人質?捕虜?
扉を開け、スバルの下に急ぐ…
女性らしさを意識して、皆が固まっている所へ小走りに駆け寄った。
「か、カナメ殿!」
「シッ…カナメと呼べ…今の状況は?」
「人質を出すかの話し合いで引き延ばしています。しかし、カナメ…は、何故出てこられた?」
「スバル…娘として、私は通用するか?」
「何っ、何を…」
「シィッ!…人質は私がなる。」
「いっ、いけません…ならば私が」
「駄目だ…誰がイベルナ族を引っ張るんだ?…大丈夫だ。お前らはお前らのやるべきことをしろ…そして私を助けに来てくれ。な?」
「しかし…貴女を行かせる事は…」
『決まったか?こちらは、引き返し、予定通りにすることをすすめるがな!』
「くっ…」
「お父様!恨みを晴らせないまま帰るのですか!?」
「カナメど…くっ……」
『…?』
「そちらに行けば、話を聞いていただけるのですよね!?私ではいけませんか!?」
『…スバル殿の娘か?』
「はい!カナメ・イベルナと申します。」
『ふむ……娘を出すか…』
「仕方ない、娘に任せると言え…」
「…こうなってしまえばやむを得ん……仕方がない!娘に託す!何卒を不躾をせず、扱って貰いたい!」
『……わかった…橋をかけよ!』
「陸ではなく今なのか?!」
『こちらはイベルナの要望を出来る限り呑んでいる!これしきのことが呑めぬか?!』
「大丈夫だ…スバル」
「…わかり申した!!…カナメ殿…ご無事で…くれぐれも無茶は…」
「任せろ。ジグルードさんの指示通り動けよ?イベルナ族、1人も死ぬな。生きて会おうな!」
「必ず…助けに参ります…」
「ありがとう…私達皆、仲間だ。」
娘らしく抱きついて、離れる…
「行って参ります!お父様!」
「頼む…」
柱程の木材が三本架けられ、波で揺れる不安定な橋に乗る。
スバルの肩を借りて揺れのタイミングを計り、歯を食いしばって恐さに耐え…
「ふぅ〜…今!」
走り抜ける!いける!
意外にも、手を私の方に差し出し、捕まえて抱き寄せられた。
『驚いた…娘は丁重に扱おう!そこの岸に着けろ!此方はこのまま向かう!』
「……わかり申した!!」
スバルとアイコンタクトし、促されるまま船内に入る…
一室に案内され、ソファーに座り、敵将ムリードと対面した。
口髭の端がクイッと上がった、30半ばぐらいで、目の窪みが深い、狡猾そうな顔つき…
『…スバル殿に他の娘が居たとは聞き及んでおらんのだが…』
「ムリード様にお会いしたのは初めてで御座います…この様な大事に、私の様な女がでしゃばり、申し訳御座いません…」
『…何故娘の貴女が乗り合わせておる…?』
「…女手は必要で御座います。…と、勝手に乗り込んだのです。心の程は父と変わりませんから…」
『……それでどうしたいと申される?』
「聞き及んでいると思いますが、前線で戦いたいと…」
『……貴女もか?』
「悔しいことに、私にその様な力は御座いません…ただ、私達イベルナ族の気持ちを晴らしたい一心です。その為、私に役目が頂けて…貴方様に機会を頂けて、感謝致します…」
『ふむ…犠牲を増やしてでも前線に立ちたいか?只でさえ減り続けるイベルナ族だぞ…男手を減らしてまでもやりたいと申すか?』
「…はい!!町は既に避難して人はなく、軍人しか居ませんでした。私達が陽動しようともまるで意味がない。十分な働きもせず見ているだけ、と皆が嘆いておりました。(全て嘘ですけど)」
『…仕方があるまい…しかし、会ったとて参戦と決まるかはわからんぞ?』
「やります!族長の娘として、命を賭ける覚悟で御座います…」
『………ここで待たれよ。下船時に人を寄越す…』
「お願い致します…」
頭を下げ、扉が閉まる音がして、スッと顔を上げた。
髪を一つに結び、窓の側に寄る。
味方の船は見えないが、考えてしまうのはあっちにいる彼らの事…
私を思って止めてくれたライネルを投げ飛ばした…
後を頼んだマッド達は、大変な思いをしているだろうな…
私の指示に従って言葉を吐いたスバルは、苦しそうに顔を歪ませていた。
別の船にのるギル達も、聞けばキレるだろうな…
ごめんな…自分勝手で…
船を降り、用意された馬に乗せられ、ムリードと同乗する…
気持ち悪いが仕方がない…
少し高くなった丘に、グルリと囲むように兵士が立ち並ぶ。
スピードを落として近づくと道が開けて、大げさに膝をついて頭を垂れる兵士…その道を駆け上がり、ド派手な金の鎧と赤のマントの爺さんがこちらを向いた。
「あの、ムリード様…」
『皇子!!何故此方に!?それもおなごと同乗など、ご乱心か!?』
「皇子!?」
『…皇子ではない。メシアム候…イベルナを参戦させよ…』
な、何!?どっちなんだよ?!
