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489 結局太るんか〜い!

「お久しゅうございます、陛下」


 わたしは視線を下げることなく、まっすぐに玉座の方を見返した。

 平民の態度としては非礼だけども、聖女なのでね。今のところ。


 国王陛下、正式なお名前はとっても長いらしいんだけど、世間的にはテレシウス二世として知られている。

 下町庶民の人気はフツー。とくに愛されてるわけでもないけど、憎まれてもいない。なんていうか……特徴のない「王様」って感じだ。


 風貌も、こう……特徴が薄い。顔色は不自然に良くて、たぶん化粧か魔法で調整してるんじゃないかな。

 あのキラキラした姉弟のご父君にあらせられるわけだし、お顔立ちは、それなりのはずなんだけど……と、言葉を濁すあたりで察していただきたい。

 お顔を含めて全体に……だらしない感じに脂肪がついてらして、ですね。恰幅が良いとか威厳があるとか、肯定的に表現してさしあげてもよくってよ? としか表現のしようがない。忌憚なくいってしまうと、中年太りがけっこう進んでるオジサン……かな。

 実のところ、太ってるのは珍しくない。我が国の男性……いや女性もなんだけど、中年過ぎると半分以上こうなるんだよね。たぶん、食生活のせいじゃないかと思う。前世日本の食事と比べて、肉と脂肪が多いからなぁ。

 貧しい平民もちゃんと太る。貧しいと野菜の摂取量が減るのよ。冷涼な我が国では、野菜も時期によっては高級品だ。なんとか腹を満たそうとすると、安物で脂ばっかの肉とパン、って食事になるもの。そりゃ太る。

 上流階級は当然、贅沢な食事で太る。

 お金や権力があってもなくても、結局太るんか〜い! とは思うよな。


「なんのために呼ばれたかは、わかっておろうな?」


 国王陛下は、ふわっとした金髪を肩に垂らし、右肘を玉座の肘掛けに突いて、考え深げに顎を支えてらっしゃる。つまり、やや前屈みになってらっしゃるので、率直にいって……お腹がキツそう。

 簡易的な王冠――王冠って何種類もあるって知ってた? 儀式や場面に応じて複数用意されているんですって――のせいで、額の生え際がどうなってるかは不明だけど、なんとなく後退してそう。髪がやわらかいと、生え際の後退も早い傾向がない? 偏見かな?


「あらためて魔力鑑定の場をもうける、と伺っております――なぜ、その必要があるかは理解いたしかねますが」


 後半は、リートの指示でぶっこんだフレーズだ。絶対こういう展開になるから嫌味をかましてやれ、といわれたのだ。

 要は、わたくし不愉快でしてよ、って意思表示ね。こっちは実績ある聖属性魔法使いなんだよ、わかってる? って話をしてるわけ。


「そう思うのも、もっともだ」


 そういって、陛下は前のめりをやめた。やっぱりお腹がキツかったんじゃないかと思う。


「納得のいくご説明を期待しても?」


 これもリートに暗記させられたやつ……。わたしじゃ、こんな返しを思いついても、王様相手に口にする度胸はない。

 でも、舐められたら終わりだと諭されたら、頑張るしかないじゃん。

 必死なんだよ。インチキからの幽閉・人質コンボを避けるためだもん。


「無礼な……」


 どこからか、ひそひそ声がする。

 ……負けるなルルベル。たしかに平民の態度じゃないけども。……でも、わたしは聖女なんだから! これでいいんだから!

 聞こえなかったふりをチョイス。聖女スマイルを発動。


「聖属性の持ち主は、一世代に一名のみ。そう聞いておる――だが、そなた以外にも聖属性の者が出現したことは、知りおろう?」


 自称・聖属性のことでしたら、知りおりますわねぇ……。

 できるだけ鷹揚な感じにうなずくと、陛下もうなずき返した。


「その者も、ここに招いておる」


 ずい、と。玉座の脇から前に突き出された――文字通り、近くに控えていた侍従によって背を押されたチェリア嬢が、おっとっと、って感じで進み出た。

 あっ、いたんだ……って感想。制服じゃないから、わからなかった。

 チェリア嬢も、わたしと似たような白を基調にしたドレス姿。なかなか似合ってるんじゃないかな? 髪もアップにして、いつもよりずいぶん大人っぽい。

 チェリア嬢を発掘して表舞台に出したのは、ウフィネージュ殿下じゃないかと思ってたんだけど……殿下のお姿は、ないわね? それをいえば、王子もいない。


「あらためて、問おう。チェリア嬢、そなたの魔力は聖属性で間違いないか?」

「はい」


 そこはキッパリ、チェリア嬢は回答した。

 たぶんだけど、本人はそう信じてるんだろうなぁ。リート曰く、あまり深く考えないで周りの言葉を信じるタイプだそうだから。家族が生属性だから自分もそうだと思っていた昔も、魔物を倒せるんだから聖属性だといわれた今も。

 ……この子、そのうち詐欺被害に遭うんじゃない? ていうか、今現在まさにそうじゃない? 聖属性詐欺に利用されてない?

