第二十一章:「空っぽな夜に」
気づいたら、俺はまた酒をあおっていた。
もう酔っているのか、酔っていないのかさえわからない。
先輩との付き合いで顔を出した夜の店、周りについた嬢の顔が、ぼやけて見える。
名前も覚えてない。何を話したかもわからない。
ただ、その笑い声がやけに薄っぺらく響いて、苛立ちだけが残る。
(何してんだ、俺。こんなんじゃなかっただろ)
ひながいなくなってから、毎日が長い。
何をしても、埋まらない。
誰といても、満たされない。
仕事ではいつも通りの接客をする。
でも、帰ってくると何も残ってない部屋で、ただ天井を見てるだけ。
スマホを握り、ずっとLINEの画面を眺める。
既読がつかないままの、最後のメッセージ。
『ずっと応援してる』
その一言が、どうしても頭から離れない。
俺はバカだ。何もわかってなかった。
いや、分かっていたけど、気づかないふりをしてた。
ひなの想いも、言葉の一つひとつも、全部受け止める覚悟がなくて、逃げていた。
愛されることが怖かった。
そして自分が誰かに本気になってしまうのも怖かった。
裏切られることが怖くて、自分から距離を取っていた。
そんな俺を、ひなはまっすぐ見てくれていたのに。
「彼氏彼女なんて、意味あるか?」
そんな言葉でごまかしたのも、本当は怖かっただけだ。
関係に名前を付けてしまえば、必ず終わりが来る。
お金と欲望にまみれた街で生きてきたからこそ、普通の感覚すら失っていた。
大事なひなの生活を、人生を、心を、傷つけない自信がなかった。
責任が取れない…俺は逃げていた。
(あいつは成長したんだな。愛を手放してでも、前を向こうとしてる。なのに俺は…何してんだよ)
どれだけ仕事で成績を残そうと、どれだけ他の客が俺の心を掴もうと甘い言葉をかけてきても、
心の真ん中には、ひなしかいない。
だけどもう、どうしようもない。
あいつはもう、俺の世界にはいない。
自分が未熟だったことも、自分が壊したことも、全部、今になって分かる。
だけどもう遅い。
「ひな...お前がいなくなって、俺、なんにもなくなったよ。」
そう呟いて、また酒を口に流し込む。
きっとまた、今夜も眠れそうにない。




