別れと再会
今、私はメシュリーの門に立っている…
朝、二日酔いでダルそうな皆に脱団する事を話した私は、様々な激励の声をかけられ、受け入れられた。凄く照れくさかったが、感謝とまたの約束を一人一人思いを込めて言葉にした。
そして、急遽取り付けた商隊と一緒に、今から出発する所なのだ。
別れを言ってから数時間後の脱団…別れを惜しむ、湿っぽい時間は短い…
それでも、そうした方が彼らにとっても、私にとってもよかった。
涙は見せたくない。笑って別れたい。別に一生の別れじゃない…
「必ず連絡するから、会いに来てくれよ?」
『おう!待ってるからな!』
『気をつけて行けよ〜』
『ん。』
『もう無茶すんなよ?』
『ちゃんと淑女になんだぞ〜?』
『『『黒蛇の魔女〜〜〜!!』』』
「馬鹿!!それを言うなってば!」
『頑張ってこい!!カナメ!』
「おう!やってやる!!私に会うまで死ぬんじゃねーぞ?またな!剣聖団!」
荷車に乗り込み手を振る…
わーわー叫ぶ声を切なく受け止めながら、小さくなっていく皆を見続けた…
声が止んで、米粒程になって…漸く前を向く。
ナハルへはまだまだ遠い…心細い旅路になる…
だけど、私が決めたんだ。
ギルが待ってくれている…
何故か何処にも居なかったけど、待っててくれている。そう思う…
「あ…急な同行の上、待って頂き、ありがとうございました…」
『いいんです…なんか私、感動してしまって…うぅ……』
「えっ!?何…泣いてるんですか!?」
『…すみません……あぁ〜、なんて、素晴らしい仲間なんでしょう…』
「…ハハハハッ!でしょう?」
王都で、また別の商隊に入れてもらう。
そして、飛び出したあの時を思い出した…皆の持ち物をコッソリ借りて、シスルに見つかって…と、その後バルと2人旅。
今、2年の時を経て、その道を戻っている。全然見覚えがない…それだけ無我夢中のバル任せだったんだろう。かなり無謀だったな…私。
早く…早く…早く会いたい。
勿論怖くもある。でも、私はなんと言われようと、会いたいんだ!
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漸く着いた……その頃にはひと月弱経っていた。
組合所には、後で行けばいい!
走る!待ちきれないんだ!!
門前の警備の者を避けながら声をかけ、扉を開け放つ…
「ただいま戻りました〜!!」
『な、何事ですか!?』
「シルエラ!!」
『か、かなっ……』
「ただいま!」
くしゃりと泣き歪む、シルエラの顔…
走って抱きついて、違和感いっぱいの、胸に収まる小さくなった母…
私がデカくなりすぎたみたいだな…アハハ
『もう!こんなに心配させて!!許さないわよ!』
言葉に反して抱きしめて、優しく背中を撫でる優しい手…
「ごめんなさい…ずっと会いたかった!」
『私も…皆そうよ!あぁ…カナメ…良く無事で帰ってきてくれたわね…』
「ごめんな…待っててくれてありがとう。……エヴァとウィルナードは?」
グイッと抱きしめた体を離された
『…今あの子達は、シルダに行ってるわ…』
「………ええぇぇーー!?!?」
とりあえず、落ち着こう…
シルエラに手を取られてソファーに座らされる…
マジかよ…と、頭を抱えて居ると、怒り心頭と言わんばかりのシスルが姿を現した。
「シスル!ただいまっ」
『…お嬢様…少しお話があるのですがよろしいですか?』
「よ…よろしいですとも…」
『少しいいですか?奥様…』
『ええ。逃がさないようにお願いね?』
『はい…すぐ済みますので。』
「な、なに?殴ったりしねぇよな!?なっ?」
外に連行され、馬舎に…
『てめぇは!』
「いてっ…やっぱ殴ったぁ〜!」
『心配かけやがって!俺もどんだけ被害にあったか……ホントは100発殴っても気が済まねぇ所だ!』
「被害?…ごめんって…ごめんなさい。…私、今度王様に会うんだ!多分…」
『はあ?お前、何やった!?』
「今からシルエラに話すからシスルも聞いてくれ。」
『……分かった。だが、お前にはまだまだ言いてぇことがあるから覚悟しとけ!』