 前世でいわゆる闇バイトの受け子みたいな……簡単に矢面に立たされて、責任とらされるやつだ。


「ルルベル嬢、そなたは?」

「聖属性で、間違いありません。神殿で判定されましたし、これまでに巨人の浄化、吸血鬼の捕縛ならびに犠牲者の浄化、魔物討伐作戦への参加などをかさね、実証して参りました自負もございます。今さら、判定をかさねる理由もないと存じますが――お望みとあらば、いくらでも」


 これもリートに用意された長台詞だよ! 噛まなくてよかった。

 なぜかチェリア嬢に、キッ! と睨まれたけども……。なんでだよ。


「わ、わたしも故郷で魔物を討伐した実績があります!」


 発言を求められてもいないのに、喋った! すごい度胸だ。

 前々から思ってたけど、チェリア嬢ってこう……無駄に勇敢だなぁ。

 彼女の勇敢な発言は、わたしに難癖をつける隙を与えてくれただけなのよね。


「浄化の実績は? それであれば、あなたの魔力が聖属性であることの証左になり得ますが」


 これは宮廷話法っていうか、浄化できてねーんなら聖属性じゃねーだろって意味だ。

 聖属性か否かを争点にするなら負ける気がしない。だって実際、わたしって聖属性魔法使いだし。


「……であるから、あらためて判定をという話なのだ」


 陛下がまとめて話を引き取ったのは、予測の範囲内だ。もちろん、リートの予測パターンのひとつ、ってことである……。あいつ怖い。

 プランAなら、次の台詞はコレかな……。


「わたしの魔力は聖属性と確定しているものと思っておりました。王都に巣くった吸血鬼の被害者の浄化は、いかなる力でなし得たものとお考えなのでしょう。王宮より賜った聖女の称号は、それほど軽いものなのですか? お聞かせいただきとう存じます」

「聖属性魔法は、呪符でも使えよう」


 ……いいおった! ほんとに、その論法で来た! マジかぁ……。

 ファビウス先輩が呪符開発の参考にしたのは、わたしの魔力だ。わたしがほんものの聖属性持ちだったから、あれが作れたというのに。しかも、威力が高いやつは、わたしが呪符を描いて魔力こめてんだぞ!

 おまえ一回、現場で呪符だけで戦ってみろよ……という内心を声にするわけにはいかず黙っているわたしに、陛下はやさしげな声でつづけた。


「そなたを偽物と指弾しだんしているわけではない。軽々《けいけい》に論じてよいものではないがゆえに、判定であきらかにしようというのだ。判定を拒否するならば、聖属性を詐称していると考えられてもしかたがなかろう」


 おぅ、これ脅しじゃん? ほんものの聖属性魔法使い相手に、なにぬかす。

 リート考案の台詞を容赦なく追加しちゃうぞ!


「拒否などしません。ですが、正しい判定をしていただけるのかは、疑問に思っております。不要な判定を敢えて追加するからには、理由があるでしょう。そちらの都合で、あるものをない、ないものをあると偽られても困ります。納得のいくご説明をいただけないならば、いただいた称号も返上いたしましょう」


 わたしがここまで抗戦するとは思ってなかったんだろう、陛下が顔をしかめただけで言葉を返さなかったので、一回休みと看做みなし、こちらのターン続行。


「わたしは、聖属性魔法を必要としてくださるかたの求めに応じ、何処なりと参る所存でおります。ですが、こちらの王宮ではそれが必要とされていない、ということでよろしいですね?」


 意訳すると、フーン、この国は聖女いらないんだ? じゃ、よそ行くね! って意味だ。

 そっちが脅してくんなら、こっちも脅してヤンヨ。

 これから魔王の復活に向けて、眷属の活動はどんどん活発になるんだからな。魔法的な防御をどれだけ厚くしても、限度ってもんがあるぞ。宮殿に引きこもってれば大丈夫って話じゃないと思えよな!

 そのときになって呼ばれても、絶対、行ってやんねーかんな! 呪符でなんとかなさればよろしいのでは? オホホホホ。


「やはり、そなたは聖属性を騙っておったのか」

「そう思われるなら、それで結構です。ご用がお済みなら、御前、失礼つかまつります」


 唸れ、必殺カーテシー!


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― 新着の感想 ―
本当に出ていくとは思ってないんだろうなぁ。 この国に家族いるし。 すごく面白いです。
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