私のネタバラシ
今、私と四郎は、約束通り広場でケイナーを待っている。
それも、意気揚々と…
実は、早朝からラグの家に転がり込んで、4人の家主を叩き起こし、南方訛り敬語バージョン(マラッサルの不良が先輩と話す時の言葉遣い編)をみっちりレッスンしてもらったのだ。
初めはふざけて教える4人だったが、『私が死んだらお前らのせいになるぞ』と諭したら、とてもスパルタ…真剣に講義を始め、最終面接試験の後、無事合格を会得した。
あれだけビシバシやられたんだ…自信があって何が悪い!ふふふ
『…カ〜ナくんっ!お待たせ〜…早よ出たつもりやったんやけどな〜』
「こんにちは、ケイさん。全然大丈夫です。俺も、今日は早よ食べ終わっただけですから。」
『…ならいいんやけど。ま、行こか。今日はアイツもはりきって、シローの餌買って待っとるんやで。』
「ハハハ…なんか目に浮かびます…」
『クククッ、シローおって良かったわ〜』
昨日と同じ集合住宅の4階に行き、部屋に入って歓迎を受けた。四郎の飼い主としてだが。
今回、ギル達は私をつけてきていない。
浮浪者ネットワークで居場所を回し、随時アルに連絡が来るようになっている。警戒されているなら、マキシムも必ず周りに人を置く。不審人物と確定させる、粗探しをすると思う。だから私達は警戒心を見せず、平々凡々の何処にでもいる民を装うのだ。
部屋で、不良の先輩と何気ない話や、カードゲームをしながら過ごす…
賭けないのか?と、ガッカリは秘密だ。
うん、緊張感とか普通あると思う…だがしかし、なんだろう?このなごみムード…
四郎効果か、マキシムの気性なのか、あるいはケイナーの軽口か…
話にもツッコミ所が多すぎて、思わずつっこんでしまったり、呆れて溜め息を吐いてしまったり…と、結構ボロが出ているのは否めない。
でも、ワザとな気もするので、遊ばれてるのかもしれない…
帰る時には、私も…
「ゲームもキリの良い所で終わったし、そろそろ帰ろうかな…」
『明日も来いよ!』
「うん、そうする!また明日!」
という雰囲気でドアを閉め、宿へと帰ったのだった。
………はて?明日とは言ったが、時間や場所はどうするんだ?ケイナーは迎えに来ないのか?直接来いってこと?
怒られるな…確実に。次の日の約束なのに、『曖昧』は、気を抜いていたとバレバレだ…
まぁ『馴染んで、マキシムとケイナーの会話を聞いておけ。俺ら(兄として)の良いとこアピールしとけ。』って任務だから、馴染み加減は抜群と言える。
アルに小突かれるぐらいだな。ハハハ
「馬鹿野郎!俺がどれだけ気を張ってたと思ってんだ!…殴らせろ!」
「ごめんってば……あ…明日!明日、アルも連れてきていいか聞いてみるから!…で、待ち合わせは、今日と同じ時間に少し待って、来なかったら1人で行くことにする。そこまで重要じゃない。大丈夫だ。」
「チッ…浮浪者の酒代、お前持ちだからな!この件が終わるまで!」
「えぇ〜…」
「えぇー、じゃない!爺さん総動員何だぞ?お前の為に!」
「…だけどさ…だけど……分かりましたで御座います…」
「ふふふ…ま、4日後の計画実行までに俺達を引き合わせるのが仕事だから、頑張ってねカナメ。」
「うん。…ヴィルのおかげで日付が分かったのは助かったよな〜」
「でしょっ?ふふーん!」
「…カナメ…無理はするな…」
「無理はするな!刺激をするな!言葉に気をつける!年上をたてろ!北の話はするな!女とバレるな!剣は使えないと振る舞え!浮浪者への合図を忘れるな!情を持つな!安全第一!…はぁ、はぁ…OK〜?」
「…いいだろう。」
翌日も、その翌日もマキシムらの元に行った。
兄の来訪は許されなかったものの、決まって明日も来いと言われるのだ…
何故だろうか?暇なのか?
