第二十二章:「私も誰かの彼女に」
季節は新しい春を迎えた。
仁さんと離れてから、私は時間を無駄にしないように、意識的に前を向こうとした。
一人で泣いた夜ももちろんある。
それでも週末は予定を入れて、なるべく一人でいる時間を減らした。
杏奈ともよく会って、他愛のない話をして、時々恋バナなんかもして。
仕事に忙殺される中、ある日、職場の後輩に告白された。
「ずっと先輩のこと、好きでした。」
その言葉に驚きながらも、どこか救われた気がした。
―――こんな自分でも、誰かに好かれることがある。
―――誰かに“ちゃんと彼女”として求められることがある。
そんな気持ちが、私の胸にすっと入ってきた。
何も迷わず付き合ったわけではない。
私は心の奥底にいる仁さんとの“本当の別れ”を覚悟していた。
自分の中に残る“仁さん”の影を無理やり押し込めるような感覚。
でも、時間が経つにつれ、その彼は私の手をちゃんと握ってくれる人だった。
連絡も毎日くれるし、何気ないことでも笑い合える。
(これが、普通の恋なんだ…)
そう思った。
でも、心のどこかに、ずっと「特別だった誰か」が棲みついていた。
仁さんとは、あれから一切連絡をとっていない。
LINEも、電話も、SNSも見ていない。
自分に言い聞かせるように、完全に切り離した。
中途半端な覚悟では、また同じことの繰り返しになる。
仁さんも何も送ってこない。それが余計に、正しかったんだと自分を納得させていた。
だけど、ある日の夜、
後輩である彼の寝息を聞いていると、心のどこかが“静かすぎる”ことに気づく。
(あの頃は、いつも心がざわついていたな)
懐かしくすら思う。
不安で、苦しくて、それでも会えたら嬉しくて、そんな日々。
あの愛は、決して穏やかではなかった。
でも、本気だった。痛いほど真剣だった。
今の恋は、きっと正しい。
だけど、「特別」ではない。
それを比べてしまう自分は、まだどこかであの人を探しているのかもしれない。




