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490 なにか適当なことつぶやいてくれる?

 ここまでバッチバチの展開になったのは、偶然でも勢いでもない。……いや、勢いはちょっとあるか。

 でも、事前にリートと話し合って決めた流れではある。

 多数のプランが組まれたんだけど、大雑把にいえば、目標はどれも同じ。わたしが周りと引き離されるのを避ける――つまり、監禁されないようにする、ってこと。


 属性判定なんか、受けても受けなくても、どうでもいいわけよ。受けないなら偽物だな! っていわれてもさぁ……受けたって、偽物扱いされるんでしょ。

 まともな判定者が来る場合は――つまり、エルフ校長の交渉がうまくいって、王家に楯突けるだけの気概がある神官が判定者として手配できた場合は、穏便に済ませることになってた。でも、今のところエルフ校長からの連絡もないし、本人の姿もない。まだ頑張ってるのかもしれないけど、間に合わないと思った方がいいだろう。

 ってことは、わたし、聖属性がないとされて、聖女の称号を奪われるの確定といっていいでしょ。

 称号返上だけなら、べつにいいよ。政治的な権力や地位がなくても、周りがうまく采配してくれると思うのよね。それこそエルフ校長でも、ファビウス先輩でも。わたしを聖属性魔法使いとして役立たせてくれるはず。

 残念ながら、我が国の王宮が同じようにやってくれるかっていうと、あんまり期待できないわけよ。王宮の権力を充実させるために利用される――それこそ、監禁コースでね――方が、可能性が高い。

 もしかすると、聖属性もないのに聖属性があると嘘をついた、つまり詐欺罪なんかも押し付けられるでしょ。

 だったら、決裂してもいいから逃げようぜ、って作戦だね。


 カーテシーを終えたわたしは、くるりと玉座に背を向けた。

 これもまぁまぁ非礼だけど、王族と聖女は同列扱いなので厳密にはセーフ。ただし、現場にいる人々の肌感ではアウトだろう。平民が国王相手に口答えした挙げ句、勝手に立ち去ろうとしてるんだからね。


「……まぁ待て、聖女」


 そういわれると、思わず足が止まってしまうのは……平民根性の発露かな。

 あるいは性格の問題かも。リートがいうように、接客業が長いわたしは「嫌われない」ことを優先して行動しがちなんだろう……どこかに落としどころを探してしまうし、誰とも喧嘩はしたくない。

 ここで「取り押さえよ!」みたいな展開になるのを避けたいのも、正直なところ。

 もちろん、簡単に負けるとは思ってないよ。うちの優秀な親衛隊にウィブル先生もプラスされてるんだから。

 でも、人数の差は如何ともしがたい。王宮にだって、魔法使いはいるんだし。魔法使い以外にも、兵士はたくさんいる。ナヴァトみたいに、魔法も得意な騎士だっているだろう。王様の近衛が全員無能ってはずもないし……。

 いざとなったら、エルフ校長のあの紙で脱出することは、約束させられている。

 ……でもそれって、ついて来てくれた皆を王宮に置き去りにするってことだ。

 ふたたび、わたしは向き直る。


「この上、なにか?」

「属性判定を受けることに不満があるようだが、おのれの立場を悪くするとは思わぬのか」

「先ほども申しましたが、わたしは自分が聖属性魔法使いであることは存じております。判定を受けることに意味を感じません。わたしの属性に疑念を覚えるかたがいらっしゃるとしても、それがなんだというのでしょう? そのかたがたが、代わりに魔王やその眷属と戦ってくださるということですか? あるいは、そこにいらっしゃるチェリア嬢を矢面に立てるおつもりでしょうか。彼女は聖属性ではありません――エルフが、そう判定しています」

「エルフ? ……公爵か。あやつは、そなたを贔屓にしておる。欲目があろう」

「ダレンシア公爵がわたしを贔屓になさっているとしたら、理由はひとつ。わたしが聖属性魔法使いだからです」


 なんならエルフ校長以外のエルフも、むっちゃ贔屓にしてくださいますけどね! ちょっと怖いレベルで。


「話にならんな」

「ええ、お話しすることはもうありません。ですから、失礼いたします」

「……いや、属性判定は受けてもらわねばならぬ」


 しつこいなぁ!

 わたしはリートのシナリオをさらに進めることにした。

 とにかく逃げるのが第一目標!


