増援
『起きろっ、ライネル…ライネルっ』
「…ん?何かあったのか?」
『起こして早く来い!』
「おい…ライネル起きろ」
『ん…なんだ?……あっ!カナメ、起きろ!』
「私がお前を起こしたんだよ…よいっしょ、行くぞ。」
枕元の剣を掴み、テントを出て、ふと振り返ると……
人人人…森の中、松明を持ち、全員が右を向いて立ち並んでいる。
な、なんなんだ?
イベルナ族ではない、見慣れた金や茶髪達。
服装で見ると私達と同じ、ハンターの様な姿。
しかし、キチンと整列している姿は騎士のそれ…
『ふぁ〜あっ…遅ぇんだよ馬鹿…』
「え?なんか知ってるのか?…そうなんだな、ライネル〜〜!」
服を掴もうと伸ばすも、ひらりと避けられた。
『逃げるが勝ち!』
「は?…ふざせるな!待て!」
『どけどけ〜!ハハハハッ』
幼稚なライネルにため息を吐き、とりあえずコイツらの視線の先…イベルナ族が居るだろう場所へ向かう。
ライネルが理由を知っていることから、危機ではないとわかる。
ん〜何人居るのか…100は超えてるか?
もうすぐだ、という時、足が止まった……
な、なんで…
あの後ろ姿は………ギル?
あ、アルも…
ちょっと待てよ!なんで!?
くっ、こっち見てニヤニヤしやがって!ヴィル!!
あ…この事か。ライネルが『逃げるな』と言った訳は…
あー、久々に見ても苛々すんな〜。自称貴公子のニヤケ面は!
地面を蹴って、駆け寄る。
そのままの勢いで、私に手を広げたヴィルに……
ドスッ
「バーカ!誰が胸に飛び込むか!!」
「と、跳び、ゴホッ……跳び蹴りは、無しで…しょ?」
「アハハハハ!ヴィル、久しぶりだな!」
吹っ飛んだヴィルを抱き起こし、今度はお望み通り抱きついてやる。
「か、カナメ〜!嬉しいよ!……でも…でも、痛い!」
「ハハハハハ!ワザとだよ!」
分かってる…
背中に視線が突き刺さってる…
意を決してヴィルから離れ、笑みを作って振り返った。
「ギル!アル!久しぶり!元気してたか?」
アルは右耳に髪を掛け、ちょっと大人っぽさを感じる。私に向かって手を挙げて笑った。
ギルはオールバックは変わらず健在。でも少し長くなり、前よりも背が大きくなった気がする。
目が合うと微笑んだ。
私の好きだった笑み…
ドクンと心臓が動くのに気づかない振りをして、一歩一歩近づいていく。
「相変わらずだな、カナメ!」
「ふふふ…なんとなくムカついてさ〜」
「カナメ…」
ギルの重低音にまた、激しく鳴りだす心臓…
「ギル…聞いてないぞ?会いに来るなんてな!ハハッ」
無理に笑って、込み上げる感情を隠す。
「…ああ。会えて良かった。」
「私もだ。…で、なんでこんなに連れて来たのかそろそろ教えてくれないか?」
ごめん…やっぱり心の準備が出来てない…
普通の会話が思いつかない…
『それは俺から話させて貰おうか…カナメ嬢…』
ギルと変わらずの大男だが、どこかで見たような顔…
短い逆立った金髪と、凛々しい眉毛で、ライオンのような印象を受ける。
う〜ん、どっかでこの眉毛見たな…
「ん?どちら…まさか、ヴィルの…」
『そうだ。ヴィルの兄、ジグルード=シェダ=サルバルート…此度は俺も同行する。』
そうだ!ベルギリウスさんと同じ眉毛だ。
…まてよ…今、弟に跳び蹴りした私は…
「…ごめんなさい!弟さんに……ん?同行?ええー?ちょっと待ってくれ。じゃない、待って下さい…」
『ハハハハッ!まぁ、落ち着いて…イベルナ族との話を聞いて居れば分かる。暫し話をさせてくれないか?』
「は…はい。皆と話すんですか?」
『ああ。よろしく頼む。』
「スバル!」
睨むようにこちらを見ていたスバルに駆け寄る。
そして声を小さく、届かないように言った。
「スバル…今、アルタインの騎士が来ている…」
「…はい」
「私もどういう訳か聞いていないんだが、話をしたいと言ってる。いいか?」
