった!」
その言葉と共に彼女の視線がまっすぐ、ひなを刺す。
仁が少し身を起こした。
「…咲、何してんだよ……」
「何してんのじゃないわよ。あんたにいくら使ってると思ってんの?
私が会いたい時に会いに来て何が悪いの。」
声は高く、周囲の空気をピリつかせた。
スタッフのひとりが気まずそうに視線をそらす。
「ねえ、誰? この女。新規の子?
それともまた、お客さん口説いてんの?」
ひなは一言も返せなかった。
でも、その目は咲を正面から見据えていた。
仁はひなをちらりと見て、息をひとつ吐いた。
「…咲。今日は帰ってくれ」
「は? 何それ。あー、マジ無理。
どんだけ貢いできたと思ってんの。あんたってほんと、最低だね」
その言葉は、どこか見慣れた光景だった。
だけど、今のひなには、鋭く胸を刺すものだった。
“これが、仁の世界”
仁は、なだめるように咲をその場から離そうとするけれど、
咲は去り際に、ひなを睨んで言った。
「せいぜい、長続きしませんように。
あんたみたいな女、どうせ捨てられるよ」
吐き捨てられたその言葉に、ひなは反論しなかった。
ただ、仁の顔を見た。
どこかで分かっていたはずのことを、突きつけられた気がして。
再会できて嬉しかった。
だけど、その“すぐ目の前にある現実”が、あまりにも酷で…辛かった。




