公爵ファミリー
じーじとギルが何事もないように話し出すのを見ながら、グイグイ引っ張られ、両肩を掴んで振り返らされた。
「お前な、横に並ぶのは駄目だと知らなかったのか?!あー、てゆうか服も…言っときゃよかった!俺が悪いんだ…ああーー」
「……アル?実は昼飯から一緒だったんだ。何から何までじーじのご所望だから心配しなくていい。服も大丈夫ってよ。な?万事解決!」
「馬鹿野郎!それなりの店なんだろうし」
「あーそれも大丈夫。じーじの家になったらしい。心配無用!」
「そうか…じゃねぇ!お前はホント…図々し過ぎだ!」
「アル、落ち着けよ…じーじは多分、昔からヘコヘコされる立場だったんだろ?…私みたいなのが面白いのさ。今日も何だかんだ楽しんでたし、私はこのままで接するよ。大丈夫。ちょっとだけ言葉には気をつけてるから。」
「ちょっとかよ…まぁ任せる、ことにする…でもあんま冷や冷やさせんなよ」
「うん。ありがとな…行こ!」
「おう」
城…いや、大豪邸に到着した。
この豪華極まる部屋とテーブルセット。そしてキャスト達から凄く浮いている私は、服装に少し後悔したが今更だ。気にしちゃ負けだ!
「あら、もうお揃い?遅れて申し訳ありませんわ…」
ウェーブのかかった金髪を左にながし、紺のドレスを着た巨乳美人が入ってきたのだ。
その顔は…組合所受付の露出女!?
「ナトールはどーしたんじゃ?」
「さあ?部屋にはいませんでしたわ。」
「ナトールはアリエとマーシュを湯に入れております。もう来るとは思いますが。」
「さようか。早よう帰って来てしもたの…しばし待とうか。」
「アル…頭こんがらがってきた…」
「だろうな。ふっ」
「笑うな…」
ギルとアルもベルギリウスさんと親しげに話していて、知り合いと言うより先輩かな?とあたりをつけた。
「マリッサ、カナメじゃ。おなご同士仲ようしてやれ。」
「そうなのですか?昨日も今日もお会いしたのに気づきませんでしたわ。」
「いえ、男の方が何かと都合がいいので気づかれずホッとしてます。」
「ふふふ、そうね。私はピアスと指輪に守られて居ますもの。カナメさんは剣1つですから、その方がよろしいですわ。」
人妻を表す左耳の金のピアス。
般若顔の指輪。
「その指輪は…」
「そう。この家の者ってすぐわかりますでしょう?虫除けですの。」
「とっても役立ちそうですね。それより…喋り方…」
「「おかあさまーーー!」」
4、5歳の男女の子供がマリッサ目掛けて駆けてきた。
「あら、今日はお客様がいらしてよ。ご挨拶しましょうね。」
「「はーいっ」」
「アリエリットです!」
「ましゅあいざーです!」
「マシュライザーね、マーシュ。」
「カナメです。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる仕草はとても可愛らしかった。
…それよりも気になるのは、組合所の彼女と、今の彼女の違いである。完全スルーされたが、今はママモードなのかもしれない…
3人の男性も入ってきて、その中にはナトールさんの姿もある。
「揃ったのう。ではまず紹介する。知っている者もおるが、ギルバートはフレデリック侯の者、隣はアルベルト、ハリストン伯のもんじゃ。そしてカナメは…おなごじゃ!ホッホッホ」
「…そんな紹介ありなの?いいんだけどさ」
「父上がすまんな…」
渋い壮年の男性が優しく声をかけてくれた。それに笑って首を振る。
「で、ワシはじーじこと、ハヴェル=サンタ=サルバルートじゃ。こやつが…」
紹介された順でいくと、じーじの息子、ここの領主のラスタール様。さっき声をかけてくれたシブメンだ。
その奥さんのオリービアさん。
その息子、ベルギリウスさんと、エリクトールさん、マリッサさん、ヴィリウスさん。マリッサさんだけ女性だ。
