情報
情報はルミーに話を聞きたいので、ラグと合流してから子供達の所に訪ねる事にした。
ルミーに会い、話をし、少しガキらの面倒を見てからその場を後にした。
その通り道で、待ち構えていたかのように2人の男が立っていた。頬に痣のある優男と、不機嫌そうな小柄の男。
『ひさしぶり〜ラグくん。新入りくんも初めまして〜』
『………』
『久しぶりです〜ケイさん。アスラーも』
「……どうも。アルと言います。」
「カナです」
『仲間増えたんなら教えて〜なぁ。…仲ようしてな。どっから来はったん?』
「ゼルスから最近こっち来て、勧誘してもらったんです。」
『そうか〜そっちのカナくんはエラい白いなぁ』
「ちょっと病気してて…もう大丈夫なんやけど、兄貴に鍛えてもらってるんで頑張りますわ!」
『そうなん…無理しなやぁ………うーん、昨日揉めとった子ちゃうん?』
!!!
見られてた?動揺したらバレちまう……なら、嘘付くよりも…
「そうなんですけど、許してもらって…こんな感じになってしまいました…ハハハハ…」
『ふ〜ん…もう一人の兄ちゃんは?今日はおらんの?』
「……まだ内緒なんです…」
『…そうか〜ラグくん、面倒見たりや〜。回収明日やからよろしゅう。また近々飲みにいこな〜!』
「はい。また言うて下さい!」
『ラグ…ーーーーーー』
去り際、ボソボソ耳打ちする、不機嫌アスラー。
『は?なに言うてるん?』
『じゃあな…』
「何を言われたんだ?」
『何しでかす気や?って…もうバレとるん?』
「まぁ多少の違和感はあるだろう…新入りに不信なのは当たり前だ。今日の所は…な」
「だよな…私、大丈夫だったか?」
『微妙…やな』
「……」
「とりあえず孤児院見に行って、頭の居所の目星つけとかないとな…」
『兄ちゃんら、知りたいんか?……へへへっ』
『…ほら吹きジジイ!何やねん、寄ってくんなや…』
見るからに浮浪者の爺さんが、のそりと起き上がり、近づいてきたのだ。
『知ってんで〜領主とかボンクラを嗅ぎ回っとる事…』
「……じゃあ、それに答えられるから声をかけたのか?」
『おい、ほら吹きなんやぞ?嘘しか言わんねや。こいつは』
『嘘やない。…ラグ坊が、そん黒と揉めよったんも知っとるで。抜けよ〜しとるんもな。ふひひひ…』
『なんやて…!?』
「…じゃあこれはどうだ?…俺らの正体。」
『それが分からんのや…ここに来てからなら知っとるで。5日前、この町入って来て、黄長鰐ぎょうさん狩りよった…ほんで、青蘭鳥を従えとる小娘カナメ…おもろい。おもろいであんさんら……』
「確定だな。爺さんの話は間違ってない。話を聞きたい…」
『晩に、この裏の路地に来ぃ〜。報酬はたんまりの酒とつまみや。その量で話す話も多なるかもな〜へへへへっ…』
「ああ、わかった。必ず行く…」
『…ホンマに信用するんか?』
「ああ、大丈夫だ。…えーっと、孤児院見に行ってから、ラグはこの貧困街の地図描いてくれ。」
『地図?そんなん俺…ペン持ったこともないで?…』
「簡単だ。心配するな…裏道もだぞ?ここの地図は手に入りそうにねぇもんな…」
『分かったわ…』
孤児院を見に行ってみたが、塀が高くて見えないし、門から見える部分も人影なし。微かに泣き声が聞こえるだけで静まり返っており、孤児が多いのか少ないのかすらも分からなかった。
地図を描かせていると、タシンとシャンクが帰ってきて、少し遅れて他の3人もやって来た。途端に騒がしく、狭くなる部屋。
。
数日しか一緒にいないが、私達と変わらないな、と思う。
私達と同じように、一緒に笑って、小突かれたり、怠そうにあしらったり…
こんな環境だからこそ助け合って来たんだろう。
むしろ、私達よりかもっと…凝固な絆。仲間というより家族なんだろう…そう思った。
あっちや!こっちもや!と、やいやい言われながら、不器用にペンを握るラグに笑う。
結局アルが清書し直し、漸く完成した。
「じゃ、今日の所は終了ってことで…帰るぞ」
『ジジイんとこ行くんやんな?』
「ああ。お前らは居ない方が良いだろう…明日教えてやる。」
『……騙されるんちゃうか?』
「騙されたらそん時だ。…言っておくが、浮浪者の情報網ってのはバカに出来ねぇんだぞ?ま、全部が全部本当じゃねぇけど。」
『うーん…まぁ、アスラーが怪しんどるし、気ぃつけや…』
「だな…そうする。」
チンピラの声に送り出され、ほら吹きジジイのご所望の品を探しに出た。
私はギル達に伝えるため、アルと別れて宿まで突っ走った。
ギル達を途中で捕まえ、事情を話すと、行くというので待ち合わせの酒屋へ連れて行く。もうその頃には日はドップリ沈んで夜になっていた。
酒樽1つに麦酒6本なんて馬鹿みたいな量を持って、つまみ担当のアルと合流し、アルと2人で向かう。
アスラーら幹部に怪しまれているので、ギル達を怪しい者として、自分達をカモフラージュさせるためだ。私達は顔を知られているからな…
