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要の意味  作者: かなりあ
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困惑

エヴァンシール視点



今、漸く俺の初陣が終わった…

父上は、これを『小競り合い程度だ』と言ったけど、こんなに酷いものだとは思っていなかった…でも、俺は今にも吐き出しそうな嗚咽感に耐え、乗り越えた。そして、勝利という、哀しくも熱い高揚感を味わった。




まだ興奮冷めやらぬ晩、天幕に、見ず知らずの3人が現れた。

一緒に来た父上は、なんだか困ったような複雑な顔をしている。


『戦勝直後の多忙な時分に、申し訳ありません。私、ギルバート=フレデリックと申します…』

『アルベルト=ハリストンと申します』

『ヴァリウス=サルバルートと申します…少し込み入ったお話なのですが、宜しいでしょうか?』


『カナメ』だ!

瞬時気付いて『この人達がカナメと過ごした』と、妬ましい気持ちが込み上げた…


父上が俺達以外を外に出し、向かい合って座った…

叫びたいのを必死に隠し、冷静でいようと努める…


「お初にお目にかかります…エヴァンシール=シュベルドです。カナメが何かあったんでしょうか?」


『はい…メシュリーでの戦はご存知でしょうか?』


やけに低い声が…言葉が、最悪の事態を想像させる…


「聞いております。私も先程聞いたばかりですが、お味方勝利だったようですね。」

『はい。その戦で、カナメは総大将を捕らえました。』


「「え(ん)?」」


…総大将を?……カナメが?

それがどれ程の大事か…と、思い浮かべる前に話が再開した。


『手柄を取ったカナメは、シュベルド家、家族に会いに行くと言い、今頃向かっているのではないかと思います…』

「…な…何から聞けばいいのか…ともかく、戻ってくるということですね!?」


戻ってくる!?

嬉しい!やっと会うことが出来る!

思わず父上と笑い合ってしまったが、向かいに座る三人は、誰もが真剣な顔をして、俺達二人を見ていた…


「…他に何か問題があるのでしょうか?」

『はい…謝っても許されない事を犯しました…』


ゴクリと唾を飲み、今から何を言われるのか…

カナメは何か、罪でも犯してしまったのか?


『私が…』

『ギル…俺達だ。』

『そうだよ。俺達当事者なんだから…』


意味がわからない、3人の会話…

そして、一つ頷いて、俺の目をジッと見た。


『私達が、カナメを守れなかったんです…。それは、一年前の年始の事でした。カナメが盗賊に攫われ、見つけた時にはもう、純血を奪われた後』


「なっ、え?…う、そだろ?!何故だ!?貴方達が側にいたんでしょう!!」


思いもよらない言葉に、激情して、身分も構わず疑問が口から飛び出した…


「エヴァ!…話を聞くんだ!」

「くっ……」


純血を奪われた?

嘘だ…あのカナメが…そんな事って!!

そして、今更!?何故今話すんだ!?

そうか…コイツらはその後捨てたんだ…

文面で、保護者不相応とか言いながら、カナメを見捨てたんだ!!


『…その後、私達の元を去り、剣聖団と言うハンターチームに入りました。そして、今回の戦に参戦した…。そこでイベルナ族と遭遇し、共に戦って、手柄を上げました…』

「イベルナ族と…ですか?」

『はい…カナメは、イベルナ族の信仰している青蘭鳥を従えており、神の鳥の御使いとして、上に立ち、勝ち取りました。』

「……カナメは今、どの様な様子ですか?」

『あの、辛い出来事を乗り越え、元の勇ましくも穏やかなカナメに戻っております。』

「そうですか…よかった…」

『…カナメの家族であるあなた方は、私に怒りしか覚えないでしょうが、それでも私は、どうしても欲しいのです…エヴァンシール殿とカナメの約束は知っておりますが、私はカナメを愛しております!』


感情的にならないように堪えていたのに、有り得ない言い草。

そんな事、許せる筈がない!


「な、何だと!?お前にそんな資格あるのか!?いざとなったらカナメを見捨てて…そんな人が、どうして俺達に言えるんだぁ!?」


『…分かっている。そんな資格はないこと…だが、諦められない!あの日まで、カナメは貴殿の約束を守ろうとしていた…俺の事は眼中にもなかった…だが、俺を…』


地の言葉とさっきより恐く見える表情が、より信憑性を帯びて感じる…


「俺を、何だよ!?カナメの気持ちはどうなんだ?!」


『すまない…いや、申し訳ない…今、カナメの思いは俺にある。』


「…どうして…どうして何だよ!?」


『横から盗るような真似をして、謝ることしか出来ない…大切な娘であるカナメを苦しめた癖に、貴殿をまた苦しめた…本当に、申し訳ない!!』


本心からの謝罪であると、俺は理解したくはないのに…

認めたら俺の気持ちも、今までの頑張りも、無駄になってしまうのに…

馬鹿正直な俺は、そのまんま気持ちを言ってしまった…



「なんで?……カナメは、俺の約束を忘れたの?」



『忘れるなんて事はない!貴殿はずっと、カナメが唯一愛する家族だった…あの日まで、約束を守ると頑なに突っぱねていた。あの事件が起き、貴殿との約束を果たせなくなったと…』

