転落
『最後は結構上物だ……ひひ』
『手を付けちゃ…後は知らないよ』
ん…宿か………だ、誰だ!?
『おっと…』
布を口に押し付けられる。
跳ね起きようとも上に乗られ、ビクともしない。
『まだ眠っててね……愛玩具ちゃんっ』
霞んでいく意識の中、ソイツの手首に力の限り爪を立てた。
飛沫が顔に飛ぶ…
『っつー、この雌豚ぁっ!』
頬に激痛を感じながら意識を手放した………
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「つぅ〜ッ…」
激しい頭痛と吐き気…熱く痺れるような頬の痛み……
薄目を開けると石造りの部屋に鉄の格子…
そう『牢屋』そのもの…
私は誘拐されたと悟って、ドクドクと煩い心臓を抑えた。
そして鼻を啜る、背後の音源に目を向ける。
「……なぁ…一応聞くが、ここは何処だ?」
肩を寄せ合う六人の女達…いや、少女も混じっている。
一様に不安気な表情で、こちらに目を向けた。
「…わ、わかりません」
「だよな…私が連れてこられてどのくらい経ったか分かるか?」
「わかりませんが…朝食の前に来て…パンを置かれてから時間も経ってるし……」
「…なるほど。昼前後か?…皆、状況を話してくれ。」
話し聞くに、大半がゼルスで布を嗅がされ、意識が戻るとここにいた。後は、ゼルス近郊の村で薬草を摘んでた時などだった。
ここに来てからは、村出身の2人が先に来て、3食出された…
真っ暗で、朝か昼かもわからないが、恐らく朝夕2食…つまり、1日と半日以上はここにいたということ。
その後私達が連れてこられ、7人になった。
その内3人は荷車で目が覚め、森の中のこの館に引きずられて押し込められたと言う…
泣いているのは、私より先に目覚めた女だということだった。
どうしたものか…
私はあの時『愛玩具』と言われた…即ちそういう目的での誘拐。
何をされたとも言わない様子から『まだ』だとわかるが、時間の問題だ…
脱出は、この部屋では無理…
窓もない。光も、柵の外の松明のみ…
鍵を開けられた時しかないが、どの様な建物かが全くわからない為、逃げられる可能性は低い。引きずられて来た3人はわかるかも知れないが、現実的に考えて、動揺錯乱していた彼女達にそこまで期待出来る訳がない……
とりあえず情報を集めねば…危険だが、見張りか何かを呼ぶとしよう。
「皆…少し泣いている真似をしろ」
「え…何でなん…?」
「誰かを呼ぶ…頼むぞ。………誰か〜!誰か〜!出してくださいっ!お願いします〜!!誰か〜」
『煩い!静かにしてろ!』
ん?川北の言葉?…現地人じゃない?
「なんでっ、どうして私は連れてこられたん?!ここはどこなん?」
『うっせぇんだよ!おまえ等は黙って頭を待ってりゃいいんだ。へへへ…』
厭らしく笑うソイツは、汚らしい風貌の中年男。微かに酒の匂いもする。
「盗賊なん?アンタら?!」
『他に何に見えるってんだ!優しくヤられたきゃ言うこと聞くんだな!ハッハッハ』
「ひぃっ…嫌や…なんで、なんでぇえぇ〜……」
彼女達も騒ぎ出す。演技じゃない。今の状況が明らかになったのだ…本気で怯えているのだ。
『うるせぇつってんだろ!!俺らが先にやっちまうぞっ!』
「…………」
『……そうだ。静かにしてろ…じゃあなっ。ハハハハッ』
「チッ…マズいな…」
「うぁぁん…おかあさあ〜ん!」
泣き出した一番小さな子をギュッと抱きしめる。
「泣くな…泣くな…目を付けられぬ様、小さくなって私に隠れて置け。糞野郎…子供まで手を出しやがって……」
暫く経って、水とパンを置きに来た。それが鍵を開けず隙間から置くので、手も出せやしない…
「もうすぐ頭が帰られるからな」と、ゲスな笑いを響かせ、出て行った。
されるがまま、受け入れられる訳がない!
