心残り
遂に降りだした豪雨の中、ガンガン飛ばす花子と幸子のおかげで村に着く手前で合流でき、そのまま村に入った。
カリストファーはジュースを飲んだ後、すぐに眠りにつき、メイリーンはクッキーの四つ目を食べている途中で寝入ってしまった。
親はどうしているのかなど、辛い事かもしれない事を起こして聴くわけにもいかず、宿へと運んだ。
そうした経緯を話すと、商隊の代表サーベス=ラウナーとこの村の村長に嫌な顔をされた。
しかし当然ながら、この村で受け入れる事は約束してもらったので、迎えが来るまでは不自由なく面倒見てもらえるようだ。
医療費を渋る馬鹿共に、ギルバート次期侯爵様が金貨を叩きつけたのにはスカッとした。という一幕もあったので、早く騎士が迎えにきてくれと、人知れず願ったのは言うまでもない。
宿に寝かせた子供達の面倒は、先程診察してくれた、医者とは思えないムキムキ親父の娘、アヴァンダがきてくれた。
体はムキムキではないが、笑い皺が親父にソックリな、明るく元気な女性だった。
商隊がこの村を出るのは明後日と言われたので、やることもない私達は寒さから逃げるように宿に篭もり、カストファーの様子を見たり、宿で十分寛いでいた。
翌日の昼、米の試食会的なものを内々でやっていたら、アヴァンダが入ってきて、その父親と村長、商会のサーベス殿が次々参加してきた。
味わう暇のない、米とフライパンとの戦い…
女将との協同作業の末…医療費の件の悪印象を軽減させた手柄は私のモノだ!
だがしかし!米をどのくらい消費したか思い出すと泣けてくる…
皆喜んでくれたが、一番楽しんでたのは、アルとヴィルと医者娘だ。
無邪気にハシャぐアヴァンダをギルの結婚相手に推してみたが、無言の睨みを頂いた…
「お前の好みはどんな感じなんだよ…」
「…直感」
「一目惚れかよ…無理難題すぎる…」
「なになに?一目惚れ?」
ヴィルとアルが話に割り込んできた。
「違う…」
「ギルの女の好みの話。」
「俺は、なんつーか、こう、儚い感じの、首や腰の細い…口元のホクロとかいいよな〜」
「あ!ミズリーフ伯爵夫人?」
「わかっちまった?いいよな〜!あのホクロがまた妖艶でいいんだよな〜」
「俺はね…正面から俺に言い返す事の出来る子がいいんだよね。」
「いる訳ねぇだろ。ハンターなのにあんなに女の視線集める奴なんか……なんだよ…」
アルもギルも目を見開いて私を見ている。
「か、カナメ?」
「ん?」
「そうなんだよ。今のとこカナメしかいないよね。俺と結婚する?」
「は?…私?」
「うん。今までで一番楽しい女の子だよ。カナメは。」
「はぁ?無理無理!絶対に嫌だ!死んでも嫌。お前とは絶対友達以上にはならない。断言する!お前にからかわれて一生を送るのは真っ平ごめんだ!!」
「あ〜フられちゃった。初めての告白だったのに…」
「初恋は実らないもんなんだよ。そういうことで、私は除外しといてくれ。」
「じゃあ、親友ならいいの?」
「……いいけど…私は、仲間は皆大事だぞ?お前だって仲間だろ?それって親友となにが違うんだ?」
「…アハハハハッ!好きだよ、カナメ!」
「キモい!抱きつくな!…今までで一番気持ち悪い!」
「ハハハハッ、そのまま部屋に行っちまえ!ヴィル!」
「いいの?行こっか、カナメ」
「………」
ふざけんなよ…!
「死ね!」
「うぐっ……」
崩れ落ちて、床に這いつくばるヴィル。
握り拳をヴィルの鳩尾に叩き込んだのだ。
「天誅!」
「クハハハハ!ヴィル情けねぇぞ!ハハハハッ」
「ククククッ…ヴィル、それは、マズイ…くふふふ」
「はぁ、はぁ、はぁ…信じ…ら…れない…よ…」
『どうしたの、この状況!?』
「あ、アヴァンダ。」
「食あたりじゃないわよね!?」
「ああ、神という名の私が、正義の鉄槌を…いや、鳩尾にドスッと…ねっ!」
「えっ!?」
「ハハハハッ、ヴィル…もう立てるか?ククッ」
「…うん…本当に、死ぬかと、思ったよ…」
「馬鹿は死ななきゃ治らないってのに…」
「並の女じゃないって知ってるだろう?」
「ギル…強敵だね。」
「…何だって?」
「……」
「また悪口言って」
ーーーアヴァンダさん!男の子が起きました!ーーー
「…やっと起きたか。私も行く!」
「ええ。その方が助かるわ!」
「じゃっ、皆、片付けよろしくぅっ!」
「狡いぞ!」
「ハッハッハ…」
逃げるが勝ち!