「では、手早く済ませましょう。判定人と装置をここへ」


 アウェイといえども、目撃者の数が多いこの場で、ことを済ませる。

 どこか奥まった場所にひとりで移動させられでもしたら、それこそエルフ校長の紙を発動させるしかなくなる。


「いや、今回の判定は厳密を期すため、王宮の内神殿でおこなう」


 内神殿? 知らん施設だけど、そもそもわたしが王宮に詳しくないから、それは無理もないとして。

 まぁ……王宮内に王族用の神殿があるのは、別におかしなことじゃないのかな。前世でも、たとえばヨーロッパのお城なんか、敷地内に教会とかあったもんね。日本では城郭内に寺とか聞いたことないけど……でも大きめの古いお宅のお庭に小さなお社、みたいなのはあるよなぁ。

 一族専用の宗教施設であり、祈りの場って感じだろう。


「なぜ、内神殿でなくてはならないのですか?」

「判定のための陣があるからだ。建国王、ロスタルス一世のものと伝わる」


 建国王って、エルフ校長の親友の? ハルちゃん様の弟で、筋肉聖属性の?

 ていうか、判定のための陣て、なに?

 陣っていうのは、魔法の分類でいうと、設置型になる。転移陣もその一種。呪符魔法の発展系みたいなものと考えればいい。図形に魔力をこめて使うからね。


「内神殿にある判定のための陣とは、どのようなものでしょう? 寡聞かぶんにして存じ上げませんが……」

「それは、神官からじかに説明させよう」


 国王陛下の視線に応じて、近衛らしき男性が進み出た。


「こちらへ」


 はい、分岐点きた。

 親衛隊とウィブル先生が距離を詰める。わたしとの同行が拒否されるようなら、あらためて王様とバトらねばならない――けど、ほっとしたことに、三人がついて来ることは制止されなかった。

 その代わり、最後尾にもうひとり追加された兵隊さんに、サンドされる形で移動することになったけど。

 我々は豪勢な彫刻や絵画で飾られた長い廊下を延々と進み、これでもかというほど装飾的な部屋に通された。


「こちらでお待ちください」


 サンドイッチのパン二名は外へ出て扉を閉め、我々は窓のない室内に残された。

 ……え、室内に監視置かないの? それは気もち的に楽でいいけど――と思いながら部屋を見回し、げんなりする。この部屋、気もちが楽になるなんてもんじゃない。すんごい圧迫感! 豪華過ぎる。

 少し持ちこたえたのち、わたしは疲れ果てて椅子に腰を下ろした。持ちこたえた理由は、ナヴァト忍者が椅子の安全を確認していたからである。


「もう無理」

「頑張ったわね、ルルベルちゃん。ちょっと元気あげる」


 そういって手をとってくれたのは、わたしの前に跪いたウィブル先生だ。

 指先がじんじんぽかぽかして、ああ、冷え切ってたんだなって気がついたよね……。


「無理ですぅ……」

「聖女がそのような言葉遣いは、どうか」


 リートの棒読み台詞は、あらかじめ決めてあった符牒である。

 つまり、盗聴されてっから気をつけろよって意味。


『喋れるのはアタシとリートだけね』


 これはウィブル先生による確認。

 説明しよう。

 ウィブル先生は生属性魔法使いとして無類の強さがあるので、そのへんで聞き耳を立てている人間がいたら、そいつの聴力を操作することは可能である! そういう形で、なにを話しても聞こえないようにする魔法が使えるのが、生属性。

 ただし、現状その手法は効果を発揮しにくい。誰がどこで聞いているかが、わからないからだ。二重壁になってるかもしれないし、盗聴用の呪符が仕込まれてる可能性だってある。もちろん、魔力感知などである程度は探れるけど、万全とはいえないからね。

 そこで、生属性魔法使いであるウィブル先生が内緒話のためにとれる手段はなにかっていうと。

 相手の鼓膜を直接ふるわせて音声をお届け! なのだ。

 リートも生属性魔法インカムはできるけど、複数人にお届けすると魔力がギリギリになるらしいのね。今回は外部への警戒も怠れないので、リートはウィブル先生に話しかけて、ウィブル先生がそれをわたしとナヴァト忍者に伝えてくれることになっている。


「校長が姿をあらわさないのが気になるわね。神殿での工作がうまくいってもいかなくても、公爵として場をおさえることはできるんだから、来ると思っていたんだけど……ああ、ルルベルちゃん、なにか適当なことつぶやいてくれる? 完全に無言だと、あやしまれるって。リートがうるさくて」


 はいはい。えーっと、なんか適当な話題……。


「それにしても、男性ばっかりでしたね、広間」

「はい」


 答えたのはナヴァト忍者だ。魔法で発話できない我々は、ガヤ担当だ。


『確認するけど、校長との連絡手段はないのね……? ルルベルちゃんも?』


 わたしは、うなずいた。例の指先だけで昨日再生する紙はあるけど、それだけである。

 うなずきながら、適当な話題を進めてみる。


「ウフィネージュ殿下が王位を継がれたら、こんな男性ばかりの場所でやっていかなきゃいけないのね……」


 わかってたことではあったけど、実際に見ると強烈だったわ、と思いながら。おっさんばっか!


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