06-04 乱入。
それまで遠巻きにして騒ぎを見物していた生徒たちが、一斉に悲鳴をあげて逃げ出しはじめた。
それまでとは違い、薙刀という明確に目で見える凶器を三峰が持ち出したことから、急に恐怖心に駆られたらしかった。
「……ちょっ。
ちょっ!」
薙刀を振りかざす三峰刹那から遠ざかるようにして逃げていく野次馬連中。
その中にあって、内膳は人の流れに逆らうようにして、三峰に近づこうとしていた。
三峰と他の三人が潰し合いをするのは、まだいい。
それこそ、勝手にやっていればいい……と、内膳は思う。
だけど、一抹の不安があった。
七重芹香、路地遙、林道鈴……の三人。
この組み合わせは、非常に不安だ。
こういってはなんだが、彼女らはアホなのだ。
七重と路地のふたりは、脳筋で物事を深く考えるということをあまりしない。
林道に至っては、精神面でどこか幼いような印象を受ける。
ましてや、あの三峰が相手である。
今、三峰が所持しているスキルは、五つだったか六つだったか。
とにかく、クラス内でも最も多くのスキルを持っていることは、まず疑いがない。
そして三峰は……テストプレイのときのことからもわかるように、やると決めたらとことんやる性格をしている。
別に、あいつら三人に肩入れするわけではないだがな……と思いながら、内膳はスキル『リボルバー』を発動して小口径の拳銃を実体化させ、その銃口を三峰にむける。
まだ、距離が開きすぎている。
もう少し近寄らないと、当たらないな……とか思いつつ、内膳は人の流れに逆行して進もうとする。
……これ以上、三峰の野郎が有利になっても、面白くないからなあ……。
そんなことを思いながら、内膳は先ほどスキル『見取り稽古』でコピーしたばかりのスキル『マッックススピード』を起動して、素早く人混みをかき分けて三峰に近づいた。
スキル『マックススピード』は、要するに自分の体を加速するスキルだった。
このスキルを実行するとスイッチが切り替わったように周囲から音が消え、自分以外のすべてがゆっくりと動くようになる。
なるべく他人の体に触れないように気をつけながら、内膳は人の間を縫うようにして移動し、三峰の間近に迫った。
その途中で三峰も内膳の存在に気づいたようだが、『マックススピード』を使用中の内膳の動きに対応できるはずもない。
視線をこちらにむけ、驚愕の表情を作る程度で精一杯のようだった。
確実に命中する距離を把握していた内膳は、十分に三峰に近づいた上で、三峰にむけてペイント弾を発射した。
三峰が、手にしていた薙刀の柄でペイント弾を弾こうとする。
そうした動きが可能であったことには、内膳も驚いたが……よく考えてみれば、三峰もスキル『ランサー』の付与効果でなにがしかの底上げをされている身であった。
この程度の芸当ができても不思議ではないのかも知れない。
それに……。
内膳は、いくつかある弾頭のうち、故意にペイント弾を使用している。
なぜこの場で、わざわざペイント弾を選択したのかというと……。
実際にそうなったように、三峰が自分にむかってくる弾丸を叩き落とそうとすることも十分に想像できたからであった。
三峰はペイント弾を薙刀の柄で叩き落とそうとし……その衝撃を受けてペイント弾が破裂。
いやな匂いを発する蛍光色の液体の大半は、三峰の頭部を含む上半身に付着した。
「……くそっ!」
三峰が、普段の彼らしくないそんな悪態を口にする。
おそらく……ペイント弾の染料が、目に入ったな。
と、内膳は、そう判断した。
三峰の身体能力やら武芸技能やらがどこまで割り増しになっているのかはわからなかったが、それでも目潰しを食らえば脅威の度合いはかなり目減りするはずである。
内膳は油断することなく新しく小型拳銃を実体化して構え、引き金を引く。
これなんだよねえ……と、内膳の活躍を見物しながら、知念はなは思った。
現在の知念は、相変わらず『ぼっち王』のスキルを発動しているため、他人から認識されない存在と化している。
