05-22 黒森永遠の視点。
西城沙名ら自称魔法少女四人組はなにが起こったのか分からないままにスキルを奪われ、そのことに気づいて呆然としているうちに学食での騒ぎを察知してやって来た先生たちによって連行されてしまう。
いや、今となっては、「元」自称魔法少女たち、というべきなのかも知れなかったが。
とにかく、彼女ら四人が抵抗する間もなくスキルを奪われてしまったことは確かであり、スキル『フェアリーテイル』の見えない妖精を通じて一連の出来事を観察していた黒森永遠も、襲撃した側のこれまでに例を見ないほど鮮やかなやり口を目の当たりにして舌を巻いていた。
なにしろ、七重芹香と路地遙の二人組が学食に入ってからことが終わり、あとから入ってきた女生徒二人組が学食を去るまで、時間にすればわずかに数分、おそらく、三分前後でしか経過していない。
その短時間の間に、無駄な抗戦をいっさい行わず、一気に目的のみを達成して去っていった。
これほど「無駄がなく、効率的な」な手口を見せつけられたのは、このゲームがはじまって以来のことだった。
当然、黒森はあとからやってきてそしてすぐに去っていった二人組に対しても、見えない妖精を張りつける。
逆に、これ以上監視をする必要もなくなったので、スキルを喪失した元自称魔法少女たちからは妖精を引き上げた。
黒森は、七重と路地の二人にも見えない妖精をつけていたので、直前に行われている芦辺素直を中心とした打ち合わせの内容についても把握していた。
作戦次第で、ここまで効率的に動けるものなのか……と、黒森はかなり驚いている。
特に七重と路地の二人は、これまでも大きな騒ぎを起こしたり、参加してきたりする経歴があるのだが、そのときもどちらかというとやる気ばかりが空回りして肝心の成果はまるであげていなかった。
芦辺の作戦に従ったことによって、はじめて他人のスキルを奪うことに成功した形になる。
少し前に、やはり妖精を通じて観察していた内膳英知と知念はなの決闘が、かなりの泥仕合だったのでの、今回の無駄のない手並みが、なおさら洗練されたものに思える。
これまでチェックをして来なかったが、あの芦辺素直という少年には、もう少し注意を払っておいた方がいいのかも知れない……と、黒森は思う。
この襲撃について打ち合わせた際のやり取りから、黒森は芦辺素直のスキル『自動筆記』についても把握していたのだが、そちらについては、
「ずいぶん迂遠なスキルだな」
くらいの感慨しか持たなかった。
情報収集に便利なスキルだとは思うが、直接標的とする人物に張りつけてそちらの様子を把握できる『フェアリーテイル』を持っている黒森にいわせれば、なんとも制約が多すぎて使い勝手が悪そうに思えた。
芦辺の場合、警戒すべきはそのスキルよりも芦辺自身の性格や思考能力、その他諸々をひっくるめたパーソナリティの方だろう。
内膳英知もそうだったが、冷静で的確な状況判断能力を持っていさえすれば、スキル自体の強弱にも関わらず、難敵を撃破可能なのである。
知念はなの襲撃を正面から受け止め、逆に返り討ちにした内膳にしても、スキルだけを比較すれば知念に適うはずがなかったのだが……現実には、知念は見事に返り討ちになっている。
今回の元自称魔法少女の四人も、一人一人は強大な威力を誇るスキルの持ち主であったが、芦辺の作戦によって実力を発揮する前にスキルを奪われていた。
……どんなスキルも、使い方によって活きもするし、死にもする。
と、黒森はそう肝に銘じた。
結局は、
「使う人間次第」
なのだった。
「永遠ちゃん、また難しい顔をしている」
黒森がそんなことを考えていると、津川問に声をかけられた。
「ゲーム関係のこと?」
「ええ、はい」
黒森は、おずおずと答えた。
「新たに四人が、スキルを失いました」
ここ数日、黒森はこの津川に一方的に世話になっているのだが、基本的に他人とあまり親しくしたことがない黒森は、どうしても少し距離を取った態度を改められないでいる。
「……さっき、内膳くんが謎のプレデターからスキルを奪ったばかりなのに」
津川は、軽く眉間にしわを寄せる。
「今日は、全部で五人か。
いつもより、ずっと多い」
ゲーム開始からこれまで、スキルの移動は一日にせいぜいひとつかふたつ程度。
それが、今日に限って一気に増加している。
「スキルを失った人は、これで……」
黒森は、頭の中で指折り数えてみる。
まず、瀬川太郎と眞鍋伸吾。
この二人は、具体的な容態までは伝わっていないもののの、現在入院中であり、ゲームへの復帰は絶望視されている。
完全に、リタイアしたものと見なされていた。
それに、瑠河秀夫に渡来治樹。
この二人は、心身とも健康で現在も普通に登校しているが、スキルは奪われていた。
この四人に、新たに西城沙名、夢川明日夢、辺見洋子、奥地八枝の四人が加わった形だ。
「……脱落者は、全部で八人……か」
黒森は、呟いた。
ゲーム開始四日目の現在、一年D組三十四名中八名、おおよそ四分の一弱の人数が脱落した勘定になる。
さて、このペースは……。
「早いのか、遅いのか……」
でも……この分でいくと、今後、ゲームの進行はさらに加速していくんだろうな……と、黒森は、そう推測する。
芦辺素直や内膳英知などの冷静な判断力を持つ生徒が本格的に動きはじめれば、他の、これまで様子見を決め込んでいた生徒たちもなんらかの動きをしてくることが予想された。
それに、スキル『デリンジャー』や『シーフ』など、初期状態ではたいしたことがないものだと判断されていたスキルが、成長後、使い方によってはかなり「化ける」ことが今日一日の成果で実証された形だ。
現在、成長型であると判明しているもうひとつのスキル『ランサー』は、あの不気味な叶治郎が所有している。
その叶治郎にも黒森は見えない妖精をつけて監視しているわけだが、こうしている今も、やる気満々で『ランサー』のレベルをあげているところだった。
叶のメインスキルである『リヴェンジャー』や、それに矢尻知道の『バリヤー』など、待ち受け型のスキルについてもこれまでは有効な対処法がないものとされていたが、現在の状態にまで育った『シーフ』なら、難なく撃破……というよりも、まともに交戦する前にスキルを奪うことが可能なはずだ。
……やはり、絶対的に有利な、あるいは不利なスキルというものは設定されていないのだな。
と、黒森は確信する。
どんなに強そうなスキルであっても、最低ひとつは、天敵といえるスキルが存在する……らしかった。
レベルの高さよりもスキル同士の相性がものをいい、さらにいえば、どんなスキルでも所有している者の使い方がなっていないと宝の持ち腐れになる。
黒森の目から見ても、今の時点で有利な者は何名か存在するわけだが、だからといってその生徒たちが最後まで勝ち抜けるという保証は、どこにもなかった。
これからどんな伏兵が姿を現すのか、予想もつかないし、それに……。
……それに、最後の勝者は、案外、スキルの善し悪しや使用者の判断力などではなく、単なる運の良さなどという不確定な要素で生き残ってくのではないだろうか?
いずれにしろ、この時点では、黒森には、優勝候補を絞ることはできなかった。




