天災と人災
マートルには三日程滞在し、すぐ護衛依頼を受け、南を目指す為出発した。
南に向かうにつれ心地良い秋を感じていたが、今日は急激に寒くなったように感じる。
北のナハルはもう雪が降っているんじゃないかな…
三つ目の村に近付くと、そこは物々しい雰囲気で騒然としていた。
騎士や、夜逃げかと思うような荷台を引く村人。テントが建ち並んでいた。
商隊の前列が、テントに近付くと止まる旗が上がった。
「…少し待ってろ。」
「あ、俺も行くよ。」
ギルとヴィルが前列に向かい、残された私とアル。
人々は憔悴していて、座り込んでいたり、村人同士話し合っていたり…
しばらくするとギル達が帰ってきた。
珍しく難しい顔したヴィル…
「龍が出た…」
「龍?」
「…龍か!?逃げ出せて良かったな…」
「うん…その後の盗賊集団が居なければね」
「は!?村をやられたのか?」
「らしい。昨日龍に襲われ逃げた後、村を盗られたようだ。…俺らはこれから村に入って待機だ…」
「……」
「…龍って言うのは、天から降りてくる風の渦だよ」
ようやく意味が分かった。竜巻だ…
ということは、竜巻で避難した後、火事場泥棒に来た盗賊に村を乗っ取られたってことか…
「なるほど…で、村は取り戻したのか?」
「いや、人質を取られている可能性が高いようだ。」
「「……」」
「でも、国軍が出てるんだし大丈夫だよ。」
「そうだな…」
ーーー村に入るぞ〜!ーーー
ギルが手を上げ、了解と示すと走りだした。
「…第4部隊だから兄さんいるんじゃないかな〜」
「えっと…ジグルードさん…だっけ?」
「うん。盗賊達が可哀相な事になっちゃうね〜。自業自得だけどご愁傷様」
「…………」
うん、盗賊達に情けをかけるぐらい、ジグルードさんが恐い人っていうのは分かったよ。とりあえずは安心かな。
緊急時の品卸しは、国が要請するため商会の名が売れる。商会にとっては嬉しい誤算である。
1日滞在する事になり、宿は商会の数名のみ泊まり、私達は当然テントだ。食べ物は用意してくれるので別に文句はない。
外に居るとだいたいの話が見えてきた。
昨日の昼間に竜巻が迫るのを確認し、避難した。
通り過ぎた竜巻を確認して、村長らが村を見に行ったがなかなか戻ってこず、何人かが見に行って漸く、盗賊を確認。砦に救援を求めた。
夕方、避難していた所に盗賊達が現れ、逃げた所に騎士達が到着。そのまま保護された村人はここに来た。
朝、遅れてきた軍は、散り散りになった村人の捜索と、人質に取られたか殺されたかわからない村長らの偵察の為、私達の来る数時間前に出発したらしい。
後から保護された村人との再会を喜んだり、待ちわびる避難民…
比較的女子供が多いのは、男達が盾になったんだろうと推測できる。
翌日、私達は出発した。
被害に遭った村は元から寄る予定はなかったので、通常通り南へ…
私はボーッと荷車の上で、被害の遭った村の方を眺めていた。
暗雲が空を覆い、今にも降り出しそうなので、下に降りようとした、そのときだった。
森の際に灰色の物が集まっている。
「ギル!ちょっときて!」
ギルが梯子を登ってくる。
「あれ、狼じゃない?こっち狙ってんのかな?」
目のいいギルに判断を託す。
「…違う。木に縋っている…なにか…人がいるのか!?アル、鐘を一度鳴らせ!」
ーーーカーンーーー
鐘は、判断を仰ぐとき一回、危険を知らせる時に三回鳴らすものである。
「よいしょっ、俺にも見せて。…ホントだね…8匹はいるね。」
「木の上に人がいるかもしれないのか?」
「…姿は見えない。だが、狼が何かを狙っている。昨日の事件を考えると可能性はある。」
「しかし間が悪いね。俺が行ってくるよ。」
漸く馬車が止まり、ヴィルが荷車から飛び降りて駆けていった。
間が悪い…その通りだ。
商隊からしたら、雨も間近で、もうすぐ着くであろう村へ急ぎたい。わざわざ助けに時間と護衛を使っても何の得もないのだ。
この停めた時間さえ勿体ないわけで、出来れば見て見ぬ振りをしたいことだろう。
まあ、人として大っぴらには言えないが、誰でもそう思うことだ。
「はいは〜い!あちらさんは先に行くことになったから、俺らで見に行きますよっと…」
「ん、カナメ御者やれ。」
「了解!…花子、幸子、行くよ!」
何故か興奮気味に嘶いてグイグイ進む馬達。
何故だろうか…やる気満々なのか?ストレス溜まってんのかな?