逃げまどう生徒たちも、自分ではそうとは意識せずに知念の周囲を避けて歩いている始末だ。
どういう原理で発動するのか知念は想像もできなかったが、この『のっち王』の効果は確かなものだった。
さて、どうするかな……と、知念は思う。
内膳と同じような思考を得て、
「この場では、三人よりも三峰の足を引っ張るべき」
という結論をすでに出していたのだが……だからといって、素直に加勢するのも面白くない。
いや、それ以上に、知念自身にとってメリットがない。
だとすれば……。
お互いに争わせておいて、漁夫の利を狙おうかな。
と、知念は結論する。
もととも知念は、昨日、内膳に渡した『見取り稽古』の代わりとして、今、林道が持っている『シーフ』を欲していたところでもあった。
さらにいうのなら、今の知念のスキル構成だと、手頃な攻撃力が足りていない。
三峰の『エアタンク』はコピーしていたのだが……あのスキルはたいていの場合、威力が大きすぎて気軽には使用できないのであった。
ちなみに、知念にとっては幸いなことに、『見取り稽古』のスキルを内膳に譲渡したあとも、それまで『見取り稽古』でコピーしてきたスキルは問題なく使用できた。
だから今の知念は、『エアタンク』以外にもいくつかのスキルを使用可能な状態である。
まずは三峰に強かなダメージを与え、それから勢いに乗って周囲の警戒を怠った三人組を襲う……素早くそこまで方針を組み立てて、知念は早速行動に移ろうとした。
今、三峰は、内膳の手によって蛍光塗料まみれになっているところだ。
あれやられると、むかつくんだよなあ……と、経験者である知念は思う。
しかし、三峰もいつまでもやれれっぱなしではいなかった。
塗料にまみれた顔を、ペイント弾がくる方にむけ……目を閉じたまま、そちらに突進する。
当然、その方向には内膳が居るわけだが……その内膳は、知念が気づいたときには、いつの間にか姿を消していた。
知念は、三峰と内膳の間に体を割り込ませ、そこでスキル『エアタンク』を起動。
見えない戦車を実体化して、三峰の突進を遮る。
……がん!
というかなり大きな音がして、三峰の突進は強制的に中断された。
「……な……」
自分から見えない戦車の装甲にぶつかっていった形の三峰は、不意に現れた見えない障害物に少し面食らったようだが、すぐに気を取り直し、大きく跳躍してその場から離れた。
「……プレデターかっ!」
少ない判断材料から、即座に知念の正体に気づいたらしかった。
……こいつも、可愛げがないな……と、知念は思う。
なんだって、うちの男子は、こうも冷静な判断力を持っているやつらが揃っているんだろうか……。
などと思いつつ、知念は見えない戦車の機銃を操作し、三峰にむけて盛大にぶっ放す。
外しようがない距離であった。
が……知念の『エアタンク』が吐き出した大量の弾丸は、三峰を蜂の巣にする前に見えない壁にぶつかったかのように、弾き返された。
「……まあ、そうくるよねえ」
知念は、口に出して……すぐさま、自分の戦車から脱出した。
こんな近距離から、戦車の主砲で撃ち合いをする……なんて、どう考えてもぞっとしない。
それに昨日、知念は、戦車というものが扱い方を誤ればたやすく自分自身を拘束する……ということを学んだばかりだった。
だから、知念は、三峰が本格的に反攻にでる前に、あっさりとその戦車を破棄することにした。
幸い、知念のメインスキルである『ぼっち王』はこうしている今も発動中である。
知念が戦車の中にいるのか、それとも外にいるのか……他人には、判断できないはずであった。
見えない戦車だけを破壊して、三峰の注意力が散漫になるのならそれでよし……と、戦車を脱出しながら、知念はそんなことを思っている。
そうなったらなったで、つけいる隙ができるわけだし。
知念が上部ハッチから脱出して大きく跳躍するのと同時に、三峰の見えない戦車が主砲を発射した。