カリストファーはまだ熱があったから、身体は怠いはずだ。
「カリストファー…おはよ。大丈夫か?」
「うん…メイも…ずっと寝てたの?」
「ああ。あれから寝たままだ。疲れてたんだろう。お前もな」
「私は医者のアヴァンダ。飲み物とか食べ物食べられそうかな?」
「う、ん。喉が…」
「…はい、お水。沢山飲んで。」
ゴクゴク喉を鳴らすカリストファーの首に手のひらを当てるアヴァンダ。
「…うん、少し下がったわね。」
「あの…母さんと」
「その話、聞いてなかったろ?教えてくれ。どこで親と別れた?」
「…あの日、剣持った奴が来て…逃げて…隠れたんだけど、近くで声がして、また逃げたんだ。じゃあまた追いかけられて…母さんが倒れちゃって…逃げろって……父さんが逃げろって…」
ポロポロ涙を流しながら話すカリストファーの背を撫でる。
「そこは森か?川とか渡ったか?」
「うん…ずっと森の中。メイと2人になって、川の所の木に登って寝た。」
「…そうか。父さんと母さんの名前は?どんな格好だった?髪の色、服装…出来るだけ詳しく。」
「父さんは…ジーム。黒い服着てた。髪は僕と同じ茶色…あ、髪を後ろで結んでる」
「あ…頬に傷はあるか?」
「…それ、叔父さんだ…」
「…似てた奴いたかな…ごめん。わからない。母さんは?」
「イブリン。髪は同じで、長い…茶色の服…父さんの服と、緑のスカートで…」
「見てないな…転んでケガしてたら私とは会うことないし…。とにかく、今は軍がなんとかしてくれている。カリストファーみたいに逃げた人達の捜索も一昨日の朝からしている。お前達の事も村長が連絡したから、直に迎えにくるだろう。早く治して村の皆の所に戻ろうな。」
「…うん。」
アヴァンダに代わって、診察してもらう。
「…痛いところとか、吐きそうとかないかな?」
「…足が痛い…」
「靴擦れと…疲労かな?…少し揉んで解してみるから、痛かったら言うんだよ?」
「うん……」
「…んん〜……ふぁ〜あっ」
「…メイ!」
「にいちゃ…痛い…」
「ど、どこがいたいの?!」
「…ぜんぶ〜…うごくと痛いの…」
「なんだ…」
「メイリーンおはよ。お腹すいた?」
「すいた〜…はちみつ食べたい」
「ハハッ、覚えてたのか。ちゃんとご飯食べたら食わしてやる。…このお姉さんが世話してくれるから、ちゃんと言うこときくんだぞ?」
「カナメ、どこにいくの?」
「飯作ってくる。…さっき食ったミルクの米、あれなら食えるだろ?」
「あれね!美味しかったわ!それじゃあお願いします。…多めに作ってもいいわよ?ふふっ」
「まだ食うのかよ…じゃあ、行ってくる…」
薄味で作ったリゾットを食べさせた。
子供は動けないぐらいしんどくないとじっとしてないから、アルとヴィルを交えてババヌキをして退屈を紛らわせ、寝かしつけた。
親のことを言わないメイリーンは、子供ながらに何を思っているんだろうか…
『明日村を出る』そう話したときのメイリーンの縋る目と、開いては閉じるカリストファーの言えなかった言葉は、言わなくてもわかる。
私が孤児院を出るときのガキらと同じ…
『行かないで』だ。
私は聞いてやれない。
こいつらの親が生きていて、早く会えることを願う事のみ…
出発の朝、まだ寝ているカリストファーとメイリーンの顔を覗き、ささやかな折り鶴を置いて村を後にした。
最悪の場合はどうなるのかと考えると、後ろ髪を引かれる思い…のまま…




