06-10 内膳によるスキル『見取り稽古』についての考察。
『エアタンク』、『ランサー』、『ぼっち王』、『マックススピード』、『アイスエイジ』、『バリヤー』、『ナイトシールド』、『スカウター』。
これがなにかというと、内膳英知が今日の午前中だけでコピーしたスキルのリストになる。
すげぇえなあ、と、内膳は素直にスキル『見取り稽古』の能力に感嘆した。
四時限目の授業中のことである。
コピーしたスキルは自力でレベルアップさせることができない、という大きな欠点こそあるものの、ごく短時間のうちにこれだけのスキルをコピーできるのなら、デメリットよりもメリットの方がよほど大きいことになる。
それから少し考えてみて、
「あ。
この扱いの容易さが、一種の罠なのではないか」
と、すぐに思い当たったのだが。
スキルは、レベルの高低だけでは判断できない部分がある。
たとえば、もともと内膳が持っていた『リボルバー』だと、いくらレベルが高くなっても、威力や射程距離に変化があるわけではないし、また、命中率も変動はしない。
使用可能な特殊弾頭こそ増えるものの、『リボルバー』で出すことができる拳銃そのものが変質するわけではなく、結局は扱う人間の技量に頼る部分が大きかった。
スキルのレベル以外にも、スキルの所有者の熟練度ともいうべき可視化されにくいパラメータが現実には存在し、そちらをなんとかしないどどんなに優秀なスキルを持っていても宝の持ち腐れ荷なりかねない。
いや。
使用可能なスキルが増えれば増えるほど、個々のスキルへ割くべき時間は相対的に短くなり、使いこなすことができなくなるのではないのか?
……そ、内膳はそんなことを思いはじめていた。
この時点で内膳が、
「使い慣れた『リボルバー』を封印して、その他のスキルだけで戦え」
とかいわれたとしても、その場で柔軟に使いこなせる気がしない。
パッシブスキルである『バリヤー』、『ナイトシールド』、それに、他者が持っているスキル名とレベルが読みとれる『スカウター』はまだしも、他のスキルを即座に使いこなせる自信を内膳は持てなかった。
……そういうスキルに関しては、まあ、折を見て、ゆっくり検証していくことにしよう。
内膳は、そう思う。
この場でムキになったところで、事態が好転することはない。
それ以上に、ここで成果をあげることあせればそれだけ隙もできる。
放課後、自宅に帰ってからでも、ゆっくりと検証した方がよさそうだった。
それよりも……。
と、内膳は、ふと疑問に思った。
『見取り稽古』でコピーできるスキルとそうでないスキル、その境界は、どういう条件で設定されているのかな?
内膳は、教室内のクラスメイトをゆっくりと眺めてみる。
すでにスキルを失った生徒を除いた全員の頭部付近に、スキル名とレベルの数値が表示されていた。
いうまでもなく、コピーしたスキル『スカウター』の機能によるものだった。
しかし、『見取り稽古』は、クラスメイトが持っているスキルのすべてをコピーしているわけではない。
スキルの名前からして「見ている」ことがスキルの発動条件のひとつにはなっているのだろうが……。
やはり、「そのスキルを使用している場面を直接目撃する」ことが、条件なのかな?
と、内膳は思う。
『エアタンク』、『ランサー』、『ぼっち王』、『マックススピード』、『アイスエイジ』などは、今朝の乱闘の際にコピーしたスキルであった。
三峰や知念、それに林道らが、あのときあの場でそうしたスキルを使用していたことを、内膳は把握している。
『バリヤー』、『ナイトシールド』、『スカウター』は、本来の所持者である矢尻、新堂、頼世らが普段から使用しており、なおかつ、内膳がその場面を直接目撃したからコピーできた、と考えてよさそうだった。
だけど、それだと……。
内膳は、まだ疑問に思う部分が残っていた。
なんだって、木ノ下の『パニックボム』と叶の『リヴェンジャー』は、コピーできなかったのか?
このふたつは、矢尻の『バリヤー』や新堂の『ナイトシールド』と同じく、常時発動しているパッシブスキルに思えるのだが……。
と、そこまで考えて、内膳は、自分が見落としていたことに気づいた。
『パニックボム』と『リヴェンジャー』。
このふたつのスキルは、ある意味ではパッシブスキルであるともいえるのだが、真価を発揮するのは外部の刺激に対して反応したときである。
そして、内膳がスキル『見取り稽古』を所持するようになってから、このふたつのスキルが実際に反応する場面を、内膳は見た経験がなかった。
実際に、スキルが発動している場面を目撃しなければ、コピーはできないというわけか……。
と、内膳は、心の中でひとり頷く。
スキルの発動条件としては、どちらかというとかなり緩い方だろう。
それ以外にも……。
内膳は、これまでの経緯を思い出し、さらに細かい条件をあぶり出していく。
それ以外にも、「ある程度、コピーするスキルについて把握しておくこと」も、この『見取り稽古』の発動条件に入っているのだろうな……と、内膳は思った。
内膳が把握していないだけで、他にも常時スキルを発動している生徒がいてもおかしくはないのだ。
しかし、そうした生徒たちのスキルについて、内膳が意識しないうちにいつの間にかスキルがコピーされている、ということは、これまでのところないようだ。
いや。
厳密なことをいえば、そうしたスキルが「ない」とも「ある」とも照明不能なわけだが……。
ただ、あまりにも発動条件が緩くなりすぎても、この『見取り稽古』が有利になりすぎる気がする。
リライターと名乗る存在は、ゲームマスターとしてはかなり意地の悪い性格をしている……と、内膳は感じていたから、やはりその程度の制限は設定しているのではないか?
