高貴な爺さん
「ええ〜判定が出ました!」
あー際どい勝負だったな〜。まぁ、負けだ負けだ。
「…一位………………7番!二位6番!」
えっ?
「なぜだ!?6が先に入っただろう?!」
ひょろひょろの男が叫んだ。
そうだ。確かにナナクロ…もとい7番が1番を追い越す所で、6番がノロリノロリと歩きながら入ったはずだ。そして微々たる差で突き抜けた7番……だった。
私は見たぞ。
騒然としているネズミレース付近……
バンッーー
高貴な身分だろう初老の男が壁を叩いたようだ。その場所にはルールが書かれている貼り紙があった。
「これを!…尾の付け根が先に線を越した方の勝ち、じゃ!毎回毎回騒ぎよって!この館は判定が正確、が『信』じゃろう?ようよく見てから物を申せ。…うむ。さて、ワシは7に賭けた。その者、シンと換えてくれんか?」
「は、はい!畏まりました!」
なるほど…私もギルからの説明聞いただけで見てなかったよ…
ん?ナナクロ勝ったよな?
20の5倍は100!!!
「100!100!私も7番買いましたっ!」
勢いよく手を挙げ、札を突き出すと、周りも舌打ちしたりしながら札を返却箱に放り込んで散らばっていった。
「お待たせしました。20シンの五倍で1カンで御座います。」
楕円形の赤い半透明な板だ。
「カン?」
「はい。シンの方がよろしかったでしょうか?」
「いえ…100シンで1カンなんですか?すいません、初めて来たもので…」
「はい。100シンともなれば持ち運びも面倒になりますので。」
「ふーん…綺麗だなこれ。あ、こっちの奴もお願いします。」
横に居たアルとギルに変わって少し離れる。
いや〜嬉しいなぁ。158シン、イコール790ネルだぜーいっ。
元手が130ネルだから、660ネルの儲け。ヒャッホーイ!
内心喜びを噛みしめていると近付いてきたアルに肩を組まれた。
「カッカッカ。キたなキたな初心者の加護。良くやった!カナメ!」
「だよな!神様ありがとう!ハハハハッ」
「アハハハハ、もうちょい賭けときゃ良かったぜ〜。ま、取り返せたから良しとするかっ!」
「負けてたのか?ダッサ!ハハハハッ」
「うるせぇ!12シンの儲けだ!悪ぃかよ!?お、ギル。そろそろ帰るかね〜」
「ハハハハッ、ギルいくら儲けたんだ?」
「…3カン8シンだ」
「はぁ?」
「コイツカード見てんじゃねーか?ってぐらい冴えてたんだ!ギルの2カン賭けは神憑ってた!」
「マヂカヨ…1540ネル…すげぇ!」
『ワシは今日、12カン45シン儲けじゃ。』
さっきの、壁ドンお爺さんが割り込んできた。
アルとギルの顔を伺うと、知り合いのようだ。アルの顔は引きつっているが…
反対に、挑戦的でいて、親しみのある笑みを向けてくる爺さん。
「すごいな!じゃあ飲み代はお爺さんの奢りで!」
「お、おい」
「よかろう、よかろう。ホッホッホ…お姉ちゃんどころへ連れてってもええぞいっ」
「あちゃ〜、私女なんだ〜。かといって男はいらないよ?ふふっ」
「なんとっ!コリャ失礼した。」
「ハハハハッ、全然気にしてないから。お爺さん、さっきは格好良かった!流石貴族様だよ。威厳たっぷりだった!」
「その貴族様にそない馴れ馴れしいおなごは珍しいのぉっ!ホッホッホッ」
「わぁお、一般人の会話に紛れ込んできた貴族様が意地悪してくる〜!助けてアル〜」
「なっ!」
「ホッホッホッ…幼子のようにしとれば可愛らしいのう。」
「アハハハ!お世辞は止してくださいまし、お爺様ッ。」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「ハハハハッ!」
「…ご無礼を。」
「何を申す。ワシはどこぞやの貴族様らしき謎の老人よ。お嬢さんにちょっと気に入られた、な。」
「うん。じゃあ、仮の名前は何ですか?」
「そうじゃの〜じーじにしとこうかの!」
「それ、愛称じゃないか!ハハハハッ」
「お嬢さんのお名前を教えてくれんかの?」
「カナメです。生意気な小娘ですが、宜しくお願い致します。」
「よろしくのぅ、カナメ。…今から両替かの?」
「あ、そうだった。」
「…アソコで交換だ。先に行ってろ。」
「わかった〜」
「本当に失礼しました。ハディル様」
「申し訳ありません…」
