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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
五日目。
91/109

06-12 波紋。

《睦月庵がスキル『パラライザー』、『シーフ』、『アイスエイジ』、『マックススピード』を林道鈴から奪取しました》


 そのアナウンスが頭の中に響いたとき、知念はなと木ノ下紬は滅多に人が来ない女子トイレの中にいた。

「ほら」

 知念はなはうっすらと笑う。

「こうしている間にも、スキルを取る者と取られる者の格差が広がっていく。

 このままのなにもしないままで、誰かが襲ってくれるのを待つだけでいいの?

 わたしとあなたのスキル構成なら、かなりいいところまで戦えると思うんだけどなあ……」



《睦月庵がスキル『パラライザー』、『シーフ』、『アイスエイジ』、『マックススピード』を林道鈴から奪取しました》


 そのアナウンスが頭の中に響いたとき、田所一は校庭に出たところだった。

「……睦月、庵?」

 クラスメイトであるから顔と名前くらいは知っているが、性格や交友関係までは把握していない。

 田所にとって睦月とは、そんな生徒だった。

「……やるじゃねえか」

 田所は、小さくそんなことを呟く。



《睦月庵がスキル『パラライザー』、『シーフ』、『アイスエイジ』、『マックススピード』を林道鈴から奪取しました》


 そのアナウンスが頭の中に響いたとき、三峰刹那は昇降口に出る廊下を歩いているところだった。

「……睦月、か……」

 三峰は、歩みを止めて何事か考え込む。

「また、加速するな」

 ぽつりと、そんなことをいった。



《睦月庵がスキル『パラライザー』、『シーフ』、『アイスエイジ』、『マックススピード』を林道鈴から奪取しました》


 そのアナウンスが頭の中に響いたとき、昇降口を出たところだった芦辺素直は校庭を駆けだしていた。

 林道がスキルを失ったときの状況は、この時点では芦辺は知る由もない。

 しかし、林道が持っていたスキル全てを一度に失う、ということは、かなり異常な事態だといえた。

 かなり特殊な『シーフ』はともかく、林道が持っていたその他のスキルは、対人戦ではそれなりの威力を発揮するものばかりだ。

 その林道が、なす術もなくすべてのスキルを奪われている……というのは、やはりただ事ではない。

 ましてや、芦辺自身が、林道と七重、路地の三人に、できるだけ集団で過ごすように指示をしている。

 今のあの三人を相手にして、反撃することも許さずに……となると、考えられる方法はかなり限られている。


 不意打ち。

 それも、致命傷かそれに近い打撃を短時間のうちに加えるような、激しい攻撃。

 攻撃されている、と気づいたときには、すでに手遅れになっているような……。


 その他の方法を、芦辺は想像できなかった。


 思い切ったことをやったな。

 とも、思う。

 どんな強力なスキルを持っていようが……そのスキルを発動する前に致命傷を負わせてしまえば、スキルは自動的に移動する。

 芦辺や睦月だけではなく、このゲームに参加する者なら誰もが一度は想像していたはずの方法だ。

 しかし、ゲームが開始してからこれまでは、誰もその不意打ちを実行してこなかった。

 まだまだ、遵法意識や論理間という、意識的無意識的な枷に捕らわれていたからだろう。

 リライターがいうことを信じるのであれば、ゲームが終了したときにすべての物理的な損傷は修復され、死人や怪我人も元に戻るということだったが……。

 だからといって、すぐに割り切って誰もが殺人者になれるわけでもない。

 曖昧な倫理だけの問題ではなく……このゲームの場合、殺害する対象は入学してからこれまで毎日のように顔を合わせてきた同じ級友たちなのだ。


 しかし、これからはどうなるか……。


 睦月庵は、よりによって衆人環視の場で林道に対して公然とスキルが移動するほどの被害を与えた。

 現在の睦月のスキル構成からして、おそらくは、『ジャック・ザ・リッパー』による不意打ちだろうな、と、芦辺は予想しているわけだが。

 芦辺の予想通りだとすれば、林道が襲撃された現場はかなり血腥い状況になっていることだろう。

 その現場を直に目撃した生徒たちが、今後、どのような変化をすることか……。


 実際に凶刃を振るったらしい睦月も、たまたまそれを目撃していた生徒たちも、もう元には戻らないのではないか……と、芦辺は思った。


 芦辺が現場に到着すると、七重芹香は自分の服が血で汚れるのにも構わず、林道鈴の小柄な体を抱きあげて泣きじゃくっている。

 林道の、血に汚れていない部分の肌が、不自然に白い。

 その肌の白さをみて、芦辺は瞬時に、

「あ。

 これはもう、手遅れだな」

 と直感した。


 路地遙は、そんな七重の様子を、血の気が引いた顔でぼんやりと眺めている。

「……睦月の、不意打ちか?」

 芦辺が声に出して確認すると、路地は、ビクンと大きく肩を振るわせた。

「……そう」

 しばらく時間を置いて、路地が答える。

「こうなる可能性も予想していた」

 芦辺は、低い声でぼそぼそとしゃべった。

「もっと強く、注意しておくべきだった」

「不意打ちのことっ!」

 突然、路地が声を大きくする。

「誰だって、予想くらいできたわよ!

 でも、実際にやるなんて思わないじゃない!

 だって……こんな……」

 そういって、路地は声を詰まらせる。


 そんな路地の様子をみて、芦辺はしばらく言葉を失った。


「……すまない」

 少し間を置いて、芦辺は誰にともなく謝罪した。


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