こっちとしては、その方が良いから喜ばしい限りなのだが…
そして今日…孤児を運び出す前の日、私はギル達を招き入れるつもりで来た。
それは、機を見て、浮浪者伝いに知らせる。仲間達は近くの茶店まで来ているので、時間はそうかからない。
四郎との戯れ(餌付け)をひとしきり楽しませて、窓に立ち、見えないようにひらひらと手を振る。そして振り返って、話を切り出した。
「…マキシムさん…ケイさん…」
『『ん?』』
「…私、いや、私達…町を変えようとしてます。」
柔らかな雰囲気から、瞬時に鋭利なものに変わり、空気が張り詰める…
『『………』』
「先に謝っておきます。ごめんなさい…私の名前はカナメ。病気でも何でもない、川の北側からハンターの仕事を求めて、この町に来ました。私の素性は全て嘘です。」
『……そうか…俺らとおったんは、そのためか?』
声はいつもと変わらない…しかし、目は…顔は、強い怒りを表す険しい表情だ。
私が騙したんだ。当然だか…切ない。
「……そうです。私は、私達の計画を実行するため、マキシムさんに邪魔されないよう、変わった行動や言動がないか見ていました。何かあれば止めるために。…全然見せてくれへんかったんで、ただ楽しんでただけやったんですけどね。」
『あ、いつものカナや…』
呆けたような顔で呟くマキシムに、嬉しくなる。
私が、迫力あるマキシムを知らなかったように、マキシムも、言葉遣いが違う私を他人と思ったのかもしれない…
「はい。めっちゃ練習したんですよ?ハハハ…それで、今、私の仲間を呼んでます。マキシムさん達になんかしようってことじゃないんです。私達の計画を知ってもらって、邪魔をせんといてくれってゆう話をするんです。」
『俺らの下の者がおる…そう簡単に好きにさせへんで…』
にこやかに拒絶を示すケイナーに、一歩近づく。
「ケイさん…手は出せへんから、話を聞いてくれって言うてるんです!孤児院を、領主を、このままにしておきたくないから…ケイさんらをこのままほっといたらアカンと思うから動いてるんです!お願いやから聞いて下さい…」
『このままじゃアカンとか、なんでお前に言われなアカンねん!』
「そうですね…私は言う権利はないかもしれない。でも!…ケイさんが襲った金持ちは、そうされても良い様なことをしたのか?ケイさんらの組織の奴が、仕事にも就けず、犯罪犯して金を盗るのは正当なことか?」
『それは領主らが悪いんちゃうんか!?』
「そうだ。…そのために動いている。あのゲス野郎を引きずり出して、町から消えてもらう。そして、ケイさんらの犯罪を辞めさせる為にだ!…下の奴が私の仲間にやられる前に止めさせろ!ケガをさせたくないんだ。」
言い争いする内、表情が怒りに変わったケイナーと、無言の睨み合いだ。
負ける訳がない。仲間はすぐそこまで来てるんだ!お前達の説得は、私の役目なんだよ!
