ダチョウ狩り
ーーー来たぞ!!ーーー
アルが声を張り上げた。
足の早い巨大ダチョウは、悠々と私達を追い越し、商隊前列からずらりと側面に張り付く。
アルが私の左側に立ち、弓を放っている。
後ろでは、時折金属音が聞こえることから、剣で応戦しているようだ。
ダチョウは首をしならせ、所かまわず首や嘴をぶつけて来た。
見える分だけでザッと20羽はいる。
黄土の巨大な壁が割れたかのような谷間へ、一直線に逃げる。
もうすぐ辿り着くかと言うとき、異様に大きな破壊音が響き、停止の旗が上がった。
私は軽く手綱を引いて花子達に合図を送り、スピードを緩めながら谷間に入った。
谷間の終わりは見えるが、私達は既に右側の崖以外を囲まれている。
馬車が止まるやいなや、花子達を狙うダチョウへ全力で飛び、剣を振り下ろす。
しかし、首骨が硬くて断ち切れず、剣を放して着地した。
倒れたダチョウが花子達を避けてくれたのにホッとして、駆け寄り、剣をすぐ抜いて、走った。
そして荷車の屋根に立ち、交戦間近のダチョウに石を投げた。
当たったのかも確認せず、5個程投げてこちらに意識を引っ張る。
数羽が私と目を合わせたのを見て、飛び降り、ヤツらの尻の下を走り、攪乱して切り裂く。
蹴り上げようとする足を避け、足の間で剣を突き上げ、腹を裂きながら走り抜ける。
私はすばしっこいのが特技なんだよ!!
こちらはまだ4羽いる。
あっちは十数羽いるように見える。
「…随分減ったね。」
「ヴィルか…おせぇよ。」
後ろから声をかけてきたヴィルは、右側上半身が血に塗れていた。
「お前、ケガっ」
「失礼な…アルにぶっかけられただけ。」
「…ならいい。私が攪乱する。お前が殺れ!」
言い終わるとすぐに走り出す。
「ヴィルのお手並み拝見…だな!ハハッ」
と、足を斬りつけながら顔を向ける。
「なんか癪だね…まぁみてなよ!」
それからは一方的だった。
私に気を取られたダチョウへ、モモ肉を捌くように切り落とし、倒れる巨体。すかさず顎下を突き刺し、息の根を止め、また次へ…
最後の1羽は、散々私に傷つけられたせいか、ヨタヨタと遠ざかっていった。逃げた他のダチョウを追って…
「どうだった?俺は合格かな?」
血まみれでどや顔をかましてくるヴィルに笑った。
「ハハハッ、おみそれしました、ヴィル様……なんてな!剣が良いだけじゃないのか?ククッ」
「えぇー?頑張ったのに。なかなか手厳しいね〜。ハハハ」
「お前のおかげで楽にやれたよ。助かった!で…この肉達はどうすんの?」
「……さぁ?ギル達が聞いてくるでしょ。あ〜着替えたい!アルの奴…恨んでやる。」
「なんかあったのか?」
「混戦なのは分かるけど、斬るとこ考えてほしいよね…俺がいるとこで斬ることないでしょ…」
荷台に腰掛けるヴィルに近づき、鼻と頬を指先で触れる。
「ここと、ここ。大事な顔に血が付いてるぞ。」
「……カナメだって」
手で顔を挟まれ、顔が近づき、生暖かい湿ったものが頬に…
「ついてるよっ。」
「なっ、なっ…おまっ、舐めたなお前!きもっ!ありえねぇ!!死ね!変態!」
全力で膝裏を蹴り、頬をゴシゴシ拭きながらかかとをかえし、花子達のいるところへ向かった。
「…………アハハハ!」
後ろから聞こえる笑い声にイラつきが増す。
「私がお前を殺すぞ!!」
「いいよ!いつでも!」
「きもっ…」
「お前ら何、大声で話してんだよ…」
「聞いてくれアル!アイツは変態だ!ここを舐めてきたんだ!」
「…痴話喧嘩か」
「ありえねぇ!…お前もありえねぇ!幸子〜花子〜糞男共は私の敵だ〜」