鍵と剣さえ手に入れればなんとか出来るかもしれないのに…
キィーと、扉の音がする。
皆『来た!』と、身を縮ませ、背を向ける。
私もその中に混じるが、聞き覚えのある声に引っ張られ、そちらを見た。
『アイツ!アイツだよ!!この傷作った女。僕、やっちゃっていい?』
『ふん…おめぇが気ぃ抜くからだ。俺様の後ならやってもかまわんぞ。』
『それで十分っ!……存分に仕返しさてもらうからな!糞女!!』
ニヤニヤ笑いながら、吠えていた幸薄そうな若い男が鍵を開け、頭以外の3人が入ってくる。
私が一番らしい…迫り来る3人に身構え、抵抗を弱めにしてタイミングを計る。
私が檻の外に出て、剣を奪い、殺る……
頭をやらねば意味はない。他の仲間に知られてもマズい…
極限に立たされた私には、この方法しかないのだ。
「嫌です〜お願いします〜」
『よいしょっと…僕にケガさせたからだ、ハッ』
奴らの手を振り払い、その中の1人の剣を抜く。
頭の前に居た奴を斬り、頭に剣を伸ばす…
キーーン
防がれた……
愕然としつつもまた剣を向ける…
『オイ、お前…他の女共がどうなってもいいんだな?』
「………」
『何故逃げない?お前なら1人で逃げることが出来るんじゃねぇか?』
ニヤリと見下す筋肉だるまの頭…
そう…私だけなら逃げられる…
私が女達を置き去りに出来ないことを気付かれた…
終わりだ…
コイツは強い…
檻の入り口に立つ、私に傷つけられた奴も余裕を持ってこちらを眺めているし、手慣れと推測出来る…
殺るのは無理か…
「…なら、女達を逃がしてくれ…私だけでは駄目か?」
『ほう…身代わりになるか。しかし、逃がせばお前も逃げるんだろう?』
だよな…馬鹿じゃないよな…
厳しいだろうが、ハードルをあげるしかない。
「…逃げないように繋げばいい」
『ハッハッハ!面白い…しかし、外へ放り出して獣の餌にするのか?良い選択とは思えんがな〜くくっ』
「ここは何処だ?」
『なぜお前如きに言わねばならん?お前は立場がわかっていない。お前は、俺様の奴隷なんだぞ?』
「……くっ…なら…なら…私以外手を出さないでくれ…頼む…」
『それが奴隷の頼む態度か?ん?』
剣を置き、床に膝を着く…そして頭を下げ…
「お願いします…私以外手を出さないで下さい…女達を町に帰して下さい…お願いします!」
『クククッ…無理だ。町には帰さん。俺様だけじゃねぇんだ。新しい愛奴隷が欲しいのは!』
「お前っ!まだ女が居るのか?!」
『お?やるか?こっちはお前を殺して、アイツらをいつもの如く喰うだけだ。』
「…どうすればいい…どうすれば聞いてくれるんだ…?」
『そうだなぁ…』
頭が膝をつく私の前に屈み、顎を掴む。
舐めるように顔をみて、1つ頷いた。
『お前の奉仕次第で聞いてやらねぇこともない…』
「奉仕……」
『ベント…良い女じゃねぇか。生きが良くてよ〜!やっぱお前にはやらねぇ事にする。』
『バシュリーさん!なんでっ?!』
『うっせぇな…口答えか?』
『……わ、わかったよ…』
「……町に帰すには、明確に何をすればいいんだ?それが出来たとして、どうやって帰したと証明してくれるんだっ?」
『証明ねぇ…その時は見せてやるしかねぇだろうな。しかし、お前1人で俺様を満足させられるかだがな…クックック…』
「今日…今日出来たら…明日、帰してくれるのか?」
『自信があると?ハッハッハ!…いいだろう。やってみせろ。…お前ら、俺様が良いと言うまで、ここの女に手を出すなよ。全員に言っとけ!!』
『りょ、了解ッス!…言ってきます…』
『ベント…ラミーをくれてやる。それで辛抱しろ。』
『……はい…」
『さ…早速やってもらおうじゃねぇか。来い、女!』
ノロノロと立ち上がり、顔を伏せたまま一歩…一歩と足を動かす…
ガッと腰に腕を回され、扉から出る…
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
女達の謝罪とすすり泣きが扉で聞こえなくなった。
これからどうなるのかなんて分かり切っている。
今しか…今しか…私の体は守れない……
逃げたい…私は『約束』があるんだ…
でも…でも…見知らぬ女達だが、見捨てられない…
この国で結婚するには処女である事が重要で、貴族程ではないが、結婚するのが難しくなる。
私は日本の病んでしまった友達を見ている。それよりも貞操観念が高いのに、させられるわけないじゃないか……
私はただ興味本位で失っただけ…その後も、付き合った奴の願いを聞いてやっただけ……
だから、気持ち的にマシ…
……な、筈だった。
この乱雑な部屋に不釣り合いな、高級感のある大きなベッド…
そこに腰かけ、手招きする盗賊頭…
嫌だ…本当に嫌だ…
気持ち悪い…怖い……
こんな奴にされるなんて…嫌だ……
皆…助けてくれよ……
助けて……ギル!!
『さあ、満足させて貰おうか?ハハハハッ』
私は、失った………
大切な兄との約束も……
こうなって初めて気付いた恋慕も……




