幸せからの
海辺の食事処…いや、レストランと言うべきだろう。
ジャンルは、アルタイン王国なのだからアルタリアンと言うべきか?まあ、寒いことを考えている間に食べ終わり、腹八分目で店を出た。
そして、そそくさと店の裏に連れて行く。
ボタンを外され、訳も分からず戸惑う2人と、苦悩する1人…
「さあ、お脱ぎになって?」
「はぁ?お前」
「黙らっしゃい!わたくしをこの様な姿にしたのです。あなた方に拒否権はありませんことよ!」
・・・10分の攻防の末、泣き笑いをしながら人力車へ乗り込んだ。
その横には、とってもコワーイ顔の男が睨んでます。
それも笑いのツボに入り、コワーイ顔を見ると思い出すので、ギルに背を向けてやり過ごすことにした次第です。ふふ
今、私達は、岬に建つ古代遺跡へと向かっている。
視界に広がるマリンブルーの海が、私に飛び込めと囁いている。
泳げば気持ちいいに違いない。潜れば楽しいに違いない。
この格好なのが残念で仕方がない…
「ギル…私、やっぱりいつもの服装がいい…」
「…そうか…美しいが、俺も自然体のカナメが好きだ…」
照れるじゃねぇか。
カッと熱くなるのを誤魔化してごつい腕をバシバシ叩く。
「美しい?ハハハ!化粧だ化粧。化けてるだけだ…私な、海で泳ぎたい。釣りもしたいし、屋台の焼き魚とかかぶりつきたいし、この服じゃ不恰好だろ?だから今日限り、美しいらしいカナメちゃんは閉店させてもらうよ。」
「………あ、ああ。お、お仕置きされるようなことをしなければな」
「ん?しねぇって!あんなこともうないって!しかし、あれは良く飛んだよな!ハハハッ」
あれだ。孤児院を脱出する時、私をバレーボールの様にレシーブさせたことだ。
ダンスとかでよくやってるじゃん?と、心の中で言い訳する。
「練習しておくか…」
「いつ使うんだよ!」
「ハハハハッ」
ギルが目を細めて笑う。
それを見て、変わったなと思う。
前まではどんなにバカをしても、ニヤリとするか、笑いを堪えるかだったのが、大口開けて笑うようになった。
自ら冗談を言うぐらい、雰囲気も柔らかくなったと思う。
なんだか嬉しくなって、私も隣で笑ってしまった。
程なくして、岩を掘って造った様な遺跡に到着。
上まで登って、海に張り出した岩盤の上で『心中を迫る女』をアルにけしかけ、大笑いした後そこを去った。
ヴィルが大盛り上がりで、ノリでナイフを抜いてしまったのはやりすぎたかな?ハッハッハ
ひとしきり遊んで、食べて、帰ろうとしたのはもう深夜も間近。
散々引き回した人力車に乗り込もうとした時だった。
「あっ!アイツ…」
「どうした?」
「あ……いや、何でもない。」
「…?早く乗れ」
「ごめんごめん」
アイツだ。ナハルのハンター街に初めて行った時、なんだかんだでお礼にぽっぺにチューしてやった奴…確か名前は……
「ライネル=スパーダ」
「……誰だ…知り合いか?」
「知り合い…かな?一回会っただけ。確か剣聖とか言ってたような…」
「剣聖の神風、ライネルのことか!」
「神風?なんだソレ!ハハハハッ!通り名?」
「……知らないのか?」
「知らないな〜。そんな有名人なのか?」
「…名の売れた剣豪集団だ。3年前、シルダが攻められたことは知っているか?」
「…ああ。ウィルナードも援軍に行った。」
シルダとはリーンの西にある、鍛冶の町。
ウィルナードもその時は駆けつけた。
私は言葉をやっと聞き取れるぐらいの頃で、出て行ってからようやく『戦争に行った』と理解したのだ。
そりゃもう驚愕したさ。毎日教会で祈るシルエラとエヴァ…私も神なんかしんじちゃいなかったが、本気で祈った。
2週間で帰ってきて、2日滞在の、物資提供だけと言っていたから、危ないことは無かったらしい。
「そこで傭兵として参加し、風の様に通り過ぎた後に、敵軍の兵が次々倒れていったらしく、それが神風の由来らしい。最終的に大将を捕らえて武功を上げ、ハンターのみならず、貴族方にも『剣聖の神風』と名が通った。最近では大物の盗賊頭を殺ったと聞く……」
「へぇ〜……凄い奴だったんだな〜」
……私が会ったのは確か2年前…有名になった後だな……
有名人にチューしたわけ?それ、まずくねぇか?やっちまったか?
いやいや私、もっとガキンチョだったし大丈夫だろ?大丈夫!!
