05-20 自称魔法少女たちの午後。
西城沙名、スキル『アイスエイジ』の所持者。
夢川明日夢、スキル『疾風怒濤』の所持者。
辺見洋子、スキル『捲土重来』の所持者。
奥地八枝、スキル『ファイヤ・スターター』の所持者。
なお、最後の奥地のみが、最初に与えられたスキル以外に、初日のテストプレイ時にスキル『ジャク・ザ・リッパー』を奪取していた。
この四名が、「自称魔法少女」たちということになる。
自称魔法少女たちは、自分たちに与えられたスキルをそれぞれ四大元素に基づく魔法になぞらえ、このゲームのことも無邪気に楽しんでいた。
さらにいえば、彼女たちは単純にそうした強力なスキルが使用可能になったことを喜んでいる。
なにかゲーム関係で事件が起これば、積極的に関わってその鎮圧にあたっていた。
実例をあげると、スキル『トラップメイカー』を濫用した瑠河狩りや、その翌日にあった七重芹香と路地遙の二人組が行った登校時の騒動にも、鎮圧にあたって自主的に尽力している。
彼女たちのスキルはどれもレベル三桁を越す。
威力も、当然、強大だった。
実際のところ、現在の彼女たちが自分たちのスキルでどれほどのことができるのか……空恐ろしくて、全力でスキルを使うことを試す気にさえならないほどだ。
大地や建物を自在に変形させるスキル『捲土重来』の場合なら、彼女たちが通う倉石市立中央高校を瞬時に瓦解させることが可能である。
それも……全力を出すまでもなく、だった。
そうした威力や破壊力については、他の三人のスキルについても事情は似たようなものであり……威力が強大すぎるゆえに、かえって全力を出せないという逆説めいた状態にある。
単純に、他者に対する攻撃力のみを比較するのであれば、彼女たち自称魔法少女らは一年D組の中でも抜きんでた存在であるはずだった。
だから……というわけでもないのだろうが。
彼女たちは、この時点では、このゲームに関しても本気を出していなかった。
本気を出して他の生徒たちのスキルを奪いはじめたとしたら、おそらくこのゲームもすぐに終わってしまう。
そうなってしまえば、その先にはこの四人の仲間たちでスキルを奪い合う展開しか待っていないわけで……そういう展開を望んでおらず、なおかつ、このゲームを、いや、このスキルが使用可能な期間をできるだけ引き延ばしたい彼女たちは、他の生徒たちへの干渉は最小限に控え、大人しく日々を過ごす……という選択を行っていた。
そして、彼女ら自称魔法少女たちは、その日の放課後、学食のすみに陣取り、適当にノートや教科書を広げてだべっていた。
この学校の学食は、生徒数と比較すると、かなり広くつくられている。
特にピークタイムである昼休みが過ぎると、かなりがらんとしてしまう。
放課後などにも解放されているため、学食でくつろいだり勉強をしたりする生徒も多かった。
「あ」
「お」
西城と辺見が、ほぼ同時に声を出した。
「聞こえた?」
「聞いた聞いた」
夢川と奥地が、そんなことをいって頷きあう。
「名無しさんと内膳かあ」
「あのデブ、結構頑張るな」
「いや、名無しさんって、恐らく例のプレデターのことでしょ?
あデブに姿が見えない敵を探し求めるような甲斐性があるとも思えないから、おそらくデブの方が襲われて……」
「返り討ちにあった……形か。
見掛けによらずはしっこくて冷静だからなあ、あのデブ」
「でも、ここ最近、一日に一人はスキルを奪われているよね」
「進捗状況的にいうと、遅いのか早いのか」
「うーん。
どうだろ?」
「最初のうちは、こんなもんなんじゃない?
まだ、みんな、手探りとか他の子の出方を横目で見ているような雰囲気もあるし……」
「もう少し進んでで勝ち組と負け組がはっきり分かってくると、今度は一気に進むんじゃないかなあ」
「それ、あるかも」
「まだ、スキルを奪われた人、十人越えてないしなあ」
「まだまだ分からないよねえ、勝敗」
「意外なスキルが妙に強かったりな」
「プレデターとか、まるで想像していなかったし」
「あと、『リベンジャー』だっけ?
