別れ
「ん…」
「カナメっ!!」
ここは?…手が暖かい…
ギル………の手…
「…カナメ!痛いところは?い、医者を…」
「大丈夫…私は寝てしまったのか?」
「…ああ。丸2日寝ていた…起きてくれて、良かった……」
握った私の手に額を乗せるギルの姿に、胸を締め付けられる。
この手を振りほどかないとと思うのに、出来ないまま目を閉じた。
「カナメ…すまない」
「何言ってんだよ…それよりギル…寝てねぇだろ?顔色悪すぎだ。隈も…」
「俺のことはいい…」
「駄目だ…宿に帰ろう。そしたら眠れるだろ?」
「…しかし…医者を呼んでからだ。待ってろ…動くなよ?」
「わかったわかった。」
ギルが手を離して出て行った。
ため息を吐くと、窓から四郎が入ってきた。
思わず笑みが零れる。
「四郎〜会いたかった……ごめんな…」
すり寄ってくる四郎の背を撫で、しばし懐かしさに浸る。
そんなに時は経っていないのにな…
それから医者と話をして、後から来たアルとヴィルも一緒に宿へ戻った。
気を張っていないと笑えない…
そんな優しい顔を見せられると泣きたくなる。
悲しそうな、心配そうな顔は私を酷く惨めにさせる。
やっぱり一緒にいることは辛い…
『皆…話がある。』
私をベッドに入れ、囲むように座る仲間に切り出した。
「な、なんだ?」
「どうしたの?」
「………」
『私さ…このチームから抜けるよ』
「「ダメだ(よ)!」」
「何故だ!!守れなかったからか?!俺が不甲斐ないから」
『違う!!違うんだ…ギル達のせいなんかじゃない。私の問題だ…辛いんだ。私が普通になれなくて、お前らが気にするのが…大事だから、辛いんだよ…』
「カナメ…」
「馬鹿野郎!泣いて、叫んで八つ当たりしろよ!楽になるかもしんねぇじゃねぇか!そんなことで俺らは嫌いにならねぇ…仲間だろうが!」
『アルの方が馬鹿だ…私は、お前らに会えてどれだけ嬉しかったか…安心したか……こんなに思ってるのに当たれるか?…今回のこと、笑ってさ…流せたら…また元に戻れたと思う。けど、結構……無理みたい。時間がさ…必要なんだよ。多分…』
「俺達はカナメがいないと辛いんだよ?」
『…そこは、男として我慢してくれ。私は女だろう?』
「狡いよ。そんなの…」
『仕方がないだろう?女の特権だ。ハハハ』
空笑いがヤケに虚しく響く…
俯いて黙りこくっていたギルが顔を上げた。
「俺は許さない。離れることも、守れなかった自分も…こうなってしまった元凶も!!」
『ギル……泣かないで…泣かないでくれよ…お前は悪くないっていってんだろ……頼むよ……』
ギルの涙に吊られて、自分も後から後から流れるのがわかる。
怒った顔が歪み、飛びつく様に抱きしめられた。
アルとヴィルがギルの背中を叩いて、ハッと我に返った。
そして2人は部屋を出て行く…
『あ』とか『う』しか声を出せなくて引き留められなかった。
まだ話は終わってない。それにこの状況…
「俺は、お前を愛している」
愛……愛している?
『い、今…なんで今なんだ!!??馬鹿野郎!』
こうなる前なら!
違う…完全に八つ当たりだ…
馬鹿なのは私の方…
今、こうならなかったとしても言えなかったんだ…
私にはエヴァとの約束が合ったから…
それに、私が気付かなかっただけだ…
ヴィルが言っていたじゃないか…
父親じゃない。女の子として見てるって……
なんて、私は馬鹿なんだ…
「すまない…こんな目に合わせた俺は、言う資格なんてないのは分かっている。」
『違う!』
「違わない…だが、俺には今言うしか引き止める術がない…叶わないとも分かっている。が、離したくない…好いている…どうしようもなく……」
『私も…違っ……』
言ってどうする?馬鹿じゃないのか?
思い合ってようが、私が犯された事実は変わらないじゃないか…
「…私も?カナメ……」
『違う…違うんだ……私はヤられたんだ!言うぞ…言うからな!私は、処女を失っただけでなく、何度も、何度もされたんだ!この国で言う穢女っ』
「カナメ…カナメ!どんなカナメでもいい。穢れようと、構わない…俺はカナメじゃなければ駄目だ…」
『くっ……私が嫌だ!…重荷になりたくない。悲しい顔をさせたくない。責任なんて負わせたくない!…もっと相応しい女がいるはずだ。ギルを幸せにしてくれる、良い女がいるはずだ!私は駄目だ…分かってくれ……辛いんだ…苦しい…ん、だよ…』
「……っ…」
口にカサカサした柔らかいものが当たって…
『ん!ギルっ!』
キスされた……なんて馬鹿なんだ…
嬉しい…嬉しいよ……私は汚いってのに…
「お前の気持ちは俺にあるんじゃないのか!?」
『くっ……ないっ!言わせるな!…もう、許して…許してくれ…』
胸を押し返す私を力ずくで抱きしめたまま沈黙が流れる…
私の涙はどんどんギルの服に吸い込まれ、シミを広げていく…
「俺がカナメを苦しめているんだな?」
そうだけど違うんだ…
本当はこのままで居たい。
抱きしめられたままで居たい。
この腕を離したくはない……
だけど……頷くしかないんだ…
好きだよ…好きだ…
私を撫でるその手が
私に向ける微笑みが
私のやることを見守ってくれている目が
生真面目で融通の効かない性格が
私のやることを最終的に許してくれる優しさが
居るだけで守られていると実感出来る存在…
キスされて、こんなに胸が暑くなる存在…
付き合った義務ではなく、自分からしたいと思える存在…
私の安心できる場所…
幸せでいられる場所…
「わかった……しかし、覚えておけ…俺はカナメ以外愛せない。」
『馬鹿だ…どうしようもない馬鹿だ!』
「馬鹿でいい…いや、馬鹿がいい。お前が、時で傷を癒やせば…また会えるか?」
『……ああ。会うだけなら……でも、離れても…まだ、仲間と思うのは許してくれるか?』
「もちろんだ…カナメ…待っている」
『ああ…私のせいでたくさん傷つけたな。ごめん…幸せになってくれ。それが私の願いだ。』
「………」
自然に…極自然に、どちらともなくキスをして、寝かされた…
そうしてギルは、私にシーツを被せ、部屋を出て行った…
2日後…ライネルの荷車で町を出た。
私は、ライネル達と一緒にいる意味もないのに、ハンターを続ける意味もないのに…旅立った。
いつだったか、ギルと話した
『会いたくない、顔を見せるなと言われたら…』は、
全くの逆…私がギル達に言う言葉になってしまった……




