突撃
ギル視点
「どういうことだ!?」
『騒ぐな!』
あまりの衝撃に思わずジグルード殿に詰め寄り、怒鳴り返されてしまった…
つい先程、漸く岸に横付け出来たかと思えば、そのまま待機という指示…
少しして、ジグルード殿が縄で船に飛び乗ってきた。そして、カナメが人質になったことを聞いたのだ。
どうしてそうなったのかは聞いた。
聞いたが、何故行かせた!?何故危険に飛び込ませたんだ!!
カナメはいつもいつも…何故自分から行くのだ…
漸く会えたというのに…
カナメの元気な姿に心底安堵していたというのに!!
またツラい目に合わせるくらいなら……
「…後を追う」
「ギル!駄目だよ!!今出ちゃ、カナメのやっていることが無駄になるんだよ?そうなれば、カナメが戻って来た時どうするつもり!?」
「………くっ……」
「あんのバカヤロー!!ふざけやがって!!」
「兄さん…とりあえず作戦は?変更はないの?」
『…合図があり次第下船だ。隊列を組む時間はない。降りた順でそのまま突撃。動きながら鋒矢の陣になるよう、我が隊の者が率先して指示を出せ!馬ではない分、足を取られ易い。遅れを取れば死だ。だが、機動力が最大の攻撃であり、最大の防御…と、皆に言え。次の船にも伝えろ!そして、合図はやらん。外に気を配っておけ。』
『『『はい!』』』
「ジグルード殿…甲板に出てもよいのでしょうか?」
『構わんぞ。ただ、凝視される事は避けろ。…しかし、カナメ殿の合図がどういった物かが分からんのだ…心当たりはないか?』
「…想像できません…が、恐らく小さな物ではないと思います。」
「そうだね!カナメがしでかすことだもんね!」
「……でも出来る事って限られてねぇか?鐘とかもってんのか?…狼煙か?」
『剣を置いて行ったのだ…手針とナイフはチラッと見えたが…後、忘れ物と言い部屋に入ったものの、出た時には何も持ち合わせてはいなかった…』
「カナメの私物は……ねぇ?」
「だな……なんか怖ぇな…」
「……想像できん。未知の領域だ…」
『何だ?度胸のある娘だったが…そう、自分を餌に例え、俺らを獅子と唱したぞ?くくく…貪欲な獅子が御所望だとな…』
「なに?俺達に食いに来いって事?」
「相変わらずふざけたことぬかしやがって…」
「…チッ」
自らを手札と言った、あの頃と一つも変わらないではないか!!
俺達は当たり前に追うだろう…
信仰強いイベルナ族も追うだろう…
剣聖は…
「剣聖団はどうしていますか?」
『あの神風がな…暴れに暴れてやっと落ち着いたからこっちに来れた…カナメ殿が兄ちゃんと言っていたが、兄はナハルではなかったか?』
「カナメを猫可愛がりしてるだけ。…そっか…ライネルさんを振り切って行ったんだね…」
『…ああ。軽々と投げ、床に叩きつけた時には驚いて何も言えなかったぞ…女らしからぬ武を目の当たりにして漸く、お前の言うカナメ殿と合点いった』
「な、投げたの?ライネルさんを?」
『そうだ…見事としか言えん。お!俺はそろそろ行く。遅れを取るなよ!そして死ぬな。』
「「はい!」」
「うん。兄さんに追いついてみせるよ…」
『おう!じゃあな!』
イベルナ族に声をかけ、3人連れ立って甲板に出る。
良く晴れた今日、戦場が良く見渡せる。
あの中にカナメは居るのだろうか…
本当にカナメが交渉に行っているのだろうか…
本当は船に監禁されているのではないだろうか…
またあの日の様に……
「ギル…あそこだ!円のように組まれた陣…」
「……ん…定石通りであれば、本陣だな…」
「だね…必ず助けるよ。今度こそ!」
「ああ。」
「おお!一発殴ってやらなきゃ気がすまねぇ!」
俺達は、睨むように戦場を見ていた…
ただただカナメの合図というものを待ち望んで……
一時間は無言でそうしていたかもしれない…
「あっ!!」
「あれが合図か!?」
本陣の向こうに白い靄が突如として現れたのだ。
側にあったロープを掴み、岸側に走って、ロープを結んだ時だった。
視界の端に強い光が差した…
ーーーーードンッ!!!!ーーーーー
地を震わせる程の音が響き渡り、人という人が時間を止めた。
「……何を……したの?」
ヴィルの声で我に返り、ロープを垂らす。
「行くぞ!遅れを取る!!」
「お、おう……」
「うん…急ごう!!」
敵兵が異様な事態に騒ぐ中、俺達も動揺を隠しきれてはいないが、続々と船から降りてくる。
前が走り始め、俺も先頭に行く為に…一刻も早くカナメの無事を見たいが為に速度早めた…
間違いなく、あれはカナメの合図だ。ただの炎…どころではない…
あれほどの爆発…生きていてくれ!!