そして、ベルギリウスさんの補佐、マリッサさんの旦那がナトールさん。
その子供がアリエリットと、マシュライザー。
「孫、次男坊のジグルードは王都におる。よし、長い自己紹介も終わった事じゃし、いただくかの。乾杯じゃ!」
「「じーさま、かんぱーい!」」
「ホッホッホ、乾杯。」
じーじの今日の出来事談(私の話)を右から左に聞き流しながら、作法通りに酒や料理を口に運ぶ。
私を乏しながら話すもんだから、そりゃもうクスクス笑らわれている可哀想なカナメちゃんだ。
「じーさま、いじめちゃだめでしょ!」
可愛らしい声でアリエリットちゃんが庇ってくれた。それにニッコリ笑いかける。
「ありがとう!そんなじーじは嫌いだよねー?」
「そうよ?きらいになっちゃうよ!?」
「アリエ、すまんの〜。じーじはカナメが泣かないのを知っとるからゆうておるんじゃよ。逆にじーじは、今日いっぱいカナメから怒られたんじゃ…」
「そうなの?カナメ、強いの?」
「そうじゃ。ご飯いっぱい食べるからじゃな。アリエもマーシュも強くなるためいっぱい食べるんじゃぞ。」
「「はーいっ」」
「…なぜそうなるかな…ちぇっ」
散々いじりられ、ツッコミながら談笑しているとアリエとマーシュは食べ終わったようだ。私をジーッと見つめてくるので、手招きすると駆け寄ってきた。
「カナメ、食べた?」
「うん、いっぱい食べたよ。ほら」
ポッコリお腹をみせてやるとキャハハと笑った。
「お部屋行こうよ!アリエとマーシュの。」
「いいの?」
「カナメは女の子なんでしょ?だったらいいの。」
「カナメさんはもう食事はいいんですの?」
「はい、もうたくさん頂きました。でも良いんですか?私が入って…」
「それはこちらからお願いしますわ。少し面倒を見てもらえますか?」
「はい。わかりました…お母様のお許しが出たから行こうか。」
「わーい、こっち!こっちだよー!!」
「はいはい。では失礼します。」
じーじに目を合わせて部屋をでた。
「ジャーン!!私たちのおへやなの!」
「これまた奇抜な…」
テーマはジャングルですか?
壁紙はリアルジャングル、リアル猛獣。虎の毛皮の絨毯に、象牙っぽいものが突き出て、帽子が引っかけられている。
ベッドは全く不釣り合いなレース天蓋付きだ。リアル蛇が巻き付いているから合っているのかもしれないが…
黙り込んだ私に不安気な視線が送られてきているのにやっと気がついた。
「動物好きなの?」
「「うん、だいすき!」」
「怖くないの?これなんて大きいよ〜。」
「わたしたち会ったの!とらさんに。ね〜マーシュっ」
「おっきいの!こーーーんなに。お顔をゴシゴシしてた!」
「へぇ〜…ガブッてされなかった?ふふ」
「うん!馬車のおうちの中から出られないんだって…」
「おおきくなったら、いっぱいぼうけんしてどうぶつさがすんだーー」
「「ね〜〜っ!」」
「私も兎とかジャガー(みたいなの)とか熊とか見たよ。」
わー!すごーい!とハシャぐ子供達を見ながら、内心では、殺したんだと毒を吐いた。
動物真似をしてみたり、絵を描いてあげたり…
いちいち喜ぶこの子達には癒される。癒されるんだけど、何かしっくりこなくて戸惑ってしまう。やっぱり問題児共の中で育ったからか癖のある子供の方がやりやすいのかもしれない。
動物ネタも切れてきたので紙飛行機を作ってやった。狭くはないこの部屋でビュンビュン飛ばす子供達。
「何ですの?これは…」
「あ、おかあさまーー!すごいでしょ?」
「ぼくじょうずだよ!みててね。そーれ!」
スーッととんで、天蓋の蛇に当たって落ちてきた紙飛行機。
「すごいわ!どうして飛ぶのかしら?」
「おかあさまもする?」
「ありがとう。…………わっ!飛んだ!凄いわ!ちょっと待ってて。ナトール連れてくるわっ!ふふふふ」
………はっ!