ギルに地図を渡しているので、道を間違えなければ時間差で着くハズだ。
裏路地…勝手口と思われるドア前に、ポツンと蝋燭が置いてある。
不気味としか言えないその雰囲気に、恐る恐るになってしまうのは仕方がないことだろう。
「…爺さん、いるか?…」
キィーっと開くドアの向こうには浮浪者がびっしり犇めいていた…
『ほら、早よ入り〜や』
「…お、おう。もう二人連れがくる。灯りは置いといてくれ…」
『ん…でぇ?それはアレか?』
「あ、酒か?」
『そうやそうや!』
「とりあえず4本……」
『ほな、4つ答えたるで。』
私達の手から酒を抜き取りそう言うと、ガチャガチャし出して、ガラスのコップが配られ始めた。
完全にコイツらペースになっている。
「おいおい、話してからにしてくれ…つまみと追加はいらねぇのか?」
ガンッ
乱暴にドアを開けて、ギルが入ってきた。
「…待たせたか?」
『『『おおぉぉ〜〜!』』』
『樽やで!?』
「ひょーーっ。ゲンさん、ええ人に声かけはったんやな!」
『今夜はええ夜なりそやな!』
『……大盤振る舞いやな〜!ええんか?先に見せて…』
「かまわん。酔わせて吐かす手もあるんでな…」
ニヒルに笑うギルに、笑い声を上げるほら吹きジジイこと、ゲンさん。
『ブハハハ。手の内明かすんかい!見え透いとるけど、ここまでされてもうたら洗いざらい話さなアカンわな…何でも言うてみ!』
「20年前、領主替えが起きた後の、マザリス伯の統治はどの様なものだった?」
『エラい大雑把やな…アレが来てから悪なったんはーーーー』
ゲンさんが喋り出すと、浮浪者達も口々に声を出し始める。
それを書記官バリにシャーペンで書き進めるのは私。
思いっきり日本語だが、公式な視察ではないので、隠したい、疚しいことがあればある程、危険度は高いのだ。そのため、この世界で読めるのは私だけの暗号じみた日本語を使うことで、万が一の事を用心するに越したことはない。それも、アスラーらに疑われていることで急に抜擢されたのだが…
いかんせん慣れちゃいない書記官である。書き殴って、書き殴って…
どれだけ汚かろうがバレちゃいないのが救いだが、清書の事を考えるとゾッとする…これでも事務仕事をしていたんだけどなぁ。
あまりに長い話…それが途切れたのをキッカケに、樽を見ながら涎を出す老人2人…
「…仕方ないな〜。何人か話してもらって、他の人は飲ましてあげたら?」
「……許さざるを得ないな…騒ぐなよ?」
『ようやく…ようやくや…ありがとうな〜!』
『わいが話すとするわ…奥行こか』
『俺も行ったるわ。』
『乾杯や!』
『し〜っ!兄ちゃん怒りおるからちっさくしなアカンで…』
『やな。』
『そうやそうや…ひひひ…』
ふひふひ笑いながら、かすれ声で乾杯する従順な浮浪者達に笑ってしまう。
奥に行くと、言うに言えなかった匂いが和らぎ、少しは頭が回りそうな気がした。
それから、書記の任務を遂行し、また別の出口から帰路についた…
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カナさんは〜夜なべ〜をして〜
清書はしましたよっ。日本語で!
まず、事の始まりは21年前の戦争である。
元領主が参戦し討ち取られ、奥方と小さな息子と娘だけになったので、武功を挙げたマザリス子爵が伯爵位を賜り、マラッサルの領主となった。
マザリス伯がまずやり始めたのは、道の舗装だった。
最初は割に合う給金に満足していたが、作業速度を速めろと急かされ始め、ついには無理難題を言い出し給金は減らされる一方だった。それでも辞めないのは、見張りが言う領主の権限に依る脅しと、領主自らの差し入れ……と、希望の言葉…
『これが終われば貴方達の町は栄えて、裕福な暮らしが出来るのです!』
それが、自分達だとは限らなかったのだ…
無理して進める作業に体調を崩す者や、ケガした者…
その者達は、十分な働きだったと認められないとして、冷遇され、大半が住居を移された。逆に、商家や業者、農家が優遇されたのだ。
憤りを覚えたが、兵の威圧に泣き寝入りするほかなく、貧困街が生まれた。
それから、生活が立ち行かなくなり、子供は孤児院へ捨てる者が続出…
結果、院は門を閉ざした。
ところが少し経って、定員まで受け入れるらしいと噂が回った。
食べ物がない孤児は、並んで院に入っていくが、パンを1つ持たされ皆帰される。しかし、1人2人と居なくなっていた事に気づいて、孤児達が騒いでいた。
二年置きの孤児受け入れを観察していると、見目の良い子供がいない事に気づいた。
今では、暗躍する悪ガキらの助けで、自ら並ぶものはいない。けれど、いつの間にかいなくなっているのが現状。それは、薬入り菓子を食べさせた後、誘拐している。
そこの子供は年末のこの時期、荷車に積まれ町を出る。売られている?
