ごめん
腹に食事をパンパンに詰め込んで、その時間はやってきた。
一度部屋に戻って、鞄を側に置いておく。
ゆったりと出来るソファーが、私には裁判所の様に感じられる…
『さて…カナメの冒険談を聞かせてもらおうかな。』
「冒険談…まずは返さなきゃな。ウィルナード」
私の心の盾となった、ナイフを差し出す。
「シルエラ」
私の心の寒さから守ってくれた、スカーフを…
「エヴァ…」
私の小銭袋をドサッと置き…
「髪の毛、返した方が良い?」
『髪の毛!?何それ?』
「ああ、気づいてなかったのか。ならいらないよな。」
『いらないけど…何に使ったの?』
「ん?御守り。」
『オマモリ?』
「あーそんな習慣ないんだよな…。あれだ!御神体。」
『嘘でしょ?』
「ホントだよ。私の側にはずっとエヴァの分身がいた。ハハハ」
『………』
「よし!私はちゃんと返した。金額が多いのは利子代わりってことで」
『金額覚えてないだけでしょ?』
「…バレた?まぁ、多い方がいいだろ?」
ふふふ、と皆が小さく笑う。
辛いことはあった…でも、楽しかったことの方がたくさんあったんだ。
「物語の始まりは、二年前の夏に遡る…」
『あら、劇場なのかしら?ふふ』
パチパチと手を叩く3人に笑顔を向け、話始める…
「とある王都の屋敷に泥棒が入ったのです…彼女は馬を一頭盗み、王都を飛び出しました…」
『泥棒って…』
「ふふふ…バルはとても賢くて、私をナハルまで連れて行ってくれた。」
・・・・どんな道だったのか…
「リーンに着いて、ハンターの仕事を覚えて、私にとって頃合のいい2人組に声をかけた。それがギルとアルだった。試用期間3日を経て、私は仲間になった。そんな時、私が手配されている事を知った。嬉しかった…自分で探すなって言ったはずなのに」
・・・・詳しく状況を…
「ナハルに着いて、見かけたシスルに手紙を落とした。会わないつもりだった。だけど見ることはいいだろうと思ってたら、エヴァに会った。」
・・・・気持ちを…
「サランで賭博場に行った。その時じー…ハディル様と会い、次の日、町を歩いたり、家にお邪魔したり…仲良くなった。そして、ヴィルが仲間に加わった。」
・・・・どんな人に出会ったか…
「竜巻で非難した村人が、盗賊に襲われた…それに逃げていた子供を狼から保護して、違う村に連れて行った…。でも、今その子達は親と再会したらしい。」
・・・・どんな町だったのか…
「川を超えて、マラッサルに着いて、依頼を受けている時、四郎が私について来た。そこで私は不良に絡まれて、喧嘩しようとしてたらヴィルに止められたんだ。そこでアイツは、座って話をしようとか言うもんだから笑ったよ。」
『ハハハハ。』
『穏便に解決すべきよ。おかしくないわ。』
『でも、カナメだよ?喧嘩上等来るものの拒まずの。』
「で、話をしたら、貧困街の孤児で、組織みたいなのが出来ててさ…その頭がマキシム。幹部がケイナーだった。でも調べたら領主と孤児院、商会が結託して、人身売買をしていた。」
『ああ、あのワーディス伯爵のな…。』
「うん…それで、マキシムとケイナーと仲良くなって…でも、私は子分の振りをして一緒に居たわけだろ?」
『ん?なんで子分?』
「密偵?」
『ちゃんと話して!』
「はい……。」
・・・・自分の全てを理解して欲しい…
「ゼルス…そこで私の気持ちはポッキリと折れた…」
『…聞いたよ。ギルバードくんに。』
「え?」
『うん。ヴァリウスさんにも…』
『どうゆうことなの?』
「……何故?いつ!?」
アイツら…それを勝手に言うなんて…
ふざけるな!!
『勘違いしちゃ駄目だぞ、カナメ?』
「何を勘違い?!」
怒り…
それしか感じない。
横に座っていたエヴァが、私の握りしめた拳を開いていく…
『怒らないで…。全部カナメの為だった。』
「私の為?勝手に話すことが?」
『…シルダで戦が終わった日、訪ねて来てくれたんだ…』
「は?今回の?」
『うん。カナメを辛い目に合わせた事の謝罪。カナメに事件を思い出させたくない、口に出させたくない…あと、俺がカナメを責めてしまわないように。それが俺達に話した理由だよ。』
私が出る時、皆が居なかったのは、シルダへ行ったから?