てか、馬から降りねぇのか?無礼って奴じゃ…皇子だからアリなのか?
『何を申されます…三百足らず、参戦した所で』
「意味がないならば構わんだろう?」
『…しかし!』
『入れよ!!』
『…………御意…明日で宜しいでしょうか?』
『もう着ておるが止む追えまい…承知した。』
『………』
「私は…」
『よい。戻るぞ…』
「………」
馬首を返し、人の道を下っていく…
わけわかんねぇけど、コイツがもしや…
それよりマズい…マズいぞ!!位置を知らせられない!
このまま戻ってどうする?駄目だ!
「ムリード様…」
『ん?』
「大変言い難い事なのですが…」
『…なんだ?』
「その…お手洗いに…」
『………おい、あの木陰に向かえ…』
『『御意…』』
「すいません…」
いや、超恥ずかしくねぇ?
しょうがねぇんだって!本当は違ぇよ?
陣から少し外れた岩と木の影に隠れ、用を足している振りをしながら麻酔付き手針を取り出す。
それを袖に隠しつつ、後ろを向いている従者の首裏に刺す。間をおかずにムリードの口を押さえて岩陰に引きずり込んだ。
地面に押し付け、後ろ手にして押さえる。
……何故?
あまり抵抗しないムリードに疑問を覚えた…
「騒がないでくれるか?」
縦に首を振ったのを見て、口だけ解放する。
『何者だ…』
「それは私が聞きたいよ。ムリード殿は皇子で総大将なのか?」
『………』
「肯定と取っていいな?何故私達イベルナ族の要望を聞いてくれたんだ?迷惑でしかなかっただろ?」
『………貴女が…』
「私?」
『貴女が、真に懇願していると思ったからだ』
「そうか…ごめんな。こんな事しちゃってさ。…聞いていいかな?」
『何を…』
「何故、この国を攻めた?」
『寝返ったか!?』
「…静かに。聞きたいんだ…私達のように恨みがあるのか?」
『………ない。』
「そっか…何が目的なんだ?」
『…………』
「言えないか?」
『私の問にも答えてくれないか?』
「いいよ…でも、縛っていいか?」
『ふんっ……どうせ動けぬ。好きにせよ!』
「ふふふ…ありがと。」
ズボンの中から縄を引っ張り出し、キチンと手足を縛り、立てないように体育座りに固定して目を合わす。
「………よし、ちょっと待っててくれ。」
サッと離れ、従者を引きずって陰に寝かせる。
「お待たせしました…私の質問に答えたら、ちゃんと答えるよ。何が目的なんだ?」
『…土地だ』
「なんで?帝国大きいだろ?」
『…私の問は?』
「ああ、ごめん。どうぞ…」
『……緊張感がないな…何者だ?』
「私は、ハンターだ。」
『ハンターだと…?』
「うん…私の番。イベルナ族を引き込んだのはなんで?」
『…命令だ。俺を捕らえ、何をするつもりだ?』
「…返答次第……嘘偽りなく、胸の内を話してくれたらいい。」
『くっ……』
「ごめんな…屈辱的だよな?私みたいな女に捕まり、こんな事言われるなんてな…」
『貴様っ!』
「シィッ……私な、あんたは見た目と違っていい奴なんじゃないかと思ってる。」
『…余計なお世話だ』
「ふふふ…だって、イベルナ族に食べ物をくれたり、今回も私達に応えてくれた…いい奴と思うのは、私の勘違いか?」
『……ふん』
この後からは自分から話してくれた。
王は二番目の兄で、ムリードは第三皇子だと。
第一皇子は失脚し、残る皇子は警戒される傍ら使い回されているという事。
自分は昔から現王と仲が悪い事。
兄は、突然、国の繁栄が領土拡大だとして、この戦争を起こした事。
この国の鉱山と、川の通行権利を広げたいとの理由でアルタインを攻めた事。
イベルナには、戦が終わればメシュリーの端に住まわせようとしていた。なんとかしてやりたいと自分は思っていた…
自分は名ばかりの総大将で、危険が及ぶと唱され、軍会議に参加すらしていない事。いや、させてもらえない…だな。意地っ張りめ!
