表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
要の意味  作者: かなりあ
53/63

帝国軍の総大将




「なんだと!?」

「どうゆうことだっ!?」

「この野郎!!そういうことは」




『知ってて殺さなかったのか?』



ハリソンの声で、喧騒が鳴り止んだ…



「ああ…ムリードは、立たされただけの総大将。実質はメシアム侯爵が全権握り、蚊帳の外にされていた…だろ?言ったにせよメシアム侯爵を落とさないと戦争は終わらなかった……違いますか?ハリソン殿」


『………』


表情がそうだと言っている。


「ムリードは林の中に隠してる。ちゃんと小屋の中だから獣に襲われる心配もないぞ?」


『そうか…配慮に感謝する…』



「ちょっと来い、馬鹿女!……今全部吐きやがれ!」


アルに手首を掴まれ、輪の外に出される。後ろからギルと10人程の兵士もついてきていた…


娘と騙した事から始まり、本陣での出来事、捕らえた方法、ムリードの話、小屋の場所、ムリードの選択…多少の嘘や誤魔化しを含めて順番に…

余計なことを言って、私の不利を作る気はない。仲間内だけならともかく、兵士も居るのだ。



「この事、本陣に伝令を頼む…」

「はい。失礼します!」



兵士が数人走り去り、変な顔で見てくる残りの兵士に視線を合わすと、サッと目を反らされた…


「え?何だよその反応……」

「「「…………」」」

「ハッキリ言ってくれ!モヤモヤする!」

「……今の話は、嘘偽りない…真実でしょうか?」

「そうだ!どこか変な所あったか?」


不快感を示すように、高圧的に聞いて見せる。が、内心ドキドキだ…


「…いえ、あの爆発は貴女が…と、思いまして…」

「そうか…うん、私だ。じゃあな!」



逃げるに限る!


「カナメ!どこ行く気だ!?」

「その辺!」

「見えるとこに居ろよ!」

「わかった!」



あ、ハリソンには本当のムリードの言葉を伝えてやろう。



捕虜を囲む兵士に通らせてもらい、ハリソンの横に滑り込んでヘラッと笑ってやる。


『何だよ!』

「ムリードの話…伝えておくよ。」

『…何と申されていた?』

「私な、ムリードの現状を聞いて、亡命を進めたんだ…」

『なっ…んん…それで?』

「断られた。平民になるのが嫌なんじゃなくて、国を見捨てられないんだと。兄の政治が、圧力が、どんなに厳しい事だったとしても、受け入れると言っていた…今回の戦の責任を私が受けなければ!って怒鳴ってたよ。…それと、処刑されるのは俺だけでいいって…」

