第十三章:「俺も」
スマホの画面に映るひなからのメッセージ。
その通知がきたとき、俺は何も考えずに手を伸ばしていた。
でも、そのメッセージを見て、時が止まった感覚になる。
ひなの言葉は、予想以上に心を突き刺すようなものだった。
「私、仁さんのこと好きになっちゃった」――その一文が、頭の中で何度も繰り返される。
“俺も”――。
その一言を、今すぐにでも送りたい…でも、すぐには送れなかった。
ひなの気持ちは、もう知っていた。
最初は気づいていないフリをしていたけれど、ひなが何度も目を合わせ、言葉にできない想いをこぼしそうになるたびに、俺はその気持ちを察していた。
だが、俺がもしその気持ちを受け入れてしまったら、どうなるだろう。
「好きだよ」と言ったら、ひなはどうなるんだろう。
俺たちは“お客さんとホスト”の関係。
それを超えて、ただの一人の男と女になったら、今までのようにはいかないのではないか。
あの場所も、仕事も、今の関係も、すべてが崩れてしまうかもしれない。
ひなは純粋で、まっすぐな心を持っている。
そんなひなの気持ちを受け止めることができるのか、俺にはわからない。
愛なんて、俺は知らない。
俺の中には、ひなが欲しがるような“愛”なんて存在しない。
そう思うと、急に胸が苦しくなった。
ひなの気持ちはちゃんと伝わっている。
俺もどうしようもないほど、ひなを特別に思っている。
その気持ちを、何とかして伝えたい。でも、どんな言葉で伝えるべきかわからない。
画面を再度見つめて、深く息を吐いた。
返事を送るには、まだ何かが足りないような気がした。
“好き”と言う言葉を使うことが、ひなにとって良いことなのか、悪いことなのか、全く分からない。
俺はただのホストで、ひなは「お客さん」――それが正しい距離だと思っていた。
だけど、もう隠しきれない。
ひなも俺に期待しているし、俺もひなを必要としている。
ただ、この関係がどうなるのかを考えたとき、答えが見えなくて、怖くて、そして不安だった。
“好き”という言葉は、まだ使わない――俺が出した答えだった。
でも、ひなが期待していることに対して、俺が今できること。
それは、きっと一歩踏み出すことだろう。
やはり、伝えなければならない。
そのまま指が動く。
彼女の言葉に、何とか応えたい。
長く迷った末、言葉を送った。
――――――
ありがとう。
俺も、ひなを大切に思ってる。
気持ちはちゃんと伝わってるから。
――――――
送信ボタンを押した瞬間、スマホを手放した。
何か、胸の中に重く、どうしようもないものが積もっていた。
でも、今の俺がひなに伝えられること、それはこれが限界だった。