「………」
「どんな事を言われようと、私はスバル達と自分の為に、不利にならない様に、相手の言葉次第で言い返すことも考えている…遠慮する気はないんだ。私も隣りで聞く。頼む…集めてくれ。」
ジッと私の目をみた後、一つ頷いた。
「皆!全員御使い様の元に集え!」
様子を伺っていたイベルナ族が集まってきて、膝をついた。
その相対する距離、5メートルといった所。
異様な緊迫感に私の顔もやや引きつって居るのを自覚しつつ、スバルと先頭に立つ。…と、ライネル達が周りに来た。
そして、同じ様に向かいにいるジグルードさんに頷いて見せると、私を見ていたジグルードさんと、ギル達も頷き返してくれた。
『此度は夜遅くに申し訳ない…私は、アルタイン国第4騎士団副団長である、ジグルード=シェダ=サルバルートと申します…どうぞ、起立して頂いて結構です。』
一斉に立ち上がり、冷たい目でジグルードさんを見るイベルナ族にヒヤリとさせられる。
『…私達が来た目的は、謝罪と同行する為である!』
「なっ…謝罪だと?…」
ぼそりと言ったスバル。後ろのイベルナ族もザワザワし始めた。
『…貴殿達イベルナ族に、今更何の謝罪かと思うのも無理はない…が、今更と知らぬ振りはしたくない。…知らなかったでは済まされない事をしたと思っている。』
「…くっ」
「スバル…言って良い。暴言でなければ構わない。」
「はい………謝罪を申されても、今までの処遇を簡単に許せる程軽いものではない。と、お分かりか?」
『そうだろうと思う…それに、バーブル伯のイベルナ族への対応を、正直詳しくは知らぬ…』
『兄さん…』
「知らぬと!?…」
『知らぬが、攻め入る覚悟が出来る程の憎む理由があったからこそ、帝国側についた。…しかし、もう一度戻ってくれた。それに、感謝と謝罪をせねばならない。』
「……言葉なら、一時のみで何とでも言える。それに、貴殿ら…アルタイン国の為ではなく、カナメ殿の説得に応じた次第…謝られずとも、この様になったのだ!!」
『貴殿の言う通り、我々の謝罪は意味が無いかも知れない。しかし、同行は許してくれ。貴殿らの行動の邪魔はせぬ。協力という事で参ったのだ…』
「それがわからん!イベルナ族のみで行って初めて出来る作戦ではなかったのか?貴殿らはまるで我らと違うだろう…」
『それには方法がある。似通う事が出来たならば、同行を許してくれるか?我々は、貴殿らイベルナ族になりきって…イベルナ族として、戦おうと集まったのだ。船の都合上この人数がギリギリと判断したが、まだ呼べば来る…』
「ではなにか?イベルナ族に扮した貴殿らが功名を配されるか?」
『違う!イベルナ族として、だ!手柄は誰が取ろうとイベルナのもの。…今一度、貴殿らとの確執を解き、協力して、戦を終わらせたい。そして、本来有るべき国民として、不遇されないようにしたいのだ!』
「………それは誠の本意か?」
『嘘偽りない本心だ。誰にも文句を言わせぬ様、我々も奮戦し、将なり兵なりやり尽くす…そして、我々が貴殿らの闘いを見ているのだ。煩いだけの阿呆共も認めぬ訳にはいかん…だから、承諾してくれるか?貴殿らの為、我が国の為に…』
「………」
「私は賛成だ。…味方は多い方がいい。相手の数に対してかなり少ない私達には、1人でも多いに越したことはない思うぞ?…まぁ、どうやってイベルナ族になりきるのかが問題だけどな。」
「そうですね……我らになりきるとはどうゆう術か!?」
『今、見せよう……』
相対したジグルードさんを筆頭に、皆が木筒を掲げて……
『始めよ!!』
頭に被った……
「…え?な、何をして…水?…」
被った上で、塗りつけるように髪をかき混ぜている。
「黒…髪が……ハハハ…スバル!!」
「え…はい…」
『如何か?鏡が無くてな…ちゃんと染まったか?』