あまりに驚いて呆然としてしまった。
あの完璧な貴族の奥様が、ただの紙飛行機にあんなにハシャいで…
そうか。私には普通でも、こっちじゃ紙を飛ばしたりしないんだ…
電動機械化もしてないから、多分安いもんじゃないし、折り紙なんかは贅沢な遊びなんだ…
私、言葉の勉強で紙を死ぬほど使ったんだけど…
なんかごめん。ウィルナード…もっと節約すべきだったよ。
「うわぁ〜本当ですね。」
「でしょう?もう、私感動しましたわ。」
「ワシにも見せ…おお〜!飛んどるわい。カナメ、ワシにも!」
「…は、はいっ!作ります!」
「ワシのはなぜ右に返ってくるんじゃ!」
「……良く飛びますね…」
「私も負けませんわ!」
もう子供そっちのけで遊ぶ大人達…
うん、私は必要なさそうなのでコッソリ退散しよう。
「……ただいま〜」
「カナメ嬢がお疲れのようだ。」
「いえ…ああ、少しだけ…アハハ」
「先程マリッサが騒いでいたが何だったんだ?」
「…子供部屋に行ってみてください。すべてがわかります。」
「ふむ、面白そうだ。行ってみよう、エリク、ヴィル。」
「あ、私も行っていいですか?」
「ああ、もちろんだよ。アルベルト」
残されたカナメとギル。
息を吐き背もたれに身を預けた。
「どうしたんだ?」
「…ギル、飲み物ちょうだ〜い。…ん、ありがと。はぁ…紙を折って飛ばしてた。以上!」
うん、そうとしか言えんだろう!
「紙を?」
「そう。ピューーって飛ぶだけ。もう、じーじは言わずもがな、あのナトールさんも、マリッサ夫人も大はしゃぎ…だから逃げてきた。ははは」
『カナメ、俺にも作ってくれ!てゆうか、来い。』
「アル…他人ん家だよ?走んなよ。そういやオリービア夫人は?」
「もう部屋へ戻られた。」
「早く!!」
「はぁ…」
ちゃっちゃと追加を折ってギルの所へもどってきた。ギルにも1つプレゼント。
「はいっ。これでもう折らない!自分で折る気はないのかアイツらは…」
「これを飛ばすと言ったな?…」
「そう。…こうやって。」
「おお!」
「ギルもかよ…」
「…ほう。確かに面白い」
「…………」
「どうゆう原理で?」
「空気抵抗がどうとか…知らねぇよ!」
「空気抵抗?」
「詳しくは知らん!」
「…そうか。まあ飲め。ワインで大丈夫か?」
「ああ、ありがとう。…チーズあんじゃーん!…うまっ。カマンベール的な?んん〜まったりもったりですな〜」
「くくくっ…カマンベールはチーズのことか?」
「うん。チーズの種類だな。ピザ食べたいわ〜」
「ピザ?」
「薄いパン生地にトマトソースのぴりっとした奴をぬって、サラミやら」
「あの!」
「は、はいっ!」
「そのお話、私もきいてよろしいでしょうか!?」
「…いい…ですよ?」
「ありがとうございます。私、ここの厨房を任されております、ドランと申します。」
「ああ、今日は美味しく頂きました。ありがとうございます。」
「いえ、ご丁寧にありがとうございます」
「で…最初からね?薄いパン生地に…ーーー」
すごくお礼を言われて、満面の笑みで出て行ったドランさん…
「…なんか疲れる…」
「良いことだとは思うが…」
「まあね…面倒くさいだけだし。」
「…アルが戻って来たら帰るか?」
「そうだな。眠そうに装うとするか。」
「…演技ではないだろう?」
「…バレた?2人だと気が抜けたみたいだ。ドッと疲れがきたよ…公爵…やっぱりじーじは王族…元王弟か…ただの好々爺だがな。」
「カナメ…」
「ふぁ〜い…口チャックしときます〜」
「ちゃっく?」
「…………」
続々とみんなが戻ってきて、眠そうに目をこするアリエとマーシュにおやすみの挨拶をされた。
そして私達も帰ることを告げ、玄関先まで見送ってくれた。
「今日はごちそうさまでした。またな、じーじ。」
「またの!気をつけて帰るんじゃぞ!」
「うん!」
「…カナメ。不思議なおなごじゃ…のう、ヴィリウスよ。」
「そうだね〜」
「嫁に…」
「爺様…孫を使うな。そして俺は来年から軍に入るって知ってるよね?」
「おしいのう…嫁にくればたんまり遊べるのにの…」
「カナメの都合を考えてあげて…」
「うちの嫁に入ればバーブル伯なんぞ目でもないわい。おしいのう…」
「ここに居る内は会えるんだ。それで我慢しとこう?」
「うむ…妥協案で影の者を付けておこうかの。」
「…ギルバートにバレるって。」
「…うーむ…なにか…なにか案はないかの…ブツブツ」
「はぁ…目をつけられちゃったね〜。ご愁傷様…カナメ=シュベルド」




