第二十章:「愛を知るということ」
静かな朝だった。
窓から差し込む光に、フウが黄昏ながら丸くなっている。
私の心も、少しずつ穏やかさを取り戻し始めていた。
仁さんと出会って、たくさんのことを学んだ。
恋をする気持ち、心を寄せることの切なさ、そして、愛することの尊さ。
最初はただの「癒し」だった。
慣れない仕事と都会の孤独の中で、彼の存在が少しずつ心の支えになっていたことは間違いない。
でも、いつからかその存在は、私の中で少しずつ色を変えていった。
優しさが嬉しくて、言葉に一喜一憂して。
そして気づけば、私は本気で仁さんを想っていた。
見返りなんて求めなかった。
好きだから一緒にいたい、ただそれだけだった。
でも——
愛を伝えるということは、時に残酷だ。
伝えることで壊れてしまうものもある。
伝えないことで守れる距離もある。
私は仁さんを好きだった。今も、その気持ちに変わりはない。
でももう、それを彼にぶつけたりはしない。
愛とは、形にすることじゃないのかもしれない。
ただ、その人の幸せを願えること。
それが「愛すること」なのかもしれないと、今なら思う。
仁さんはきっと、自分の中の葛藤と戦っていた。
それを分かっていて、私は待った。
でも、どこかで私も疲れていた。
誰かに「愛されたい」と願うより、私は「愛することを知った自分」を大切にしたい。
だから、仁さんのことはずっと心にいる大切な人として
——思い出にしよう。
忘れるなんてできない。
忘れたくもない。
だって、あの時間があったから、私は成長できた。
たくさん泣いて、たくさん笑って、
心が締め付けられるような夜もあったけど、
それもすべて、大切な人生の一部だった。
(ありがとう、仁さん)
その言葉を、声に出さずに呟いた。
もう、届かなくてもいい。
この気持ちは、誰のためでもなく、私自身のために。
大人になった私は、ようやく過去と優しく手を振れる気がした。
窓の外は、少しずつ春の気配が近づき、仁さんと初めて会った日から二年弱が経過していた。




