05-24 豆鉄砲と元魔法少女たち……の、事後。
《林道鈴のスキル『捲土重来』が路地遙に移譲されました。》
《林道鈴のスキル『疾風怒濤』が七重芹香に移譲されました。》
《林道鈴のスキル『ジャック・ザ・リッパー』が睦月庵に移譲されました。》
《林道鈴のスキル『ファイヤ・スターター』が芦辺素直に移譲されました。》
そのアナウンスを、内膳英知は警察署の取調室で聞いた。
あれから駆けつけてきた警官に取り囲まれ補導され、事情聴取とお説教をこってりとやられたあと、
「……ゲームならば、仕方がない」
と、渋々、認められた形であった。
今、一年D組の生徒たちを取り巻く世界は、リライターにとって都合のよいものへと書き換えられている。
そこでは、「ゲームのために」という大義名分さえあれば、たいていの無茶はごり押しできるらしかった。
公園での騒ぎの目撃者からも、内膳はもっぱら突然出現した謎の戦車ばかりを相手にしていたという証言が複数名から集まってきたこともあり、少なくとも内膳には、むやみに被害を広げよう意志がなかったことが確認できたことも、警察関係の心証をよくしたらしい。
実際には、
「あの太った子は、あの戦車をどうにかするために頑張っていた」
と証言する人が多かったのだが、その事実は内膳に伝わることはなかった。
ともあれ、現在の内膳は、警察署の中で「補導」された……という扱いになっている。
目撃者の証言と、それに内膳自身の説明によって、内膳はどちらかというと「襲われた側」つまり被害者であり、自分の身を守るために行動していた。
ということは、警察内部でも確認したようだが、それでもあれだけ公園内の施設や設備を破壊しまくっている事実は変わらず……まあ、結果として、「やりすぎ」と判断されてしまった形であった。
器物破損、騒乱、迷惑防止条例……その他、複数の法律を破っていることは確かであり、「ゲームのため」というお題目を差し引いても、そのまま無罪放免で解放するわけにはいかない……と、警察側は判断した。
そこで、内膳は、厳重な取り調べと、そして説教を延々と受ける羽目になる。
その途中、内膳は、例のアナウンスを耳にして、思わず、
「あっ」
と声をあげてしまった。
「……どうした?」
偉そうな顔して内膳に説教をかましていた五十年輩の私服警官が、内膳の顔を不審そうに見返す。
「いえ……」
なんでもないです……といいかけた内膳は、試しに本当のことをいってみることにした。
「……今、スキルの奪取に成功したやつが居たようなので。
お節介なことに、そういう情報はすぐに伝わるようになっているんですよ」
「……ほぉ」
その警官は、まじまじと内膳の顔を見つめる。
「それは、ゲームとやらをおっぱじめた連中が、やっているのか?」
「そうっす」
内膳は、軽く頷く。
「正直、おれたちのクラスの連中も、たいがいは迷惑にしか思っていないんですけどね。
でも、強制されて逃げられない以上、自分の身を守ることくらいはしていかなけりゃあならないし……」
「わかった、わかった」
警官は、内膳の言葉を制した。
「要するに、自分からは誰かを襲うことはない、っていいたいんだろ?
