ヴィルという奴
改造荷車は、とても良い仕上がりだ。
荷車の上に柵を付け、上に登っての遠距離射撃(弓と石)。殿だろうがドンと来いだ。
但し、獣相手ならば…だけど。
盗賊らの矢対策は、とりあえず板を立て掛けて矢から身を守り、サッサと下に降りるのみである。
だがしかし、天候が良ければ昼寝も出来るというハイスペック荷車!素晴らしい。敷布は必需品だな。
今の所ヴィルの腕は弓しか見てない。
百発百中ではないけど、私では自信がでない遠くの獣を命中させるとこを見ると、ただの口八丁男ではないようだ。
どや顔はうざいが…
護衛依頼は食事から宿代まで金を出してくれるので本当に割のいい仕事だ。
例え襲撃されなくても1人に付き日当で貰えるし、私達は荷車付きだから、荷物も積んでやってる事で+αが付くから良いとこづくめ!
上級上がれて万々歳!!
この国の南東に位置する目的地、マートルの町に到着したのは、サランを出て20日後だった。
マートルはサランより華美ではないけど、人が行き交い、賑やかな町だった。
隣国ナフィサール国との交易が盛んだとか聞いてもいないのにヴィルが教えてくれた。
組合所で金も貰い、チーム名もハンマー証に入れて貰って、ニタニタとアルを見るのはお決まりだろう。
ふてくされるアルに絡みつつ宿へ向かった。
この町から私は1人部屋、男達は3人部屋と話はしていた。
なんでも、秩序を保つためだとか。
まあ、私はどうって事ないが、男には男の事情ってもんがあるんだろう。
『例えば…酔っ払って帰ってきたとき、もし、カナメのベッドに潜り込んじゃったら、朝起きた時気持ち悪いでしょ?俺達が。』
これ…
これだよ…
『俺達が』って、逆だろうが!
本当に、人を苛つかせる天才だ。
オモチャにされてる感半端ない。
気を使ってるのかと見直した自分にガッカリだ。
コイツと話すと子供の様な言い合いになってしまう。
だから常々大人の対応を心がけ、挑発に乗らないように…が、最近の信条である。
さて、町見物にでかけるとしようかね。
コンコン
『俺だ』
「オレオレ詐欺ですか?」
「………」
「冗談だって!ギル。どうした?」
「俺らは出るが、お前はどうする?」
「んー私はその辺ぶらついてくる。三人仲良く行っといで。」
「…大丈夫か?迷」
「迷わない迷わない。今日は1人で楽しむさ。…あ、でも、いつでも良いから武器屋につき合ってくれ。」
「ああ。日暮れまでに戻れよ。」
「わかってる。子供扱いするなって。…はいはい、行ってらっしゃい!」
「……」
ったく、心配性だな。ギルは…まるで父親だ。
金が貯まってきたから余分な分は送金して…あ、手紙もかかなくちゃな。ちゃんと生存報告しないと。いつ死ぬかわかんねぇ世界だから。
1人身軽に街を徘徊…
露天にスルメや昆布が売っていた。嬉しくて思わず買っちゃったぜ。
シュベルド家にお歳暮ってやつだな。
それと、なんとなんと米があったんだ。細い米だったが買うに決まってんじゃん!
大袋一杯買いだ、買い!
高い買い物だったが一片の悔い無し!
もう、胸がいっぱいで家路(宿)についた。
「ねぇ女将!これ、晩飯に出ないの?」
「…そんな高価なもん出したら破産しちまうよ!」
「そっか…これ、食べたくない?一緒に味見しようよ!」
「ん…私は調理の仕方わかんないよ。」
「私がやるから!ちょっとだけ厨房借りて良い?あ!食材も買ってくるよ!ね、いい?」
「…旦那の邪魔しないなら…」
「ホント?じゃ、買ってくるから米預かってて!」
「ちょっ…アンタ…ハハッ、何だいあの子は…」
インディカ米は、白飯じゃまずいと聞いたことがある。
だったら焼きめしだ!
ハムと…玉葱人参、サラダ菜もいいじゃん。卵はいるよ。絶対だ。
あとなにがかいる?早くしないと飯時になる。そうなれば邪魔になるしな…
もういいや、さっさと帰ろう!