ジグルード殿の横にスバル殿…その右に入り込み、不意を突かれる敵兵をただ凪払う。
動揺して対処出来ずに逃げようとする敵兵を無視し、ひたすらに足を動かす。
『はぁ、はぁ、すまねぇギル!俺のせいでカナメを行かせちまった!くっ、オラァ!どけや!クソ野郎ッ!!』
ライネル=スパーダ…カナメが『兄ちゃん』と慕う男……
カナメを救ってくれた男…
それが苛立つ原因であるが、それをぶつけるのはもっと間違えている…
俺が救いたかった…
守りたかった…
側に居たかった……
「…止めて頂けたと聞きました…カナメの強行だと。1年前もそれでよく悩まされました…」
『マジふざけんなよ?!兄を投げ飛ばす妹が居るってのか?……ありえねぇ!!』
「……普通じゃありませんから…カナメは」
『分かってっけどよ〜…何だったんだ?あの爆発!』
「俺も知りません…カナメは俺なんかには知り得ない知識がありますから」
『……なんだよそれ…貴族より頭良いってのか?んなわけねぇ!こんな無茶しでかす女がよぉ!』
ライネルは知らないのか…カナメが異世界から来たということを。
嬉しく思ってしまう俺は、どうしようもない阿呆だな…
爆発現場に近づくにつれ、引きつった顔の帝国兵が目立つ…
攻撃されても弱々しく、まるで相手にならない。
敵の盾部隊に突っ込み、盾に飛び乗り、蹴りつけ進む。
後ろを見ると剣聖の4人が居た。黒蛇のような列が続き、不気味にうねっている…
帝国兵は尚、そう思うんじゃないだろうか?
本陣の直ぐ側まで来たはずだが、先程の円の様な陣はない。
「あの金の奴じゃねぇか!?」
誰の声か浮かぶ間もなく走り出す。
今までの比ではない全力疾走…
誰もが逃がすまいと必死な形相…
もうすぐという時、後方で声が上がった。
気合いでも入れているのかと首だけ向けると
ーーーーーもうすぐだ!行けーー!!!ーーーーー
立派な白馬に跨がり、黒髪を靡かせた女
「カナメ!!!!」
ピタッと目が合い、頬を緩ませた後、意地の悪い笑みに変わる思い人…
『走れ走れ!ハッハッハ!!』
途端に抗議の声が上がる。
『うるせぇ!私が手に入れたんだ!!』
俺の直ぐ後ろに居るライネルの横まで来て、ライネルにも野次られる彼女。
『謝るのは後だ!私の剣、持ってきてくれてありがとう!約束通り、守ってくれよ兄ちゃん』
『突っ込むぞ!!ブッ飛ばせぇー!!!!』
剣を天に向け、前に振り下ろす馬上の『戦女神』
ーーーーーーおおぉぉぉ!!!!!ーーーーーー
誰よりも前を走り、重装兵へ馬が飛び上がる
踏みつけ、突破し、盾隊に穴が空く。
猛烈な勢いのまま、崩れた隙間に先頭のジグルード殿とスバル殿が入り込み、雪崩れ込む味方と、地に落ちる帝国兵…
血飛沫が至る所で舞う…
悲鳴や怒声が飛び交い、戦塵が立ち昇る…
甲高い金属音を打ち鳴らし、斬り進む…
馬上の君は円を書くように走り回り、槍を払い、剣を振るう。
俺が目指すは馬上の君…
君に追いつかんと、混戦する障害物をがむしゃらに払いのけ、漸く辿り着いた…