特に根拠はないのだが、内膳は、そう思った。
確証は持てないのだが、「そういうものだ」と想定して動いていた方が、よさそうな感じだな……と、内膳は結論する。
結論からいってしまえば、この内膳の想像は正解だった。
たとえば、この時点で内膳は詳細を把握していなかったのだが、黒森の『フェアリーテイル』や井崎の『ダイスを転がせ』は、そのスキルをほぼ常時発動していた。
しかし、内膳も知念も、スキル『見取り稽古』でそのふたつのスキルをコピーしてはいない。
内膳が漠然と想像していた通り、『見取り稽古』が他者のスキルをコピーするためには、
「そのスキルについて、ある程度の予備知識があり、なおかつ、『見取り稽古』の所持者が該当するスキルを使用していることを実感している場面」
を目撃することを必要としていた。
条件としては決して緩いものではなかったのだが、そうした前提を意識しているのといないのとでは、大きな差が出てくる。
現に、スキル『見取り稽古』の前の所持者であった知念はなは、その簡便さにばかり気を取られて、内膳のようにこのスキルの詳細についてまともに考察しようとはしてはいなかった。
しかし内膳は、「事前の予備知識の有無で、スキル『見取り稽古』がどこまで活用できるのかも大きく違ってくる」ということを前提として、スキル『スカウター』を利用して他のクラスメイトのスキルについて詳細に調べ始める。
頼衣の『スカウター』は、内膳がコピーした時点でレベル五百を軽く超えていた。
それくらいの高いレベルになると、その気になれば他者のスキルについて、名前とレベルだけではなく、より詳細な情報まで読みとれるようになる。
普段、ざっと眺める程度ならスキル名とレベルしか表示されないのだが、数秒そのスキル名を注視すると、そのスキルに対する短い説明文が表示されるのだった。
内膳は試しに、隣の席に座っている井崎巴のスキルについて調べてみた。
しばらく『ダイスを転がせ』というスキル名に注目していると、それまで表示されていなかった説明文がポップアップした。
【
『確率を操作する』
】
……なんじゃ、そりゃ?
と、内膳は心中で呆れた。
説明文としてあまりにも簡潔すぎる。
これでは、なにも説明していないのと同じではないか。
一瞬、そう思いかけたのだが……すぐに、内膳はあることに思い当たり、考えを改めることにした。
井崎のすぐ右隣は、あの三峰刹那の席なのだ。
これは、初日のあのテストプレイのときも、井崎は暴発した三峰のすぐ近くに居た、ということを意味する。
あのとき……この井崎は、いったいどうしていたんだっけかな……と、内膳は必死になって自分の記憶を掘り起こそうとした。
あ、そうだ。
あのときの井崎は、ただ単に机の下に潜り込んで、じっとしていた気がする。
三峰がすぐそばで『エアタンク』を発動して暴れている最中にも、特に逃げる様子も取り乱した様子もなく、そのまま自分の席から離れずにいたことを、内膳は思い出した。
今にして思えば、あの剛胆さは、自分のスキルの特性について理解していたからなのか。
事実、あれだけ間近に居たのにもかかわらず、あのときの井崎には傷ひとつついていないのだ。
間違いないな……と、内膳は確信する。
井崎のスキル『ダイスを転がせ』の機能とは、あらゆる事象を自分にとって都合がよい方向にねじ曲げる、というものだ。
いいかえれば、なにもしなくても周囲の状況が自分にとって都合がいい方向に転がっていく、というスキル。
……そんなの、ありかよ。
と、そこまで思考を展開していた内膳は、ひとりでその結論を否定しようとしていた。
そこまで都合がいいスキルがあると、他のスキルがいらないじゃないか……。
とか思いかけたところで、内膳は、いつの間にかスキル『見取り稽古』が新たにスキルをコピーしていたことに気づいた。
その新たにコピーしたスキルとは、内膳の予想通り、『ダイスを転がせ』だった。
心の中で、内膳は乾いた笑い声をあげる。