『…ケイ、行ってこい。』
『チッ………そいつ、捕まえとけよ!!』
マキシムに言い捨て、部屋を出て行った。
良かった…とりあえずは…
『……カナ…ホンマなんか?』
「うん。話を聞けばわかる。ただの妄想じゃない!本気だ。」
『……わかった。一応ここ、座ってくれへん?』
「ああ…よいっしょ…」
ソファーの真ん中に座るマキシムの右に座る。
『……連れてきたで。三人もな!』
帰ってきたケイナーは、相変わらず私を睨んでくる。
その後ろにギルの額と髪が見えた。
「……カナメ」
「一応人質っぽく座ってるだけだ。」
『お前なぁ…』
『ケイ…座ってもらえ』
『チッ……』
向かいのソファーにギルとヴィルが座り、左の1人掛けのソファーにはアルが座った。
「…カナメ…と、鳥が世話になった…騙されたことで憤りもあるのだろうが、話を聞いてもらいたい…貴殿がマキシムか?」
『…ん。貴殿て、ちょっとやめて…笑ってまう…クククッ』
『はぁ〜…マキシムやったらなんやねん…』
「うん。こっちがマキシムで、こっちがケイさん!」
『なんで俺が呼び捨てなん……』
睨みながらグッと顔を寄せてくるが、口元は笑っていた。
「ハハハ!マキシムさん!」
「「…はぁ〜」」
「カナメの杜撰さが、よく分かったよ…」
「ち、違うぞ?マキシムさんが四郎に絡むのを見ればわかるはずだ!…ですよね?ケイさん!」
『……さぁ、どうやろ?俺、こっちの味方やし。』
ニヤリとするケイナーに、もう睨まれずに済むと、少し安心した。
そこで私は、既に情を持ってしまっていたと、気付いてしまった。
「…嘘やん…ホンマの事やねんから、言って下さいよ…」
「…本題に入らせてもらう。」
『そうやな。そうしてもらおか』
「明日、孤児院から、商会の言う商品が運び出される……ーーーーー」
ギルが、計画の内容を話し始める…
疑問はあると思うのだが、黙ったまま、時に頷いたり、目を細めたりするマキシム…
ケイさんは、ギルをずっと睨み、私の後ろに立っていた。
私は、今日までのケイさんと『どこか違う』と思った。
それはまあ、本性全てをさらけ出す間柄になれたとは思ってない。けど、軽薄な感じで、余裕があり、人の機敏にすぐ気づく、薄い笑顔を絶やさない男だった。ゲンさんの言ってた『4人殺しとる。狂っとるんや』は、とても信じられない思いだったのだ。
それを今、覆されている。落ち着いてなどいないし、自分の機敏も隠せていない。私達がする事、ここにいる事、マキシムが平然としている事、全てが気に食わないといったように…
それは、孤児の保護の経緯を説明したところから、さらに酷くなっていったのだ…
ソファーをギリギリ握りしめているのが、私に伝わるとも気付かずに……
「最後に…お前達は、最終的に捕まることになるだろう…組織の頭。これを捕らえねば、貧困街のゴロツキや、悪評は消えない。死罪にはならないだろうが、檻に入る事になるだろう。部下達も、訴えがあればそれは免れない。」
『……そうやろな…。で、なんでそれを俺に言うんや?逃げることも出来るねんで?』
「…お前は逃げない。全て見届け、部下の為に自ら捕まる男と踏んで、話をする事に決めた。そういう男だと、俺達に伝えた老人がいる。俺達はそいつを信じたということだ。」
『…誰やろ?えらい紳士に見られとんな〜ハハハ…老人助ける殊勝な性格してへんけどなっ』
「…頭下げてきたんだぜ?わしらが不甲斐ないからや、つってよ〜。」
『……ゲン爺?』
「知ってんじゃねえか。」
ニヤリとするアル。
私に、年上を敬えと言ったくせに、マキシムに上から目線じゃんかよ…
「…まぁ、そういうことで、マキシムさんの組織はこれ以上罪を犯さない方が良いし、配下の人達は、逃げても手配は消えないから、迎えが来たその時捕まる方が考慮される可能性が高い。信じるのは容易じゃないけど、やりたくてやってたことじゃないなら…仕事に就いてやり直す気持ちがあるなら、そう説得してもらいたいんですよね…」
『『………』』
「…じゃ、そろそろ失礼しようか。ね?カナメ。」
「ああ…」
『……カナ………また明日。』
「え?…いいん、ですか?」
『俺はもう捕まるんやろ?シローに会わせてぇな…』
「シローに?ハハハッ!いいよな?ギル…」
『…ああ。門限守れるなら…』
「門限なんてあったのかよ!?…マキシムさん、ケイさん、また明日来ます。じゃあ…」
『…待っとるで』
『………』
こうして、チンピラ組織の頭との交渉は終わった……