予想は、すぐそこの東の隣国、ナルディーナ王国。奴隷制度がある国だから。
領主との関わりは聞こえてこないが、領主が懇意にしているヤルマー商会が子供らを運ぶので、知らないとは思えないが、不確定…
ずっと農作物に力を入れているので、農産物と鰐革が特産の町と誤魔化して、商会と結託して儲けているのではないか?
マキシムは孤児院から脱走した男。以来、窃盗容疑で手配されている。
マキシムが脱走してすぐ、子供らに『孤児院には怪物がいる』と振れ回り、『みんなといなければ連れ去られる』と言った。それが孤児の間で、10年程経った今も伝わっている。
マキシムは、現在24歳ぐらい。何故か髪の色がたまに変わる。細身で素早く、逃げ足が早い。
美男子で、細身と相成り成人したての様に幼い。目の下のほくろが私と同じで、髪が茶色であれば、脱走当初のマキシムに見違えただろう。
性格は陽気で、先頭に立って孤児を守る奴だったが、それは昔の話しで、今は用心深く、遠巻きから見ているだけ。
部下は4人。いつも一緒にいるのはケイナー。気の抜けた口調で話すが、勧誘の者と思わしき輩を4人殺している。それを孤児院に届けるものだから、狂気を持つのは周知のこと。
金を巻き上げるのは、『裕福そうな者』という事のみ決まりがある。
ネイルのチームは、軟弱認定されており、『女は狙わない』を重きに置いている。アスラーの働きで集金額を少なくしてもらっており、度々文句を言いながら金を数えるのを聞いた。
他のチームは、南東、南西と狩場が別れており、北はネイル担当。北東は、貧困街のあるところなので、裕福層はあまり住んでいない。そのため、さほど儲けは期待されていない。
中央から南西がスリや当たり屋、喝上げが横行し、チームが精力的に活動している。治安警護兵に金を握らせ、逃れている。
集めた金は、賄賂や年少の孤児への生活資金に回り、少しずつ武器を蓄えていると思われる。いつか、襲撃する気ではないか?
ケイナーが『あの子気になるわ〜。今度誘お〜』と言っていた、あの子とは、私のこと。近々接触があるのではないか?
関係ないが、『四郎』の事も教えてもらった。
青蘭鳥は、冬の間だけ南東の青深森の青蘭の群草地に来る渡り鳥。
死んだ者の魂が宿るという神聖な鳥なので、捕らえてはならない。
私の場合は、放し飼い状態なので『ご先祖が乗り移っているのでは?』とのことだった。
全く有り得ないことなので否定すると『嬢ちゃん、いつか守ってもらえるかも知らんねんから、大事にしいや』だと。
大事にしてるさ。一緒にベッドで寝てるんだからな!
とりあえず、ゲンさん達から教えてもらったことは、私達の調査と、ギル達の調査とそう違いはなく、詳しい部分も多々あり、情報代として出費した酒の量は間違えではなかった。
ただ、最後に頼まれたのは、マキシム達の処遇だ。
『情報は贔屓なく言ったつもりや。けど、わかるやろ?あの悪ガキは、不遇な弱きガキを守る為にやっとる。容赦してやってくれ……わいらは、何も出来ひんかったんや!使いつぶされ、ふてくされ、世を捨てたわいらとは違う…抗おうとしとる…』
『やっとることは間違うとる…けど、ここ出身じゃ、なんの仕事にも就けん。ハンターは今でこそおるが、死ぬばっかりや。ガキ守るんに、死んでもうたらなんぼにもならんねや…』
『あんさんらは、町を変えようとしとんのやろ?そうなれば、あいつらもアホなことせんようなるんや…せめて死なすんは勘弁したってくれ……』
「約束は出来ない。マキシム達の出方で変わる事もある。領主、孤児院への処罰だけになれば良いが、こればかりは上の方が判断する。俺は包み隠さず密告するだけだ。手出し出来る身分じゃない。」
『そうか…わかった。包み隠さず言うてくれるだけで十分や…その方に伝わるよう、お願いします…』
あの、息子の為に頭を下げるようなゲンさんの姿は、酷く胸を打った。
ケイナーが、私に会おうと言うのであれば会おう。それでマキシムに会えたならば、ゲンさんの事を教えてやろう。
その夜は、とても暖かい気持ちで眠りについた…