「スッゴい張り切ってるね〜。思いっきり走りたかったのかな〜」
「商会の雄馬から離れたいだけじゃねーのか?ハハハッ」
「…ありえる。」
「発情期だ。しかたねえよ。くくくっ」
「万年発情期のチリチリよりマシだぞ。馬で良かったな〜」
「は?いつ発情したよ?!」
「ハハハッ!チリチリ認めたな?」
「アハハハハッ」
「くくっ…」
「お前、ふざけんなよ〜!!」
「いはい、いはい(痛い)…」
ほっぺたつねんのなしだって!手綱離せねぇってのに…
「っつぅ…女子に暴力を振るうとは…」
「お前のその口、縫ってやりてぇわ!」
「森沿いに走り抜けろ。適当に停めてカナメは馬を守れ。…………行くぞ!」
「「「おう!」」」
威嚇する狼を花子達が蹴り飛ばし、ギル達が飛び降りた。
ぐるりと廻って停まると、もう立っている狼は居なかった。
地面に降りて花子達の興奮をなだめていると…
「カナメー!こっちきてくれー!」
ん?降りてこないのか?
それとも人じゃなかったのか?
花子達にまた動かしてもらい、すぐそばまで行く。
「ガキだ。俺らが恐いんだと。ヴィルでもダメだった。」
「ハハハッ。自称貴公子が?残念だったな〜ククッ」
「うるさいよ!」
「ハハハハッ……降りておいで。もう大丈夫だ。」
そこにはボロボロの服を着た小学生位の男の子と5歳ぐらいの女の子がいた。
「…おにいちゃん」
「駄目だ!あいつらの仲間だ!」
「…大丈夫。シュリス村の盗賊は国の兵士がやっつけてるよ。私達は商隊とここを通ったハンターだ。助けに来た。」
「ホント?来てくれたの?騎士様」
「ホントホント。とりあえず降りておいで。」
「う、うん…メイ」
「うん。」
するすると男の子が降りてきて、女の子も恐々と降りてくる。
が、途中で止まってしまい、動かない。
「メイ!どうしたの!?」
「こわいよ〜にいちゃん、こわい〜〜!」
泣き出す女の子に埒があかないので、私が木に登って近付く。
「メイちゃん?おねぇちゃんの手に捕まって?」
「…おねぇちゃん?」
「ハハハッ!」
「うるさいな!…うん。これでもおねぇちゃんなんだ。おいで」
「うん」
伸ばした女の子の手をとり、抱き寄せる。
「今から飛ぶよ。目を瞑って、ギュッと抱きついててね。」
返事はないが手に力が入ったのを見て、飛び降り、衝撃がないように気をつけて着地した。
「メイ〜!」
抱いたままの私に男の子も抱きついてきたので、その子も抱いてやり、荷台に乗せた。
「ふぅ…女ってのも偶には役に立つもんだな。」
「失礼なやつだな…男女差別反対!」
「カナメは、間違って女に産まれただけだからね。」
「…それは私も否定できねぇな。常々そう思うよ。」
「ハハハッ」
「行くぞ…カナメはガキらについててやれ」
「了解〜」
「さてさて…私の名前はカナメ。君達の名前は?」
「カリストファー…妹の、メイリーン」
「カリストファーとメイリーンね。…よくここまで頑張って逃げたな!よくやったぞ。カリストファー、メイリーン!」
「うっ…うん…うわぁああん!」
メイリーンが勢いよく抱きついてきた。その背を撫でながら、逆の手で、俯いて震えるカリストファーの頭も撫でてやる。
丸一日盗賊から、獣から逃げていたのだろう。こんな小さな子供じゃ、生きていたのが奇跡だ。
擦り傷や、汚れ、飲み物と食べる物も何とかしてやらなきゃな…ん?…熱くないか?
「カリストファー!メイリーン…ちょっとごめんな。兄ちゃん、熱あるかも。」
「うっ…うん…おねつ?」
「…大丈夫…メイ…」
「やっぱりある…誰か手伝ってくれ!」
「どうかしたか?」
「アル!2人に水あげて。服も…着替えるか。」
まだ私の服の方が小さいのでマシだろう。
服を二人分出して、カリストファーが着替えてるうちに敷布を重ね、寝かせる。
「寒くないか?」
「寒くない…」
「……よし、もう一枚被せてやる。…メイリーンも入るか?」
「…うんっ!」
「よしよし…なんか食べるもんなかったっけ?」
「干し肉ぐらいしか…そういやお前、前の村で蜂蜜」
「買った買った!どこだっけ?ええっとな…有った!クッキーも!」
「そうだよな、腹も減ってるよな。全部くっちまっていいぞ!」
「いいけど、アルがいうなよ〜。私のなのに…これつけて食べろ。絶対旨いぞっ」
蜂蜜の蓋をあけてやり、クッキーにつけ、メイリーンに差し出す。するともぞもぞ出てくる。
「なんで出てくんの?」
「寝ながら食べちゃいけないんだよ?」
「いいのいいの。今日だけだ…内緒にしててやる。」
「んふふ…」
また布団に戻り、受け取るメイリーン。
「カリストファーは食べれそうか?」
腕で目を隠し、首を振るカリストファー。
「そうか…蜂蜜水作ってやるよ。あ、オレンジも有ったはず!絶対旨いわ。ふふふ〜ん」
「お前が飲んじまいそうだな…」
「メイリーンにもあげるからな!待ってろよ!」
「うんっ!」