「大丈夫とは…何をした?」
「…喋ってた?」
「ああ。」
「……テヘッ」
「誤魔化すな」
「大したことじゃねぇよ。2年前一度会ったきり。名乗っても無いしなっ」
「…言えないことか?」
「ちげぇよ!お礼にキスしてやっただけだ。ここにな」
「…………」
「…なんで黙るんだよ…お子様ワンピースの少女にポカーンとしてたぞ?ハハハハッ」
「…もうするな」
「バーカ!ヤキモチか?ハハハハッ!今しちゃマズいだろう?アル曰く、うら若き乙女らしいからっ!」
「………」
「乳あれば何でも乙女って感じか?あのエロ魔神め!」
「…仕方がない。男とはそういうものだ。気をつけろ」
「普段の私じゃ例外中の例外以外こねぇよ。男色の奴には気をつけよう…」
「それも複雑だが…」
「ん?…心配すんな!投げ飛ばしてやるから!」
ニヤリとギルを見ると、頭を撫でられた。
腕に頭を預け、寄り添う。
「娘を心配する父親だな…ああ、安心する…」
「……………はぁ…もう、それでいい。」
もたれた腕を抜き肩に回された。
ビックリして顔を見たが、同情の目に見えたので好意に甘えてもたれかかった。
私は守られている。
守ってくれる仲間がいる。
夜の涼しい空気に、心地良い暖かさが剥き出しの肩をさする……
あまりの気持ちよさにすっかり寝入ってしまったのだった…。
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『父親』という言葉は胸に針を突き刺されたかの様に痛い…
ヤケクソの様に肯定したが、行動は裏腹に、肩を抱いた。
驚いてこちらを向くカナメに、この痛みが伝わればいいと思った。
拒絶して、俺のことを男と認識して欲しかった。
しかし、腕は拒絶されず、甘えるようにすり寄ってきたカナメは、ただ身を任せ、すぐ眠りに堕ちた。
冷えた肩を撫で、顔を寄せても、安らかに眠る思い人…
体を支えてもずり落ちそうになるのに見かねて、横抱きにし膝に乗せるが、ムニャムニャと猫のような声を出したのみ…
ここまで安心されては、嬉しいより辛いが勝る。
思い人の女の象徴を目の前に置かれ、数々の誘惑が頭をよぎる…
手を伸ばせと訴えるもう1人の俺。
目を瞑ると益々想像してしまうのに耐えきれず、女を掻き抱いた。
今動けば…俺は…間違いなく、禁忌を犯す。
耐えるために、これくらいは許してくれ……
俺の醜い衝動をちっぽけな理性で繋ぎ止める…
どれくらいそうしていたのだろう…
『ありがとう』
カナメの声にハッと我に返った。
『感謝』の言葉…
寝言なのだから、俺に対して言ったのではないかもしれない…
それでも、普段甘える何てことが無いカナメが、俺に甘えてきたのだ。
それに気付くと、途端に暗雲が掻き消え愛おしくなった。
俺といて、安心出来る事…それは、否む事ではない。
『慕われている』
現に今、俺の胸元を掴み、幸せそうな顔をしている。
意識がある間、俺が、肩や髪を撫でても不快なことはなく、穏やかな顔で目を閉じていたではないか。
こんな無防備を晒すのも、俺を頼っているから…
身も心も俺に預けてくれている…
意味は違っても、カナメの特別になれていた。
額に口付けて身を離し、今まで一杯一杯で考えに至らなかった、『上着を脱いでカナメに被せる』という単純な動作で誘惑を断ち切る。
この、愛おしくて止まない猫は、度々俺の心を掻き乱すが、俺に甘えて腹を見せる程信頼し、安心出来ている。
で、あるなら答えねばなるまい。
『お前のためなら何でもしてやる……愛している、カナメ……』
「あれ〜?カナメ寝ちゃったの?…こんな所はまだまだ子供だね〜」
頬をつつくヴィルから一歩離れる。
「起こすな…」
「え〜、でも、化粧落としたり、着替えとかさ…やっちゃう?」
「阿呆…無粋な事はさせん。慣れない女の姿で疲れている…このまま寝かせよう。」
「ふふふ…なにか進展あった?」
「…ない。俺は父親だ。」
「あちゃ〜………で、どうして嬉しそうなのかな?」
「……そう、見えるか?」
「うん。幸せそうで何よりだね。ギルがこんなに思ってるのに、この子はホント、鈍感で救いようがない…」
「…ヴィルは…」
「俺?俺がカナメを好きだと思ってた?…そりゃあ好きさ!親友だから……ふふふ」
「そうか…」
「安心しなよ…応援してる。カナメが気付くと良いんだけどね…」
「それは駄目だ。……それよりカナメの部屋を開けてくれ。」
「ああ、ごめんごめん…はい、どうぞ。ギルもそこで寝ちゃえば?ハハハッ」
「俺は………戻るぞ。」
「勿体無い…据え膳食わねば」
「据え膳じゃない。ほら…行け。」
「ホント、損な性格してるよ…」
「…わかっている」
俺はこの選択を死ぬ程悔やむことになろうとは、露程も気付いていなかった…………
ーーーーーーみ〜つけたっーーーーー