「うん。誠心誠意、謝ります。ごめんなさい…」
『まだ言ってねぇ!』
「ハハハハッ!行こうぜっ」
『おお…』
「まず、ウィルナードはいつ此処を出たんだ?」
『22日前よ…以前はもう少し早かったけれど…まだ…』
「だよな…あの時は14日程で戻ってきたよな?」
『ええ…そう…戦に出ているのね…恐らく…』
「…私はてっきり此処に居るもんだと…馬鹿だ私は…くそっ」
『……それで、今までの事を話してくれるのよね?』
「ああ…全て話す。良いことも、悪いことも…」
全てありのままを…
最初から…現在まで…
その時の気持ちも…
家族への思いも…
出会った人への思いも…
愛する人の事も…
「私は、エヴァと約束しておいて、好きな人が出来てしまった…私は、エヴァを蔑ろにして、本当にどうしようもない最低な人間だ…その癖堂々と帰ってきた図々しい私だけど、どうしても謝りたいんだ…いや、会いたかっただけなのかもしれない。けど、私がエヴァに許されるまで、ギル…ギルバート=フレデリックには会わない。それを聞いたエヴァがどう思うか、凄く怖い。…でも、私はエヴァが兄として好きなことは変わらない…変えられないんだ…。私は……エヴァを傷つけるだけの存在なのか?会わない方が良い?教えてくれ…」
『………あの子は…例え傷ついても、あなたに会いたいはずよ。…そうよね?シスル…』
『はい…会いたい一心で頑張っていらっしゃいますから…』
「…そうか……エヴァ…」
『それはあなたがキチンとけじめを付けなさい……でもね…私はそれより…あなたが辛いんじゃないの?そんなツラい目に合って…どうして…どうしてカナメが……』
「シルエラ…泣くなよ〜。言っただろ?私は色んな人に助けてもらった…救ってもらった…もう何とも思ってないんだ。…私は大丈夫なんだよ?でもさ…公言出来る娘ではなくなった…だから元には戻さなくて良い。自分の中で確かにシュベルド家は家族だったんだから、このままで良いんだ。」
『馬鹿ね…あなたの籍はずっと外していません。』
「は?」
『外すわけありません。あなたは出会った日からずっと…ず〜っと、カナメ=シュベルドよ?あの後時間はかかったけれど、ウィルも私も友人に支持をお願いしたり、エヴァも社交場で積極的に友好の輪を広げて、お願いしたの。極めつけは、元老院方のお口添えね。表立って公言されたわけありませんけど、私でも耳にする程カナメの噂は広まったわ』
「えっ?噂?」
『そうなの!ハディル様が御爺様とはどういうことなの!?書状を頂いて、』
「んん?わかんねぇけど、じーじが?そうか…元老院…」
『じーじ?…あなた、その呼び方でお呼びしているんじゃないでしょうね?…』
目が…目が据わっている…この顔はスパルタ教師モードが発動した時の…
『…どうなの?正直におっしゃい?……』
「あの…ええっとな…あれだ!じーじがそう呼べと言ったんだ!そう、喜んでた!だから…OK?」
『OK…久しぶりに聞いたわね…なんて誤魔化されませんわ!そこに直りなさい!』
「はいっ!!」
シスルが向かいで忍び笑いをしているのが無性に腹が立つが、目の前の鬼に気を配るのが先決だ…
『そんな事でフレデリック家の奥を治めるなんて出来るわけがありません!私がどれほど指南したと思っているのです!貴族の端くれで』
「待ってくれ!奥を治めるとはどういう事?…なのでしょうか?」
『…あなたは、エヴァに許しを請い、フレデリック侯爵家にお嫁に行くのでしょう?只でさえ格式高き侯爵家で』
「いや…結婚なんて早いだろ!?ってか、そんなこと考えてねぇよ!」
『…ではなに?あなたは遊びのつもりなのに、エヴァの気持ちを突き放すの?』
「違う違う!本気だよ!」
『本気なのに、先を見据えぬ交際をしようというのですね?…』
「いや…その」
『お黙りなさい!!…そんな事でどうするのです!あなたは、辛い目に合って尚、ギルバート殿をお慕いし、恋われているのでしょう?…あなたは、妾に治まるつもりでいるの?』
妾…?
妾って…愛人?私が?
ギルが正妻をとったら、私は?