「気にせんでよいぞ。しかし面白い娘よ…剛胆で、鋭い目でどう接するか見極め、心地よく知らぬ存ぜぬで対応しよった。普通はこないな事、わかってようと出来ぬもんじゃがな!ホッホッ…カナメとは、シュバルドのカナメか?」
「ご存知でしたか…」
「ワシはその場に居合わせなんだ…後に聞いてな。可哀想なことをしたわい。」
「…今、共にハンターをしております。」
「使えるか?」
「ええ、まだ教える事は有りますが腕は申し分ありません。」
「お、戻って来おる。これから飲みにいくんか?」
「…いえ、実は本日到着したばかりで、そろそろ休ませようかと…」
「そうじゃったか…ならば後日飲もうぞ!都合はどうじゃ?」
「…何々〜?内緒話?」
「いんや、飲みにゆこうと都合を聞いておるんじゃ。」
「なんの都合もありませんのでいつでもお呼び下さい。」
「うむ。なら、明日の日暮れにまたここで…で、ええかの?」
「はい」
「カナメ、明日飲もうぞ!」
「はい、じーじ。明日楽しみにしておきますね。」
「ギルバートもアルベルトも、もうちょい気を抜いて会おうぞ。ふぉっふぉっふぉっ、また明日。疲れを癒やせよ。」
人の良い笑顔で手を振るじーじに手を振り返すと、シワを深くして笑った。
アルとギルは頭を下げたままだ。
「行ったよ」
「馬鹿!お前、あの人はなぁ!」
「…アル、あの方はあえて名乗らなかった。それに聞いたろ?さっきの態度を気に入っておられるのだ。それを妨げてはならない。…だがなカナメ…一歩間違えれば危険だったことは分かっているな?」
「うん。あの人は相当なお偉いさんみたいだな。でも、玉当ての時から私を面白がって見てたし、ネズミの時も近くに来てた。さっきも私に、興味津々って感じの顔してたから乗った方がいいと思ったんだ。ごめんな、焦らせて…」
「わかってりゃいいよ…あー心臓縮んだわ!…でも、俺なんかの名前なんで知ってんだ?」
「…さあな…さて、替えに行くぞ。」
「おう。」
「王様じゃねーな…従兄弟かなんかかな?あれ?違うな。年齢的に前王様かその兄弟かな?でも、私じーじ好きだわ〜。かっちょいー」
「てめっ、そこまでわかってて…馬鹿野郎!」
「いってぇ!殴んなよ…悪かったって!威張り散らす感じなら最初から頭垂れて膝着いてたよ。あ、右足つくんだっけ?左?」
「んなこともわかんねーのか!益々不安だっ!」
「心配してくれるなんて優しいのね。アルベルトっ!」
「演技をやめろ!そして抱きつくな!」
「うれしいくせに〜このこの〜」
「ふざけんな!」
両替から戻ってきたギルの腕に避難する。
「ハハハハッ、ギルにしとくよ。幼女趣味め!」
「ちげぇよ!!」
「アル、早く金に替えろ。」
「チッ、覚えてろ?クソガキ!」
「………クククッ悪役の捨て台詞…」
ボソリと呟くと頭上から、気遣う声が聞こえた。
「カナメ…肝が冷えたぞ。」
「ごめんごめん。心配してくれてありがとな!嬉しいよ、マジで。」
ニッと笑みを向けると微かに微笑むギル。
「そうか…」
「うん!ギル最近良く笑うようになったな!良いことだ。」
「ん?」
「笑え!楽しまねぇと人生損だぞ!…ふぁ〜あ、眠くなってきた…」
「寝るか?」
背を向け跪くギルに驚愕した。
「…いや、おんぶ?いらねぇいらねぇ!大丈夫だ。」
「乗れ。体はガキなんだ。」
「いや、いいって!恥ずかしい…28なんだって!」
「早くしろ…」
数歩後退して無言を貫くと首だけ回して睨んできた。
いや、恥ずかしい恥ずかしい!なんの罰ゲームだ…周りの奴もチラチラ見てんぞ、おい……
……………わかったよ!この強情ッパリめ!
諦めて背中にのし掛かると、忍び笑いをしながら立ち上がった。
「チッ………うわ、羞恥で死ねる…」
「さ、行くぞ。」
「お、ガキらしくしてんじゃねーか。クックックッ」
「うぜぇ!…」
おんぶとか初めてだ…高ぇなあ〜目線が全然違う。昔はやる側だったからな……
誰も28歳とは思うまい。今私は子供だから許される!ふふふ
「内心が漏れてんぞ!御歳30前の心の内が」
「げっ…」
夜の町をゆっくり進むにつれ、羞恥心で覚めた眠気がぶり返してきた。肩に顎を掛け目を閉じる。
アルの喋る声と、たまに相づちをつくギルの重低音を子守歌に、そのまま眠りについた。
ただただ安心感に包まれて……