「じゃあ、ムリード殿は、戦に反対だったのか?」
『…貴女には悪いが、そうだ。』
「大切な人は帝国にいるか?」
『……居る訳なかろう…』
「王族はもう真っ平って感じか?」
『…阿呆…それは口にしてはならぬ』
「ふふふ…そうか。とんだ王子様だよ。その歳で。」
『……その歳とはなんだ?…歳は関係なかろう。』
「34、5で、グレた皇子だろ?くくく」
『……貴様…私はまだ26だ。』
「えっ??マジかよ!?…ごめん!」
『……呆れた女だ。』
「ククク…ごめんって。私の事も教えるよ。」
『早く言え。敵か味方かハッキリさせてくれ』
「私はな、帝国の……敵だ。」
『…やはりな。しかしイベルナ族の恨み辛みはどうなのだ?』
「私は正直言うと、イベルナ族じゃない。黒髪なだけだ。」
『………南海の者か?』
「他にも居るのか?黒髪。」
『ああ。…早く続きを話せ。』
「ムリード殿の企みは潰させてもらった。イベルナ族の信仰する神鳥を知っているか?…私はその神鳥を飼っていて、黒髪の女の私は、御使い様として攻める事を阻止したんだ。それで、私が元からアルタイン軍の傭兵だった事から、イベルナを引き込んだ。だから、この後、私の合図で奇襲を行うつもり。…ごめんな。謝ることしかできない。私はこの国が好き…この国の人が好きなんだ。」
『……そうか』
「…林に移動する。よっと!」
『貴様!このような抱き方など!!』
「暴れるなって!力持ちの私でも落としちまうじゃねーか…」
『やめんか!引きずられた方がマシだ!』
「やーだよ!嫌がらせだ。ハッハッハ!」
『無礼者めが!』
「我を何と心得る!ってか?ハハハハッ」
『もう良い…はぁ…』
林の中にムリードを下ろし、従者をサッサと馬に乗せ、三頭連れて行く。
「ムリード…」
『もう呼び捨てとは…』
「…亡命する気はないか?」
『何を!』
「やっぱり無理か?平民の暮らしは嫌か?」
『そういうことではない!私は』
「分かってるよ…責任とか王族とかだろ?でもさ…気持ち的にどうなんだ?………考えてくれないか?……縄を外しておく。獣が来たら撃退しろよ?従者と馬を守るんだ。」
『貴様、私が逃げるとは…』
「…信じるよ。行ってくる!」
丘と船の延長線上に行き、腹に入れていた、小麦粉入り沼蛙の頬袋を取り出す。そして、風船の様に膨らませてサッカーボール大の石に縄で括り付けた。
ハンマー投げの要領でくるくる回り、高く高く飛ばす。風船を狙って手針を投げ放った。
パンッ
大した音は鳴らなかったが、煙幕のように粉が広がる。そこに、木に巻きつけた紙と縄をジッポで火をつけて、投げ入れた。
ーーーーーーボンッ!!!!!ーーーーーー
爆発の風圧で、私の体も宙に浮き、林へブッ飛ぶ…
木の幹を腹に受け、落ちた…
「やべぇ…ゴホッ、…いってぇ……」
『粉塵爆発』ヤバすぎる…
朦朧としながらも必死に目を開ける。逃げなければ様子を見に敵兵が来てしまう。
地面を這いながら、林の奥へと…
『お、おい!カナメ…であってたか?おい、大丈夫か?』
「あ、ムリード…マジ痛い…馬のとこまで連れてけ〜皇子!」
『……貴様な…はぁ。私が帝国人であることを忘れているだろう……』
とか言いつつ背負ってくれるじゃないか。
「うるさい!急げ!」
半笑いでムリードを急かし、身を任せるのだった……