「ハハハハハッ!ジグルードさん、顔も黒くなって……クハハハハ!皆ヤバイぞ?クフフフ…」
「く、クフフフ……貴殿…拭くものは?…」
ーーーーハハハハハッ!ーーーーー
「ふふふ…ヴィル!手拭いは用意してるんだろなっ?」
「な、なんで俺に聞くのかな?」
「やっぱり考えたのお前か?最高だよ!!」
「ここにあるよ!」
「ん。ククク…お前らもヤバいぞ?顔。……皆!手拭い濡らして配ってくれ!頼むよ!皆!」
「「「ハイ!」」」
イベルナ族の皆は、笑いたいのか怒りたいのか…恐らく両方で、変顔を披露しながら手伝いに来てくれた。
私も手拭い搾りに参加し、瞬く間に無くなって振り返ると、ぎこちなくイベルナ族が騎士達を相手にしていた。
「ここも…」とか、「こっちもまだ…」と、付いている箇所を教える声がそこかしこから聞こえる。
良かった…イベルナ族は、認められる存在だと実感させられた。
嫌う者は居ても、総意じゃないと、分かってもらえた。
半信半疑な私の言葉じゃなく、現実にそれが起こり、皆に希望が芽生えたはずだ。
私はイベルナ族じゃないんだけどな…
それよりどえらい、異世界人ですけどね〜!
盛り上がってるギル達とライネル達の場所に走る。
ライネル達もあの液体を被った様で、どちらかというと擦り付け合いになっていた。
中でも、団員にしゃがませて、セシルがその背に仰け反り、シャンプーされてるかのように塗られているのが笑える。
ククク…顔に付くのが嫌なんだな。
なら、私が付けてやる!
側に居たアルの髪を一撫でして、セシルに走る。
そして、鼻の下に手を滑らせた。
サッと距離を取り、人に紛れる…
「カナメーーー!」
「チッ…見られたか…くくく…」
「カナメ!……出てこい!」
「お、セシルが、声張り上げてら……ハハハハハッ!」
「髭!ブハハハハ!セシルがマジ最高だぜ!」
「み、見るな!」
「ふふふ…セシル…くくっ」
「手拭い!」
「良いじゃねぇか、それで!ハハハハハッ」
「…ほらよっ!」
「……ありがと…………居た!」
「ヤバッ!……ゴメンよ!どいてどいてどいて!」
人をかいくぐりながら、逃げ続け、セシルを撒けたのを幸いに、人ゴミから外れて草木に潜り込んだ。
そそくさと、ギル達やライネル達が見える所まで移動し、腰を下ろす。
皆が落ち着くまで待機。話し合いには参加しなきゃいけないからな。
しかし、ギル……元気そうだ…
良かった…また無愛想に戻ってなくて…
うん…好きだ…まだ好き…
思い出と思い込んでただけだ…
側に行きたい…
抱きしめて欲しい…
まだ私の事を…
「ち、違う…」
そんなこと、あるはずない!…し、あってはならない!
誰か、良い女捕まえたのか……?
「ば、馬鹿野郎!」
未練タラタラかよ…キモ……
最悪…
望んじゃいけない…
友達として。元仲間として…
「やっぱり…好きだ…」
突然、座ったまま羽交い締めにされた。
肩が跳ね上がるが、その声にまた、固まる……
『……好き?』
「せ、セシル!!」
『だれ…』
「は、離してくれ…ませんか?」
『ね、誰?』
「…誰でしょうか?」
『誤魔化さない…』
「………今、背を向けた、でかい奴。」
『…ん。』
「セシル、さん…離して…?」
『嫌』
「はあ…逃げないから。絶対」
『ん。』
解放されたが信用されてないらしく、服を掴まれたままだ…
『好きなもの』
「え?」
『手放すな』
「…でもさ」
『何が、カナメの幸せか…アイツの幸せは何か…アイツにしかわからない……もし』
「……もし?」
『振られたら…』
「はあっ?」
『次が居る。最悪…ライネルが、居る』
「ふふふ…アイツは兄ちゃんだよ。……アイツにしか…か…」
『…我が儘になれ』
「う〜ん…ハハハ」
『それと…』
「ん?」
『今日の事、許さない』
「ええ〜!」
『何か考えておく』
「怖っ!」
『ふふふ……』