叶くんの?」
「あれも、攻略の仕方がよくわからないねー」
「矢尻くんの『バリヤー』も、地味に攻めにくいよね」
「そうそう。
強くはないんだけど、負けにくいっていうの?」
「その他にも、名前だけみても具体的にどういう機能のスキルなのかよくわからないのも多いし……」
「むしろ、そういう意味不明なスキルの方が、不気味といえば不気味かなあ」
「そう考えると、割と番狂わせとかありそうだよね、このゲーム」
「いやあ、あるでしょう。
番狂わせ」
「テストプレイのときに暴れてて、強さを印象づけていた委員長とか田所がどんどんカマセになっていったりして」
「田所はともかく、委員長はどうかなあ?
今の時点でも、かなりいっぱいスキルを持っているし……」
「それに、あのタイプは人知れず努力をしそうな気がしない?」
「ありそう。
家に帰ってから、こつこつスキルのレベルあげとかしていそう」
「委員長、なんでまだ動いていないのかねえ?」
「きっと、あれじゃない?
ちまちまひとつずつスキルを集めるのが面倒くさいから、もう少し待って……」
「何個かスキルを集めた人から、一気にがばっと……か」
「理屈からいえば、そっちの方が作業量的に楽なことは認めるけど……」
「いや、あの委員長なら、それくらいのことは考えていてもおかしくはない気がする」
「自信家で、努力家……ではあるよねえ、あの子も」
「真面目すぎる……というか、校則とかルールを絶対視しすぎる頭の硬さはあるけどね」
「委員長、あの性格をどうにかしないと彼女なんかできないだろうなあ……」
「いや、できないでしょう、あの子は」
「卒業までに誰ともつき合えないに百ペリカ!」
「……駄目だ。
彼女ができる方の目に賭けるやつが誰もいねえ」
「賭は不成立だねえ」
声を潜めることもなく、いいたい放題に雑談に興じていた。
そういう彼女たちの周囲からは、いつの間にか人気がなくなっている。
雑談の内容から、彼女たちが「例の」一年D組の生徒であると知られたため、関わり合いになるのを恐れた他の生徒たちが、いつの間にかその周辺から遠ざかっていたのだ。
この数日、例のゲームが原因となって、この学内でも大小の騒ぎが持ちあがっていた。
その中には、今朝の昇降口での爆発事件のように、ゲームとは無関係な身でありながら、もらい事故を喰らって負傷していた生徒たちも少なからず存在しているのだった。
「例の」一年D組の生徒たちだと知ったら、少しでも身を遠ざけて護身を図ろうとするのは……ゲームとは無関係の生徒たちにしてみれば、当然の判断であるともいえる。
そんなわけで、無邪気に騒ぎ続ける彼女たちの周辺には、ほとんど人影が見あたらなかった。
学食のその一角だけ、不自然にがらんとした空間になってしまっている。
その一角に……なにかが、高速度で飛来した。
「……ごっ」
その物体を後頭部でまともに受けた辺見が、声帯から異音を発してテーブルの上に突っ伏する。
「なんだ?」
「誰かの攻撃?」
他の三人が、素早く立ちあがって周囲を見渡した。
辺見は、テーブルの上に突っ伏しながらもスキル『捲土重来』を使用して、なにかが飛来してきた方向にバリケード代わりの障壁を出現させる。
彼女たち、自称魔法少女のスキルは、強大な攻撃力を秘めている。
そうと承知して、しかも、四人揃っているところへわざわざ攻撃を仕掛けてくるのは……。
よほどの自信家か、それともまともな状況判断ができない馬鹿か。
「……あ。
馬鹿の方だった」
顔見知りの二人組を認めて、西城は思わずそう口にしてしまう。
七重芹香と路地遙の二人組が、少し離れた場所に立っていた。
この二人は……こういってはなんだが、これまでの行動で判断する限り、戦略的な判断力はまるで持ちあわせていない。
他の分野ならともかく、こと「戦い方」に関することとなると、まるっきりの無能者と化す。
ひとことでいえば、「馬鹿」なのであった。




