06-15 増殖。
須賀や西城ら四人は、全員のあわせても須賀の『臥薪嘗胆』しかスキルを持っていない。
対して、木ノ下の方は、たった今、強力な破壊力を持つ遠距離用の攻撃方法を持っているということを証明したばかりだった。
どう考えたところで、逆らえるわけがない。
一方、彼らと対峙している木ノ下の方はといえば、内心では、
「……どうして、こんなことになっちゃったんだろう……」
とか、戸惑っていた。
スキル『ぼっち王』を使って姿を消したままの状態の知念はなに手を引かれ、わけもわからずこの裏庭にまで移動した結果、いつの間にかこんな状態になってしまっている。
木ノ下は昼休みのときに知念との協力関係を一応は了承しているのだが、今の知念はスキル『ぼっち王』のおかげで認識できない。
手を引かれたり、声をかけられたりとか、知念の方からなんらかの働きかけが行われたときはその部分だけを関知できるのだが、基本的に今の知念は、透明人間にも等しい状態といっていい。
木ノ下は、そんな疑似透明人間状態の知念のことを、昨日あたりから噂が広まっている「プレデター」であると認識していた。
そして木ノ下は、そのプレデター状態の知念と一時的な協力関係にあることも、しっかり記憶している。
スキル『ぼっち王』が阻害するのは、どうやら使用者自身の認識だけのようだった。
そして、現在、木ノ下はそのプレデターの指示に従って目前の五人に「スキルを渡せ」と強要している状態だった。
須賀ら、五人は、先ほどの攻撃の威力の大きさに、すっかり萎縮してこちらに逆らう気をなくしてしまっている。
実のところ、地面に大きな穴をあけたさっきの攻撃は木ノ下の、ではなく、知念のスキルによるものであるのだが、現在の知念はスキル『ぼっち王』の機能により他人にはうまく認識できない状態になっているので、彼らの目にはその場には木ノ下しかいないように見えている、わけだった。
……すっかり、怖がられているなあ。
と、彼ら五人の様子を見て、木ノ下はそう感じる。
無理もない。
普通の高校生は、こんな至近距離で爆発を目撃する機会などほどんどない。
彼らは、生命の危険さえ、感じているのかも知れなかった。
「……渡す! 渡すよう!」
須賀が、震える声でいった。
「こんなもん、いくらでもくれてやるから!」
その言葉通り、須賀の前に、四角い画面が出現する。
木ノ下もはじめてみる、スキルの譲渡確認ボタン。
少し考えてから、木ノ下はその画面に手を伸ばし、「yes」の部分に指を置いた。
同盟者でもあるプレデターも、木ノ下のそうした行為をとがめようとしていなかった。
……よくよく考えてみれば、須賀のスキル『臥薪嘗胆』は本人が持っていてもあまり意味がないので、プレデターがあえて木ノ下に取らせるのも筋が通っているのだが。
《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が木ノ下紬に譲渡されました》
その操作を終えて、そこで木ノ下はあることに気づく。
……あれ?
この『臥薪嘗胆』のスキルって……ひょっとして……。
「……無限にでも、増殖できるんじゃあ……」
木ノ下はプレデターに聞かせるため、小声で、そう呟いた。
「……試してみていいかな?」
(…………あっ!)
数秒して、プレデターも反応する。
(そういう……。
そうだね。
スキルの性質からすると、できるはずだけど……。
うん。
やはり、実際に試してみよう)
プレデターも、この実験を行うことには賛成のようだ。
「須賀くん」
木ノ下は、落ち着いた声で語りかける。
「これから、須賀くんの『臥薪嘗胆』を復活させようと思います。
無論、無条件でというわけではありません。
今後、須賀くんは、このゲームが終わるまでいっさいわたしには攻撃を加えないと約束をしてください。
それとも……このまま、このゲームから退場することを望みますか?」
「……が……『臥薪嘗胆』の使用条件、だな」
須賀は、がくがくと首を縦に振った。
「復活させてくれ!」
そうした須賀の態度を見て、木ノ下は、
「……こんなにあっさりと元に戻ることを決断して、あとで後悔しないのだろうか……」
と、思ったものだが……。
いずれにせよ、それも他人事ではあった。
木ノ下にしてみれば、須賀が今度どうなるのかについてはあまり関心がなく、スキル『臥薪嘗胆』の機能試験を恙なく完了させることがとりあえずの目標である。
「それでは、その条件で、須賀くんの『臥薪嘗胆』を復活させます」
木ノ下がそういい終わるのと同時に、須賀のスキルは元通り復活している。
「……え?」
あまりにも呆気がなかったので、須賀は拍子抜けしていた。
しかし、すぐに自分のステータス画面を開き、スキルが復活していたことを確認する。
「本当だ!