『くっ……クソッ…』

「…もっと悪い奴だったら私も喜んで軍に差し出せたんだが……何で敵なんだろうな…王が代わればいいのにな…」

『………』

「どうなるか、正直わからない…亡命を進めたのは流石に言えなかったけど、この事は伝えた。逃げててくれたらいいんだけど、従者を眠らせちゃったし、多分逃げない」

『…絶対、逃げていない…だ』

「…だよなぁ。悪人顔の癖に良い奴だもんな…」

『ククク…確かに。』

「ふふふ……それと、ありがとう…ギルを殺さないでくれて…」

『殺す気は満々だったがな…』

「結果が全てだよ…じゃあ…またな…」

『……カナメと言ったな?』

「ああ。そうだ。」

『覚えておこう…』

「ふふ…女を差別してるんじゃなかったのか?」

『お前は女に入れん…』

「ハハハハッ…言われ慣れてるよ、んなことは!じゃあな」


「お、一緒に観戦した奴!!」

『触るなと言ってるだろ!!』

「…男色か?」


ーーーーーハハハハハッーーーーー


『貴様!!』

「きゃぁ!怖い!オホホホホ」



『舐めやがって!!』




「や〜アイツ面白ぇ〜」


「カナメ…」


「ぎ、ギル…」


「今夜覚えておけ…」


「覚え…られん!!逃げるが勝ちだ!」




くつくつと笑う声を背に受けながら、行く宛もなく走る。

視界にセシルの姿を捉え、方向が定まった。

首を傾げるセシルに猛ダッシュして、一息つけそうだと、しゃがみ込んだ。



「黒猫…ククッ」


まだそれで笑えんのか…

もう一段階脱力して、後ろに寝転んだ…


一気に身体が重くなる…多分、寝不足のせいもあるのだろう…

精神的な疲労も祟ってそうだ…

イベルナ族との綱渡り交渉に…

ギル達との再会…

スバルの娘として人質に…

ムリードとの出会い…

粉塵爆発での衝撃…

戦争とギルの一騎打ち…

アルとギルによる、この追い詰められたような状況…



そういや私、馬上で抱きついた……


どうかしてたんだあの時は…

我慢出来なかったんだ…

あのまま一騎打ちがなければどうなっていたのか…

欲しいと思ってしまった…欲しがっちゃいけないのに、目の前にあったから…

船で別れる時、ヴィルから聞かされた事が余計な衝動を起こしてしまったんだ…


『婚姻を急かされてるらしいよ?いいの?』



私はどこかでギルの事を、私の物だと思っていたようだ…

気持ちは私にあるのだと…結婚なんてしないと、高を括っていたんだ…

そんなことあるはずないのに…

他人の物になると思うと、途端に惜しくなるなんて、私は浅ましい女だ…

侯爵家の跡取りなのだから結婚しないなんてありえないのに!子供を作って、次の後継者にしなきゃいけないのに…

名乗りをあげる事もできない…

私は相応しくない…

私の気持ちは迷惑以外の何物でもない…



「…泣いてる?」

「ん、なんでもねぇよ…」


うつぶせ寝にして、腕に顔を埋める。


横にセシルの気配がして、頭に布を被せられた。


「ん?」

「…貸す」

「ありがと…」

「………」



セシルの黒い襟巻きに顔を埋め、目を閉じた。

ミントみたいな匂いがして、何だか爽やかな気持ちになった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーー



「カナメ…」


ユサユサ揺すられ、ハッと跳び起きる。



「…騎士?」

「用事がある…らしい」

「ああ…行ってくる。これありがと。涎付いてたらごめん…」

「最悪…」

「ふふふ…いつの間にか寝ちゃってたな〜。じゃっ!」

「ん。」




少し距離を置いて立っていた騎士2人に近づき、20騎程の騎士の所に連れて行かれた。そして、ムリードの所へ案内を頼まれた。ギルも付いていくとの事で、私はムリードの白馬に乗り、出発した。


小屋とも言い難いお粗末な家…壁や屋根はあるものの、扉なんて立て掛けただけだ。

騎士達にギロリと睨まれるのに構わず、それを退かせ、声をかけた。

が、返事はない。しかし馬は居るのだからムリードが居ることは間違いないのだ。

最悪の事態が頭をよぎる…


跳ぶように中に駆け込むと、荒れた床にあぐらを組むムリードと顔を合わせた。



「はぁ、返事しろよな。自害してるかと思ったじゃん…」

『ふんっ…ここで死んで何になる…早く連れていけ。』

「良かったよ!さ…行こうか…」


後ろに人の気配を感じたが、それに構わず手を差し出す。


『女の手など借りずとも、っ』

「うっせぇ!どいつもこいつも女で差別しやがって!」


腕を引き上げ、外へ引っ張って行く。


「ギル、従者2人はそこにいる。」

「ああ。」



厳しい表情を変えない騎士に面と向って言い放つムリード



『我は、第三皇子、ムリード=ハル=バルガリア…此度の戦の総大将である!何の抵抗もせぬ!如何様にも従おう!』

「…拘束の上、ご同行願います…」

『承知した』


手を縛られるムリードを見守る…


「ハリソン…という部隊長がムリードを惜しんでいたぞ。お前は慕われてた。」

『……情けをかけるか?』

「バーカ。卑屈皇子め」

「言葉に気をつけろ!敵とはいえ皇子ぞ!」


心底うんざりさせる奴だな…

ムリードに向き直り、その場で片膝ついて頭を下げる。


「…私はムリード様に相見あいまみえ、誠に光栄で御座いました。今後一生忘れません…」

『…鳥肌ものだ…面をあげよ』

「…私もだ…です!」

『ククッ…私もそう思っている…達者でな…』

「はい…ムリード様も……」


連れられて行くムリードを見送る…

辛い…

一番そう思ってるのはムリードの筈なのに、言わずにはいられなかった。


「私は!死なないことを!願ってる!!」


小さくなっていくムリードがチラリと首だけ振り返り、微かに口角が上がっていたように見えた。

思わずキョトンとしてしまう…



「……アイツが笑うと悪巧みしてるようにしか見えないな」

「…口に出してやるな…」

「おぉ、聞いてたのか。…帰りますか!」

「ああ。町へ帰ろう…」




馬に乗り、林を抜け、だだっ広い平原をギルと2人で駆ける……


綺麗な筈の夕日が、今日は言い表せない程悲しく映った……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