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10+1(イレブン)ナイン  作者: あまやすずのり
そして、11となる
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そして、11となる 05

「あっ、戻ってきたっ!」

「なんだ、二人してお出迎えとは」

 その後、一通り話終えた昌也はまだ暫く二人で話すという慎吾たちを置いて

 一足先に屋上を離れた。

 その道中、懸念材料が改善内容になった会話を浮かべつつ、教室へと足を踏み入れた瞬間、

 二人の女子に捕捉された。

 どこか慌てた様子の梢と心配そうな表情を隠す事なく半歩後ろを定位置とする千尋。

 当初は見て見ぬふりで自席へと戻ったが、腰を下ろしすとここぞとばかりに二人は昌也を囲み、

 落ち着く間もなく口を開いた。

「で?何話してたの?」

「ん?」

 相も変わらず、主語なく突っ込んでくる梢に昌也が首を傾げながら電灯に顔を向ける。

 その姿は梢に憤慨を与えるに十分だったようで

「とぼけても無駄っ!……屋上で大山男子、新沼君達と話してきたんでしょ」

「えっと……ちょうど廊下を一緒に歩いてるのを見つけて……」

 申し訳なさそうに千尋が付け加えてくれた事で合点がいった昌也は、小さく感嘆を上げながら答えた

「なるほど、まぁ軽く話した程度だ」

「軽く、って……」

「あっ、あのっ!!」

 突然上がる奇声に昌也どころか教室内に動揺が走る。

 それもそうだろう、いつもおとなしい千尋が大声を上げたのだから。

 これには流石に横にいた梢も半歩その身を後退させ、

 代わりに千尋がその間を埋めるように昌也へと迫りながら問いかけた。

「野田君は、やっぱり、その男子野球の、方に……」

「……はっ?」

 昌也が間抜けな顔で一言、瞬間、目の前の千尋と梢は固まり、教室内に静寂が訪れる。

 誰もがこの雰囲気をどうするのか、迷う最中、響いたのは予鈴。

 そして、梢が我に返り時は戻った。

「えっ?だって男子野球部に入る相談、だったんじゃ……」

「いや、なんで今更そんな相談するんだ」

 何とか絞り出した梢の問いを逆にため息交じりに問いかける昌也。

 その答えを探そうと梢と千尋は顔を見合わせるが、どうにも要領が得ない様子に、昌也は頬杖を突きながら答えた。

「まぁ、別に隠すようなことでもないし話しておくが……」

 屋上で慎吾たちとの会話を一つ一つ思い出すように口にする昌也。

 当初は二人とも驚愕していたが、興味が湧いたようでみるみるその顔が真剣になっていく。

(……全く、こいつらは)

 二人から受ける眼差しへ正直に答えるように全てをさらけ出した昌也は一呼吸をおいて告げた

「……ってわけだから、今日からまた厳しくいくからな」

「うんっ!任せてよっ!」

「わ、私も頑張り……」

「そうだな〜、気合入れて頑張ってもらわんとなぁ〜」

 唐突に挟まれた低い声音に昌也達3人は首筋に冷たい物を感じる。

 声の方向は丁度真横から、ギリギリ視界には入っていない。

 なのに、3人は容易に想像できてしまった。

 軽快な素振りから繰り出される空気を狩る音、

 笑顔の中に孕んだ般若のような怒気、

 そして、凶悪な獣を纏ったオーラをこれ見よがしに放つ姿を。

「3人とも〜、既にチャイムは〜、なっているんだがなぁ〜」

「は、はぃぃい、すいま……あッ痛ったっ!!!」

 野球部監督兼顧問である真澄の強烈な一撃を受けた梢は、

 脳天を抑えがならその場にうずくまる。

 ブルブルと体を震わす姿からその重みを否応なく感じている昌也と千尋へ

 真澄は続けた。

「後の二人は〜、さっさと準備」

「しますっ!させて頂きますっ!」

「すいませんすいませんすいませんっ!!!」

 どうにか真澄の温情を受け、授業の準備を即座にこなす。

 そんな二人の様子にニッコリ満足した笑顔を浮かべ、梢を席へと連行する真澄。

 まるで囚人のように連れて行かれる様を見ながら昌也と千尋は犠牲になってくれた梢に心の中で合掌するのであった。


「お疲れ〜」

「……遅い、ですわよ」

 真澄による恐怖体験によって午後の睡魔も撲滅された昌也。

 その後、放課後に入るや否や、しっかりと真澄にお小言を言われた梢達3名は既にグラウンドで練習を始めている彼女たちの輪へと入っていく。

「なんか、真澄ちゃんに連行されてたけど大丈夫だった?」

「あは、あははは〜」

「うぅ……次は気を付けようね、梢ちゃん」

 どうやら呼び出し姿を捉えられていた政美に心配されるが、

 問いかけが呼び水となり先ほどまでの光景が思い出されたようで梢と千尋は自然と涙する。

「……あれ、大丈夫ですの?」

「お前、いちお先輩だからな」

 呆れ顔を微塵も隠そうとしない兎志子の問いに、突っ込みを入れた昌也であったが、

 自らの発言内容に自信を持てず、ため息を吐く。

 アップを始めた大山女子達、その小さな集落から少し離れたところ、

 ベンチから数歩出た位置で兎志子と昌也は言葉を交わし始めた。

「……お前は練習参加しないのか」

「その前に、確認したい事がありますの」

 切れ長な瞼を更に鋭くしながら、兎志子は昌也へと向き直る。

 その真剣な眼差しにやられた昌也は、応えるように正面に顔を向け、即座に逸らした。

「私をいつセンターに戻して下さるのかしら」

「……そうだなぁ〜」

 まるで現実逃避するように薄暗くなり始めた空を見上げる昌也。

 ゆっくりと動く雲に想いを馳せる姿は、兎志子にため息をつかせるには十分だった。

「……まぁ、そうなるとは思ってましたけど」

 その場でクルリと踵を返し、練習の輪へと向かいだした兎志子。

 土を踏む音に少しずつ昌也が視線を戻し始めた矢先だった。

 不意にその背中が止まり、佇んだまま兎志子が告げる。

「でも、セカンドも言うほど悪くないですわっ!」

 再度その小さな姿が走り出す。

 それはさながら照れ隠しをするようで、不意を突かれた昌也は

 驚愕に目を見開きつつ、頬は自然とその形を作っていた。

 心の中から漏れだす感情を素直に表すような笑顔を作り出していた。

「……ったく、野球、楽しみやがって」

こんばんわ、作者です。


いよいよ、次回(予定)で最終話となります。

毎回思っているのですが、本当に読者様には心から感謝いたします。

拙い文章ながら続けてこれたのは皆様のおかげであります。

ラストはいつも通り、1週間後、いつもの曜日と時間にお届けできるように

GW中にしっかりと仕上げてきます。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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