境遇には同情するが、そういうのはこちらも管轄外だからなあ……」
……まあ、リライターのような常識が通用しない相手には、警察などの公務員はどうすることもできないだろうな、と、内膳も納得はしている。
そんなやり取りをしているうちに、
「……保護者が彼の身柄を引き取りに来ました」
という声とともに、若い婦警に連れられて、若い女性が取調室に入ってくる。
若い女性……とはいうものの、その容姿と体形は内膳自身と相似形であるその人物は、お世辞にも「美人」とは形容しがたかった。
「……なに、それー!」
室内に入るなり、大学生の姉は内膳の方を指さして、げたげたと笑い声をあげる。
「ひでぇ格好っー!」
「……悪かったな」
内膳は、憮然とした表情で、呻くようにいった。
指摘されるまでもなく、今の自分が、埃まみれで酷い格好になっていることを内膳は自覚している。
「……やっぱり、あれだ」
西城沙名は呟いた。
「今回の敗因は、肉の壁が不在だったことだな」
「そうだそうだ!」
辺見洋子が西城の言葉に賛同する。
「あの豆鉄砲がいたら、なんとか最初の攻撃を凌いでくれたはずだ!」
「……ま、スキルを奪われた今となっては、なにいっても手遅れなんですけどね」
夢川明日夢は気だるげな声を出す。
「だけど、鈴ちゃんにはあっさり裏切られちゃったなあ。
経験値、盗ませてあげたのに……」
「それがゲームってもんだしね」
奥地八枝が静かな声で告げる。
「どちらかというと、敵候補である鈴ちゃんにただで経験値をあげちゃうわたしらの方が人が好すぎるじゃないかな、と」
元自称魔法少女の四人組は、あのあと集まってきた教師たちによって生徒指導室まで拉致され、こってりと説教責めにあっていた。
その過程で、自分たちはどちらかというと襲撃を受けた側であり、一方的にやられた以外のことはしていないと何度も説明を繰り返して、ようやく解放されたところだった。
教師たちにしても、一年D組関連で、この学校に度重なる被害を受けているところであり、そちらの鬱憤もまとめてこの四人にぶつけているような節もなきにしもあらず……。
彼女ら、四人としては、唯々諾々と教師たちの叱責を受けてやり過ごすしかなかった。
今は、四人は、その長々しい説教タイムが終わり、学校から出たところであった。
「……だけど、気づいたときにはスキルがなくなっていたなあ」
「うん。
いつ取られたのかも分からなかった」
「やっぱ、スキル『シーフ』の力かね?」
「それ以外にないでしょう。
昨日だって、アナウンスなしでいつの間にかスキルが移動していたし……」
「怪しいといえば……煙幕張られている最中、なんか砂粒みたいなのが降りかかってきたときがあったんだよね」
「ああ、あったね。
煙で周りが見えなかったから、気のせいかなって思ったけど……」
「あれが攻撃だとは思えないよなあ、普通は……」
「『シーフ』の機能発動条件に、さ。
相手に攻撃を当てること……とか、あったんじゃない?」
「そんなところでしょうね。
……今さら分かっても、手遅れだけど」
「……本当に、手遅れなのかな?」
奥地がそういうと、他の三人は一斉に奥地の顔を見た。
「八枝。
それ、どういう意味?」
辺見が、奥地に問いかけてくる。
「いや、わたしら、まだスキルを失っただけだし」
奥地は、平然といってのける。
「まだ、ゲームオーバーだと誰かに宣告されたわけじゃないっしょ?
これから誰かのスキルを奪えば……」
「……復帰できる、って?」
今度は夢川が、奥地に訊ねた。
「うん」
奥地は、あっさりと頷く。
「そうしてはいけないとか、いわれてないよね。
リライターには」
「……いわれてみれば」
「そうかも」
いつの間にか、四人は足を止めて輪を作っていた。
「スキルの移動条件ってなんだっけ?」
「『シーフ』を使った特殊な場合を除けば……他のスキルの持ち主をぶちのめしてゲームの続行が不可能な体にする」
「相手のやる気をなくす。
いわゆる、心を折る、ってやつ?」
「相手を説得して、譲って貰う。
……うん。
こうして考えてみると、それって……」
「……別に、スキルを持っていなければできないってわけでも、ないよね?」
「……そういや、わたし、護身用に買って貰った催涙スプレー持ってたんだね。
一度も使ったことないけど」
「あー。
通販で、スタンガンとか買えるよねえ」
「別に、腕力とかスキルに頼らなくても、誰かの心を折ることは十分に可能なわけで……」
四人は、意味ありげにお互いの顔を見合わせる。
そして小声で、なにやら込み入ったことをはなし合いはじめた。