「おまたせ!よーし、女将!旦那!邪魔するよ!」
「このへんの使いな。後は触るんじゃないよ」
「了解しました!」
「ふふふふ…」
大事な主役を洗います。
刻みます刻みます刻みます…
殻を割りまして〜割りまして〜
あとは…
「ふふふーん、ふっふふ〜ん」
さて、準備はOK!
米をフライパンに入れ、だしの素を…ダシ!?
ダシなんて…
あ!今日はチキンスープなんですか?
「旦那!それ、今日のスープ?」
「そうだぞ。朝から煮込んだ特製『一杯だけ貰えないかな?』…それに使うのか?」
「うん…今日の私の分、なしで良いからさ…」
「…いいが…うまくいったら味見させてくれるか?」
「もちろんもちろん!」
「……こんぐらいか?」
「ありがとう!…あ〜これ入れたら絶対美味しいわ〜」
「オイオイ、味見かよ…」
「ヘヘヘ。…じゃ、投入〜」
ジュワ〜と音がして軽く混ぜ、米を炊くため蓋をする。
待ちきれなくて開けてしまうのは仕方がないだろう。
具材を入れて炒めて、卵を入れて、調味料…最後にサラダ菜…
「出来上がりっ!」
「皿はそっちの使え。」
「は〜い!!」
ふたつの皿に盛り、一つを旦那と女将に、残りは私。
「女将〜出来たよ〜!」
「どうだい、どうだい?美味しいのかい?」
『カナメ…なにしてるの?』
「げ、その声は…」
ヴィル……達。お三方お揃いですよね…そうですよね……
「それなあに?」
す、凄く良い笑顔しますね、君…
「こ、これはな…女将、旦那と一緒に食べてみて。」
「ん、ありがとね。頂くよ。」
「うん!………お前ら……も食べる?」
って、言うしかないだろ…ちぇっ…1人で堪能しようと思ったのにぃーー
「うん、食べる!」
「言っとくけど、私も食べてないんだからな!スプーン借りてくる!」
「うん。いい匂い〜」
「なんだ、この粒…」
「これは、ナフィサールの南のガライース国の特産品だね。確か手で食べるんじゃなかったかな?…ん、美味しいよ!」
「食うなよ…」
「ヴィル…」
「ああーー!お前、食ったな?きったねぇ手で食いやがって!最低だ!どの辺触ったんだ?」
「一番上掴みやがったんだ。」
「ボケナス!…ほら、口開けろ。」
「え、あーん?ふふふ」
「キモイ!お前の触ったとこなんて誰も食いたかねぇんだ!」
「あーん、ん〜!」
顔を綻ばせて、実に美味しそうにスプーンをくわえて唸るヴィル。
「さ、食べよ。」
「おう!」
「……ん。旨いな。」
「うめぇ!…何だろ?何とも言えねえ」
「なんだそれ!ハハッ!」
「カナメが作ったの?…うーん美味しい!」
「そうだ。けど、…うん、いけるいける。宿の店主の特製スープで美味しくなったんだと思う。」
「へぇ〜スープ使うんだ…ちょっとアル、掬いすぎ!」
「早い者勝ちだろ。」
「あーもうないじゃん…はいっ、残りは私!」
凄い勢いで無くなっていく皿を取り上げ、すかさずかき込む。
「あ〜あ……はしたないよカナメ。」
「…ん、ごひそうはま(ごちそうさま)…」
「食いたりねぇ〜」
「今度また作るよ。私も物足りない…」
「頼んだ。」
頭をポンポンとしてくるギル。やっぱりコイツは父親だ。
「カナメ、料理上手いんだね。女の欠片もないと思ってた。見直したよ。」
「お前っ!………それは…どうも。」
危ない…また乗せられるところだった。
大人の対応だ!もうヴィルには乗せられないぞ!
女将と店主が厨房から出てきた。
「アンタ!美味しかったよ。」
「うまいもんだな。」
「旦那の特製スープが染み込んでるから美味しいんだよ。」
「いやぁ、味は変わってた。ありがとな。高いもん食わして貰って。」
「いえいえ…じゃあ、今度また厨房貸してくれよ?」
「また声かけな!次の味楽しみにしてるよ。」
「俺も楽しみにしてるよ。またアーンしてね。カナメちゃん…」
「誰がするか!阿呆!」
「女かい!?アンタ…」
「そうですが?」
「なんとまあ…」
「慎みのない女」
「ヴィル!!」
「アハハハハッ」