「なら…お前のせいじゃないか!!お前の…お前のせいで……」


「エヴァ!落ち着いて考えなさい。…ギルバート殿…アルベルト殿、ヴァリウス殿…少し時間を頂いて宜しいかな?」


怒りで自分が何をしようとしてたのか、伸ばした右手を止められて自覚した…

でも、抑えられない怒りと悔しさは、涙となって、俺の視界を歪ませた…

情けなくて…見せたくなくて…

ここから去る事も出来ずに、ただ俯いて…

早く出て行けと、繰り返し頭の中で叫んでた…



『はい…』

「明日の朝、私が出向きます。どちらに滞在しておりますか?」

『ハンター組合横の、アスラ館と言う宿屋です』

「承知しました。では、明日…」

『…申し訳ありませんでした…』

『『『失礼致します。』』』



なんで?どうして?

それだけが頭を渦巻く…


「エヴァ…辛いなぁ…だがな、諦めるのはまだ早いと思うぞ?」

「何でさ!カナメの思いはアイツに!!…っ…」

「カナメに確かめてからでも遅くはないと思うが…」

「…でも…」


俺だって認めたくない!

俺はカナメを信じて待ってた。

カナメが約束を破る事なんて一度もなかった。

だけど、離れた時間は長かった…

俺にとって凄く長かった…

その間に、カナメは変わってしまったの?

強くて、真っ直ぐなカナメは、俺を思ってくれなくなったの?

俺の言葉を…気持ちを、理解されてなかったの?




『すいません!失礼します!』


「ヴァリウス殿…」


『ギルバート殿の言葉には、足りないことがいくつもあり、補足を付けたいのです…。私が、外から見た2人を話しても宜しいでしょうか?』



「聞かせて下さい!!」


分からないことが多すぎて、縋った。

敵の仲間に…


「エヴァ…」

『ありがとう御座います。普段通りに喋ってもいいかな?』


にこやかな相手に、馬鹿にされているような気持ちになった…

だけど!


「構いません。」

『ありがとう。エヴァンシールくんもそうしてね。』

「は…はい」




『俺は、途中から仲間に入ったから最初の方は知らないんだけど、ギルは、カナメの事を保護対象として守ろうと、過保護に…それでいて、意志を尊重してあげてた。』


君の話には驚いたよと、ドキリとする前置きを言った上で、うんうん頷き優しく笑った…


『君の事を聞いた時、恋を知らないくせにそんな約束して馬鹿だって言ったんだ…。じゃあ、スッパリ言われた。私は約束を守る!って…ギルもね、カナメを好きになった後も、その事があったからずっと言えなかった…。カナメはカナメで、ギルの事父親だって言っちゃうし、辛かっただろうと思う。そんな時、カナメが前の町で散々無茶をしたんだけど…その罰として、俺が提案した、女装をさせたの。…ほら?叱っても効きはしないでしょ?』


軽い口調に乗せられてか、それとも状況が想像できるからか…存外和やかになった雰囲気に、笑いが漏れた。


「そう…ですね。」


それも束の間…『だけど』と発したその顔は、先程とは正反対に険しく、苦しそうだった…


『その日、宿の個室で寝てたカナメは攫われた…。俺のせいなんだよ…女装させたから。…とっても綺麗だった…だから目を付けられた。ハンター服なら決して浚われなかった。普段通りだったなら、少年にしか見えなかったのに…。あの晩、寝ちゃったカナメを運ぶ時、俺がギルに、そのまま居たら?って茶化したんだ…でも、ギルはそんな無粋な人じゃない。その日に攫われるなんて、誰も想像してなかったし、ましてや宿でなんてね……ギルは、そのまま寝かせて去った事が攫われた原因だと、未だに自分を責めてる…』


「………」


『そして、朝、起きてこないカナメに気づいて、事件が発覚した。ハンターや領主にも掛け合い、攫われた女が数人居たことが分かって、一睡もせずに情報を集め、拠点を攻めた…。でも、俺達の行った所にカナメは居なくて、町に戻って漸く、剣聖団に助けられたカナメに会えた。その時話しをする前に寝ちゃって、カナメは3日間眠り続けた。その間ずっと、ギルはカナメが起きるのを待ってた…』