「嫌だ!妾なんかになるつもりはない!」
『はぁ。でしょう?…その席を手に入れるのはとても難しいわ。あなたの家は男爵家…同じ貴族と言えど侯爵家とは格差があるの。それでもあなたが望むなら、一つの隙も見せてはなりません。その上、あなたの価値を高めなければ、他の有力貴族に潰されてお終いです…それ程の苦難に、カナメは立ち向かえる?』
「……やるよ。私は、約束した。待っててくれって…応えなくちゃ!私の…自分自身の為に!!」
『ええ。…やり遂げなさい。どこに出ても優位に立たなくてはなりません!それでは早速、着付けを致しましょう。ね?カナメっ』
「ええぇー?そりゃ別の話だろ!?」
『言葉遣いを直しなさい!それでは』
「待って!待ってくれ!」
捕まった腕を瞬時に抜き取り、距離を取る…
「先に組合所に行ってくる!」
『待ちなさいカナメっ!』
「…すぐ戻るから!金受け取ったら帰ってくる!行ってきまーす!」
『もう!なんて逃げ足の早い……』
「ふふふふ…奥様、追いましょうか?」
『そうね。寄り道しないように見張っててちょうだい…私は準備をしなくては!ふふふ…』
「では、行って参ります。」
『ええ。あっ…大変!あの子、大きくなりすぎて私の服では間に合わないわ…お願いしてもいいかしら?シスル…』
『分かりました。…ですが、あの寸法の物が見つかるかどうか…』
「そうねぇ…困ったわ…とりあえず大きめの物だったら何でもいいわ。明日にでも仕立て屋へいくしかないわね。」
『承知致しました。それでは、失礼致します。』
「はぁ、困ったわ…マイア!湯を溜めておいて下さい!それと、大食らいの娘用に、食事の追加を!あとは…あとは…ふふふ……幸せだわ!早く帰ってこないかしら?皆…」
家を飛び出し、少し走ってから歩調を緩める…
私はどうして、今更日本人感覚で居たんだろうか?
そうだよ…一般的で、処女が重要=結婚前提の付き合い=婚約だ…
結婚なんて早すぎると、怯んだ私が馬鹿だった。
トサッ…
『カナメ…お嬢様…?』
「ルードじぃちゃん!!ああ、久しぶり!家にいなかったから私はてっきり…」
『じいはまだ、しぶとく生きておりますよ。』
「良かった…良かったよ!!あぁ…滅茶苦茶嬉しいっ!」
『…じいも嬉しゅう御座います!うぅ…こんなに大きくなられて…』
「泣くなよ…道端だぞ?」
『お、お嬢様こそ…』
「泣いてない!…ほらな!」
『はいはい2人とも。ルードさん…今日からまた忙しくなるぞ?』
『ですな!そうとなれば私も屋敷に急がねば!』
「ハハハハッ!そんな焦んなくていいのに。」
『いえ!失礼致します…早くお戻り下さいね。カナメお嬢様』
「ルードじぃちゃん!これ落としてる!」
『ああ、申し訳ありません。…ではっ!』
家の執事を見送り、シスルと歩き始める。
「見張り〜?」
『いや?道草防止とお前の服買いに。』
「もっとダルいことだったか…」
『仕方ねぇよ。自分の為だろ?』
「だけどさ…今日ぐらいは…あっ!シスルっ…指輪返す。ありがとな…」
『おお…確かに。お前さ…マジなのか?さっきの話…』
「ホントだよ。全部マジ。…案外すんなり受け入れてくれたな…シルエラ。」
『ん?知らないのか?そのギルバート殿から書状が届いていた事…内容はあまり知らんが…』
「え?!そうなの?」
『お前より頻繁届いていたぞ?しかし、ギルバート殿の謝罪の書状で、どれほど心配なさったか…』
「謝罪?…なんの?」
『自身は保護するに不相応…だったか?自分より力のある所に預けた…みたいな感じだったように思う。だが、変わりにヴァリウス=サルバルート殿から届けられるようになった。そのおかげでお前の手紙が無い間も安心出来た…。それでも、お前の変な手紙の方が効果はあったがな。』
「ヴィルが…?ごめん…さっきも話した通り、エヴァを見るまで死んでたようなもんだったからさ…。でも、手紙を出したらシスルに見つかって、マジ焦ったよ。ハハハハッ」
『そのわりにピースとかしやがって、余裕ぶっこいてたじゃねぇか。』
「いや、あの時久々に笑っちまってさ…そんな気分になったんだよ。」
『どんな気分だよ…』
「………あ!アンナ!」
『…?カナメ?カナメなの!?嘘っ!?帰ってきたの!?ヤバい!皆呼んでくる!!』
「いや、アンナ!……行っちゃった…」
『くくくく…』
「何で皆を呼ぶんだよ…しっかし…何で私、皆に見られてるわけ?」
それも、暖かい微笑みで…
『お前を手配してる間に、色々あったんだよ…』
「ん?…なにが?」
『ほら!あそこにいるでしょっ!?』
『キャーーッ!カナメぇ!』
『『おおーー!』』
ザザザッと路地から駆け寄ってくる地元の仲間。
「怖ぇよ、お前らっ」
『おお!変わってねぇ!デッカくなっただけだなっ!』
「うっせえ悪ガキ!」
『俺、お前と同じ年だって!ハハハッ』
『うわぁ!この胸本物っ!』
「こらっ!何揉んでんだエリー!」
『えっと…ほんの出来心で…』
ーーーーーーーハハハハッ!!ーーーーーーーー