そこには1人の男が居た。
かつては俺が一番近かった筈であったのに…
今ではこの男がその位置に…
カナメにとって、今…俺は…必要じゃない…
『ギル!乗れ!!』
「…ん?」
『やりにくいんだ!!代わってくれ!』
手綱を受け取る時、手が触れた。
下から見上げて、不敵に笑ったカナメ…
『騎士無双期待してるぞ!!』
軽く腕を叩かれ、チェーンメイル越しなのに、そこだけが熱くなる。
「任せろ」
『ハハハッ!…行け!金ピカ爺をやって来い!!』
カナメに笑う。
「見せてやる。お前も来い!」
『うおっ』
カナメを馬上に放り投げ、空かさず鞍に飛び乗る。
『危ねぇよ馬鹿!』
手綱を強く引き、二本立ちして嘶く白馬。
悪態尽きながら落ちぬよう横腹を掴んでくるカナメに笑いが零れる。
『落ちるだろうが!!ライネル!行ってくるからな!』
『おう!カナメは頼んだぞ!』
ライネルの言葉が終わらぬ内に走り出し、手を上げて応えた。
敵兵から槍を奪い、馬上の敵兵を蹴散らして走り抜ける…
『ああーー!やることないじゃないか!!弓くれ〜!!』
それを聞いたイベルナ族が、背の弓を取ろうとする間に、俺達は駆け抜けてしまう。
『あぁ〜〜弓〜!戻ってくれ、ギル!』
「くっくっく…何もしなくていい。捕まってろ」
『はいはいはい…掴まるだろ?』
「捕まるだ。捕まえておかねば何処に行くかわからない…」
『…アハハ…金ピカ居た居た!』
「誤魔化したな…」
『ホントだって!』
「それは分かってる…」
『………』
「ん?」
腹に手を回し、抱きつくカナメに、肩が跳ね、頭が…喉が…胸がツンと痛みを覚える。
『………』
無言が、何かを訴えている…
カナメが何を考え、そうするのか…
分からない…から期待をして…
都合良く解釈して…
自惚れて…良いのか?
まだ俺の事を思ってくれていると…
『貴様!!その馬、どこで手に入れたあっ!?』
キーンッ
今までのとは明らかに違う騎兵の剣斬に、跳ね退ける余裕がなく、受けた衝撃がビリビリと伝う…
お互いを睨みながら馬首を返す…
『ギル…勝てよ!死ぬな!約束しろ!』
「当たり前だ…」
『私は私でやる!』
言い切ったカナメは、徐々に円になる敵兵へ飛んだ。
声も出せぬ間に馬蹄の音が耳につき、反射的に向き直った。
『こっちは任せろ!囲ませはしない!!』
ブンッ
相手に当て損ねた双方の得物…。
馬が行き違う…
俺の熱くなった時を止めた…その恨みを目でぶつける事しか出来ず、更に憎悪が溢れてくる。
『…我はハリソン=ガル=バシーラ!!貴殿の名は!?』
「…貴様に名乗る名などない!」
『馬鹿!カッコイイじゃねぇか!!名乗れよ!』
『女が口を出すな!』
『うっせー、ハリソン!私はカナメだっ!!』
叫びながら敵兵を地に倒し、奴に指差すカナメ…
笑いが込み上げ抑えられない…
この一騎打ちに、横から指差す奴があるか?
面白くて仕方がない
槍を捨て、剣を抜く…
「くくく…ギルバート=フレデリック!冥土の土産に覚えておけ!」