ヴァリウスさんの目からポツポツと涙が落ちる…

この人にも辛い出来事だったんだと、初めて気づいた。


『カナメはね…他の女の子達の変わりに、私1人でいいかと頼んだらしい…盗賊相手にだよ?…で、カナメ1人が犠牲になった。……カナメを助けた剣聖団の人が言ってたんだけど…そうなって初めて、カナメはギルの事を好きだったって気づいたらしい…。だから俺達…特にギルに会いたくなかった。起きたら案の定、チームを抜ける、俺達の事が大事だから一緒に居られないって言われた。ギルは、それでも止める為に、禁じていた告白をしたみたいだけど無理だった。何も出来なかったんだ…俺らと居る方が辛いと言うカナメに…』

「皆、辛かったのですね…」


『カナメに比べれば大したことありませんよ…。それからカナメは、剣聖団と共に行動し、面倒を見てくれたライネルさん達によって、元気になっていったんだ。…俺はライネルさんからもらった手紙を元に、シュベルド家へ手紙を出していたんです。』

「そうでしたか…」

『はい。…だから、当たり障りの良い事しか書かれてなかったでしょう?ギルが、カナメの事を気遣って、勝手に話しちゃいけないって…もし、シュベルド家に知らせても、不安を煽るだけだし、カナメは君に知られたくないだろうしね』


何も言えなかった…

女の子なら、誰であっても知られたくない事だと思う…

『恥』だと、誰もが思う筈だ。

例え他の女性を救う為だとしても…


『そして、今回の戦で再会した。ギルはやっぱりカナメを思ってたから、元気なカナメと会えて嬉しかったと思う。でもね、カナメはまた無茶をするんだよ…。知らぬ間に人質になって、居なくなってたんだよ…』


「人質!?」


『まぁ、詳しくは帰ったら聞いてみて?…それで、カナメの出撃合図で突っ込む予定だったんだけど、その合図が凄すぎて、勝ったのに問題になっちゃってね…多分異世界の技術何だと思う。…知ってるよね?』

「はい(ああ)。」

『しつこく迫る闘王を前にしても方法を言わなくてねぇ…この国に居られないと思ったらしく、逃げ出したんだ。…それを追いかけたギルとカナメは漸く思いが通じて…闘王も諦めてくれて、今!今、家族へ全てを話に行く決断をした。ギルに待ってろって言ってね…。』




『エヴァンシールくんも、突然の話で混乱して当然だと思う…挙げ句に君の気持ちに反する事を聞かされて、本当に俺達は君にとって最悪でしかなかったよね?でも、今更になって言いに来たのは理由があるんだ。…ギルはああ言っていたけど、本当は、カナメにあの日の事を出来る限り思い出させたくないから…もし、君がカナメを責めてしまったら、ギルも俺達も、やりきれないんだよ…。後の恋愛話は、本当に謝りたかっただけだと思うよ?その件でカナメやギルを責めたって一向に構わない。カナメをずっと思ってたんでしょ?』


「……はい…」


『だったら引かなくていい!けど、ギルを憎まないであげて?…それだけでいい。お願いします!』


「………考えます…ちゃんと、自分の気持ちを…」


『うん!じゃあ…二度も押しかけ、すみませんでした…』


礼をして、出て行こうとするのをとっさに止める。


「ヴァリウスさん!」


『ん?』


俺は、これだけは言わなきゃいけないと、立ち上がった。


「ありがとう御座いました!この話も、今までも…」

『ううん。カナメは俺の親友だからね。当然だよっ!…あ!私が話しに来たことは内密にお願いします。ですので、明日、お待ちしております。』

「承知致しました。午前中に、必ず伺います。遥々、娘の為に訪ねて下さり、ありがとう御座いました。」

『いえ…せめてもの償いですかね…?ですけど、カナメに、余計なお節介と言われる事間違い無しです。ふふふ…では、失礼致しました。』



わからない…

話しを聞いた今、俺は妙にスッキリしていた。

カナメの事は、ずっと好きだった…

早く会いたくて、俺なりに頑張ったつもりだった…

でも、手紙の内容を真に受けて、真実は全く知らずに過ごしてきた。

もし、俺がギルバートさんの立場だったらどうしたんだろう?

同じように出来る?

わからないよ…

そんな俺は張り合っていいものなの?…

それに、ギルバートさんに全く怒りが沸いてこない…

さっきまで煮えたぎっていた妬みや憎しみが嘘の様…


俺自身の気持ちが、わからなくなってしまった…



「よく考えてみるんだ…そして、早く帰ろう。…カナメが待ってるからなっ」

「うん。やっと…会える……」



声に出して、ふと怖くなった…


カナメから言われるだろう言葉に……




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