私の為に?でも勝手に…
どうしてそこまでしてるくれるんだ…
なんでそんなに優しいんだよ…
これは私の罪なのに。
『でもね…俺は怒ってるよ?恋人を作ったこと…』
素面になったエヴァの顔…
熱くなった気持ちの波が凄まじい早さで引いていく…
目に力を入れ、一度大きく息を吐き出す…
ここからが本番だ。
「私は」
『やっぱり部屋にしよう。野次馬が居るから』
『あら残念ね…』
『気にしなくていいのになぁ?シルエラ?』
『本当よね。』
『…行こう、カナメ。』
「ああ…うん。四郎を頼む…」
手を引かれるまま付いていく…
エヴァの気持ちを斬り捨てなければ、私の願いは叶わない…
大切なエヴァをこれから傷つけるのだ…
向かい合わせに座り、私を見据えるエヴァは真剣で、思わず目を反らしてしまいそうになる程怖い…
だけど負けられないんだ…
そこまでしてくれたギルの為にも!
「エヴァ…私は、お前との約束を守れない。」
『…俺に時間すらくれないの?』
「…兄妹としてなら喜んで一緒に居る。だけど、裏切った私へそうは思えないだろう?」
『…思えない、な…今は。』
「今は?」
『俺、話しを聞いてから今まで、ずーっと考えてた…』
「…うん」
『俺も今まで、カナメに負けたくないの一心で頑張って来た…それを知りもしないで断られるのなんて納得出来ない。俺の事、少しも見る余裕はないの?』
「…正直、エヴァの努力の成果は見たい。…だけど、家族としてしか見れない。私はエヴァに幸せになって欲しい。幸せになりたい、じゃないんだ…」
『俺の努力は無駄だったんだね…』
「無駄なんかじゃない!私がお前にどれだけ救われたか…」
『いつ救ったって言うんだ!会いもしないその間、俺はカナメが辛い時に笑ってたかもしれない!遊んでたかもしれない!』
「エヴァ。私がやられて、ギル達からも離れた後、どんなだったと思う?」
『………』
「あの時思ってたのは、エヴァとの約束を守れなくなった。エヴァに合わせる顔なんてないと思った。それは、私の帰る場所が無くなったということ…私の目的が失われたということだ。」
『…だからギルバートさんなの?』
「違う。寧ろギルの方を強く拒絶した。失ってから好きだと気づいた大馬鹿者だ。酷く自分が汚く感じた…知っている人全てから見られたくなかった…。ただ息をしている…何も考えずに」
『カナメっ』
『獣を刈る…旨いかなんて考える事もなく、腹を満たすだけ…どうでも良かった。何もかも」
『やめてよ…』
肩を震わせ、俯くエヴァの横に移動して、背を撫でる…
純粋で優しいことを分かっててエヴァに言う私は、とことん性格が悪い。
泣いてくれるエヴァが、とっても愛しい…
私の家族でいて欲しい。繋がりを無くしたくない。
「泣くなよ…。もう大丈夫なんだ。…そんな時、ナハルへ連れて来られて、お前に会うのが怖くて引きこもってた…でも、私はハンターだから依頼を受けないといけない。それでも抵抗してたんだけど、連れ出されて、狙ってたかのようにエヴァを見かけたんだ…」
『え?』
「ウィルナードと、農家の人と話をしてた。…私、自分が何やってんだと思ったよ。エヴァはこんなに頑張って勉強してるってのに、私はふてくされたガキか?って思った。…何も知らないエヴァ達は、まだ待ってくれているって漸く気づいたんだ…。家族になれなくても堂々と会えるようになれたら…それが私の目標になった。」
『………』
「私はエヴァに、生きる気力を貰ったよ。笑えるようになったよ。ここにまた来ることが出来たのは、エヴァのおかげだ…ありがとう。助けてくれて」
言っている内に涙が出てきた…
皆が私を助けてくれた。
でも、私に大きく背を押してくれたのはエヴァだよ。
頭を上げて、ゆっくり体を包まれる
『…そんなの、俺の意思じゃないよ…』
抱かれたまま、あやす様に背中を撫でる
「それでいいんだっ。わざと見せられるのもおかしいだろう?ふふふ」
『そうだね…………ねぇ、何も感じない?』
「…うーん…幸せ。」
『……ドキドキしない?』
「…しない。…落ち着く。」
『……俺は凄くしてるよ?』
「エヴァ…ごめん…私は家族としてお前を愛してる。」
『……ギルバートさんには、ドキドキするの?』
「……うん。」
肩を掴んで、私の体を離す
『欲しい物があるんだ…』
「あ、ああ…何でも言ってくれ。私が用意出来るものなら」
口に吸い付き、チュッと音が鳴る
「え、エヴァ!」
『隙が在りすぎだよ…実はキスしたのこれで5回目なんだ。許してね』
「何っ!?」
『好きだった。愛してた。』
「…うん…嬉しかった」
『……諦める、よ…カナメっ』
抱きしめて、泣き止ませたいと手を伸ばす…
が、それは間違ってると、手を止めた…
私がエヴァをフったんだ…
だから、私は…離さなきゃ……
「私、幸せになる!何がなんでも…」
『…うん…じゃないと怒る!』
『うん…』
後の言葉が続かない…
何もしてはいけない。
辛い。
エヴァごめん…
大好きなのに…
泣かせているのは私。