うん、お前達が舐めるのは有りだ。可愛い私の女仲間達よ…
「…どうでも良いけど、お前は巨黒鳥捌けるか?」
「…これのこと?」
「ああ」
「鳥と同じようになら…」
「嘴と尾羽は貴重だ。特に雄の赤い物は。違う羽も良い値段になるから、出来るだけ毟れ。一時間後出るからな!」
「よし、分かった!」
「ヴィルも聞いてたか?」
「はいは〜い」
「チッ…」
もう、毟ると言うより羽の刈り取りだった。
肉は固めで、煮込めば旨いらしいが、何しろ大きく、数が多すぎる。
皮を食べないなら根が残ろうが関係ない。
私も私的に麻袋三個分キープして、売らずに何かを作ってもらうつもりだ。
「ねぇ、カナメ。機嫌直してよ…」
「………」
「ねぇ〜謝るからさ…」
「………」
「ねぇ〜お願い!何でも買ってあげるから!」
「………」
「ヴィルは何をしたんだ?」
「……舐めたらしい。」
「は?どこを…」
「………」
「頬を…」
「ヴィル!お前…」
「もうしない!約束するって…町に着いたら1日カナメの財布になるから!」
「……本当にもうしないか?」
「うんうん!絶対に。」
「…財布もだな?」
「うん!カナメに無視される方がつらいよ〜」
「……分かった。絶対だぞ?」
「良かった〜。女の子に無視されるのってこんなに辛いんだね…」
「出た、モテてます発言…」
「それは思ってても言っちゃ駄目だろ…男大半を敵に回すぞ?」
「だって、こんなに苦しくなるなんて…やっぱり恋なのかな?」
「勘違いだ。私以外の、お前を無視する女が必ずいるはずだ。そいつが運命の相手だ。わかりやすくて良かったな!」
「それもどうかと思うぞ…」
「………」
「ギル、ごめんね」
「…なんでギルに謝るんだ?」
「それはね…心配だからさ。子供だからね、カナメは。」
「…体はな。ギルは最近私に過保護だからな…なるほどな」
「体はもう成人と代わらないと思うよ。さらしが邪魔だけどね。」
「お前はそんなとこばっか見てるのか?…確かに今猛烈に暑くて邪魔だけどな」
「ならさ…」
「お前に見せる乳はない!」
「乳とか女の子が言っちゃ駄目だよ…」
「私に女を求めるのが間違いだ。」
「でも見たいよ!女の子らしいカナメ。ね?ギル?」
女の子らしいってぶりっこだろ?一番嫌いなタイプなんだが…
ま、いっちょかましてやるか!
「…ねぇギル。私のこと好き?愛してる?好きって言って?」
手を取って、口を一々アヒル口。
上目づかいに、最後は首を傾げる…だ。
めちゃくちゃ顔引きつってんぞ?ギル。
やっぱりお前もぶりっこ嫌いなんだな。
うん、見る目あるな!ギルは。
「「「………」」」
「あー気色悪ぃ〜…マジ鳥肌立つわ〜」
「…あ、うん…え、演技ね…」
「…ふぅ〜〜…さ、村にももう着くし、一段落だな。」
「……すまん、少し抜ける。」
「え?ギル、大丈夫か?」
急に荷台に入ろうとするギル。
顔色もなんかおかしいし、体調悪かったのか?…もうすぐ着くのに中に入ろうとするなんてよっぽどしんどいに違いない。
「…ん、心配するな。」
「そうだぞ!あーあれだ!羽売るから、その準備だ!」
「…ん?体調悪いんじゃないのか?」
「ああ。何ともない。」
「あーカナメ!俺にはそういう心配してくれないよね?」
「お前はすぐ言うだろ?ギルはただでさえ表情に出ないんだから、聞くしかないんだよ」
「贔屓だ、贔屓!」
「うるせえ!ガキか!」
「まぁ、落ち着けよ。」
「…俺にもさっきの演技してくれない?」
「無理。お前、悪ノリするに決まってる。」
「蒸し返すなよ…はぁ…」
ギルに向き直るともう外には居なかった……