元に戻っている!」
「……それじゃあ!」
今度は西城が、スタンガンを須賀の目前に振りかざしながら迫った。
「今度はこっちのスキルを復活させて貰いましょうか!」
「いや、沙名ちゃん!」
辺見が、西城に異議を唱える。
「それよりも、スキルを丸ごと貰った方がいいって!」
辺見の言葉に反応して、元自称魔法少女の四人組は素早く須賀を取り囲んで見おろした。
特殊警棒や催涙スプレーなどの得物をこれ見よがしに須賀に見せつけることも忘れない。
「……またかよ!」
須賀は叫ぶ。
須賀にしてみれば、木ノ下の出現以前の立場に戻っただけであった。
「スキルをくれないと……」
そういいながら、奥地が目を細めて須賀を見おろした。
「このまま袋叩きにしちゃうぞ!」
「かわいい口調でいっても脅迫でしかない!」
須賀は、また叫んだ。
「……あー。
もう、わかったよ。
そのかわり、こっちにも条件がある。
いや、条件というよりも、あんたたちにとっては保険になるはずだ」
「……保険?」
夢川が、首を捻った。
「一度、そちらの誰かに『臥薪嘗胆』をくれてやるから、そのあと、またぼくのスキルを復活させてくれ」
須賀は、そういう。
「そうしたら、あんたがたがスキルをすべてなくして、なおかつ、ぼくの『臥薪嘗胆』が無事だったときには……。
また、あんたらのスキルを復活させてやろう」
西城たち元自称魔法少女四人組は顔を見合わせる。
そして小声で、相談をはじめた。
「……どうする?」
「とりあえず、こっちに損はないようだけど……」
「ここは、木ノ下さんの真似をしよう。
ゲームが終わるまで、こちらの攻撃をしないということを約束させた上で、復活させる」
「それと、せっかくだから、全員すべてに『臥薪嘗胆』を行き渡らせようよ。
須賀くんの言葉を借りれば、保険ってやつ」
「いいね、それ」
《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が西城沙名に譲渡されました》
「……それじゃあ、須賀くん」
西城はいった。
「ゲームが終わるまで、わたしたちとは敵対しない」
「約束する!」
須賀の『臥薪嘗胆』は復活する。
「次は、わたしねー!」
同じようにして、元自称魔法少女四人組全員に、スキル『臥薪嘗胆』が行き渡った。
《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が奥地八枝に譲渡されました》
《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が夢川明日夢に譲渡されました》
《須賀泰司のスキル『臥薪嘗胆』が辺見洋子に譲渡されました》
最後に、須賀に「ゲームが終わるまで敵対をしない」ことを誓わせて、辺見が須賀の『臥薪嘗胆』を復活させる。
こうして、スキル『臥薪嘗胆』は六つにまで増殖を果たした。
「……おれ、もう帰っていいかな?」
須賀は、そういって立ちあがった。
「……あー」
西城は、仲間たちの顔を見渡して、答える。
「いいんじゃないかな?」
正直、取るべきものはとったから、彼女たちにしてもこれ以上、須賀に用はないのであった。
「それじゃあ、そういうことで……」
須賀は、妙に晴れ晴れとした顔つきでその場から立ち去った。
一時は命の危険さえ覚悟していたところから、結果として誰にも損害を出すことなく、それどころか誰もが特をする結果に終わったのだ。
須賀にしてみれば、上々の結果といえる。
「さて、わたしたちは……」
「いよいよ、自分のスキルの復活ですかあ」
「それで、使用条件はどうしよう?」
「なんかひとつ、約束を結ばないと使えないんだったよね?」
「……うーんと……。
課題を移させて貰う、とか?」
「あと、ジュースかお菓子を奢らせるでもいいんじゃない?」
「そうそう。
約束を実行させる、って規定はあっても、その約束の質までは規定されていないから……」
「とにかく、そんな軽い約束をばんばんしていって、全員分のスキルを複製していこう!」
「あ。
それ、できるのか!」
「できるはずだよ。
スキル『臥薪嘗胆』は、その人が最初から持っていたスキルなら復活できるから……」
「さっきみたいに、スキルを譲渡しては復活させていけば……」
元魔法少女四人組は、そんな風に盛りあがっている。
……と。
「……その前に」
不意に、知念はながスキル『ぼっち王』を解除して、姿を現す。
「その増殖行為を、あと二回、余分にやってくれないかな?」
「はなちゃん!」
元自称魔法少女四人組の声が、重なった。
「……いっておくけど、こっちはまだまだ攻撃手段があるから」
知念は、そういってスキル『リボルバー』で実体化した小型拳銃を元魔法少女たちに見せつけた。
「あと、『エアタンク』も、持っている。
断るようだったら、このまま攻撃する」
「……どうする?」
「別に、断る理由もないんじゃない?」
「だよねー。
『臥薪嘗胆』が行き渡っている以上、別に減るもんじゃないし」
「ぶっちゃけ、誰も損をしない取引ですよね、これって」
「断って怪我をするのも馬鹿馬鹿しいっていうか」
元魔法少女たちは早口に相談をしたあと、知念の申し出を快諾した。
《西城沙名のスキル『アイスエイジ』が奥地八枝に譲渡されました》
《西城沙名のスキル『アイスエイジ』が夢川明日夢に譲渡されました》
《西城沙名のスキル『アイスエイジ』が辺見洋子に譲渡されました》
《西城沙名のスキル『アイスエイジ』が木ノ下紬に譲渡されました》
《西城沙名のスキル『アイスエイジ』が知念はなに譲渡されました》
「はなちゃん、名前隠さなくてもいいの?」
「どうせ、スキル『ぼっち王』を使うと、みんな、わたしのことが認識できないようになるし」
知念は、そう答える。
「ここで隠しても、あまり意味がない。
それに、知念はなという出たり消えたりする生徒にも武器があるっていうことを知らせておけば、いざっていうときに相手が勝手に警戒してくれるかも知れないし」
結果として、魔法系スキル四種全てを持った生徒たちが六名、誕生する結果となった。




