05-15 白昼の銃撃戦。
居た。
周囲を見渡して、知念はようやく内膳の姿を認める。
内膳は、木立の中に身を潜めて慎重に周囲を見渡していた。
そして無造作に、噴水のある方角に腕をむける。
……いったい、なにを……。
と、知念が疑問に思う間もなく、内膳の手から小さな発砲音が響き、少しして直線の白煙が噴水の方に進んでいった。
あのミサイルだ。
と、知念は直感し、爆風を避けるためにその場に伏せた。
直後に、爆音。
爆風。
それに、なにかの破片がばらばらと知念の背中に落ちてくる。
とっさに耳を塞ぐ、という知恵がなかった知念は、かなり近い距離でまともに爆音を聞いてしまったため、しばらく耳鳴りがしてなにも聞こえない状態になった。
鼓膜がどうにかなっていないといいが。
そんなことをいいながら、首だけを持ち上げて周囲の状況を確認する。
戦車が出現したあたりで、噴水の周辺に居た人たちは逃げ出していた。
今、この近辺に居る者は、知念自身だけだ。
その知念も、スキル『ぼっち王』の影響で他人には知覚できない……状態に、なっている。
はずだった。
しかし、内膳は、まっすぐに腕を知念が伏せている方向にむけてきた。
……なぜ?
と思うよりも先に体が反応し、知念は地面を横に転がっていた。
さっきまで知念が居た場所に、内膳が発射したペイント弾が命中する。
内膳には、知念の居場所が明瞭にわかるらしかった。
地面を転がりながら、知念は現在の状況を理解しようとする。
なぜ、内膳は、自分の居場所を正確に掴めるのか?
スキル『ぼっち王』が、正常に機能していない?
いや、違う。
少し冷静になった知念は、自分の体に降りかかってくる冷たい物体の存在に、ようやく気づくことができた。
水、だった。
破壊された噴水から、盛大に水しぶきがあがっている。
真上に吹き出した水が、自分の体に降りかかっているのだった。
スキル『ぼっち王』は、正常に機能している。
内膳は、知念自身は知覚できないのだが、知念の周囲に降りかかる水滴の不自然な動きは観測することが可能だった。
こうなること、知念の居場所をあぶりだすため、内膳はまず最初に噴水を破壊したのだった。
……やつは冷静で、頭が回る。
と、知念は改めてそう認識した。
ここで対応を間違えれば、間違いなくゲームオーバーに追い込まれるだろう。
内膳が持っているスキルは『デリンジャー』ただひとつだけだったが、内膳はそのスキルの性質を熟知した上で、完全に使いこなしていた。
もう一度、スキル『エアタンク』を発動させて戦車に籠もるか?
とも、考えたのだが……前に試したときと同じく、ペイント弾で視界を塞がれてのがオチだろう。
となると……。
内膳の射撃を避けるためにゴロゴロと地面を転げ回りながら、知念は覚悟を決めて、スキル『デリンジャー』を発動。
内膳が持っているのと同じ、玩具みたいな小口径の拳銃を実体化させた。
知念が今持っているスキルの中では、この場で使えそうなスキルはこれくらいしか思いつかなかった。
知念は素早く立ちあがり、拳銃を内膳にむけて発射した。
パン、という軽い、クラッカーのような破裂音がする。
反動は、想像していたよりも弱かった。
しかし、知念が撃ち出した銃弾は、内膳の体から数メートル横にそれた場所にある木の幹に穴を空けてのめり込んだ。
「……お前、こいつの射程距離を把握していないだろう?」
木の幹に太い体を隠しながら、内膳は、大きな声を出した。
「素人が拳銃を撃ったところで、滅多に命中するもんじゃあない。
命中させたかったら……」
……もっと標的に近寄らなくては駄目だ!
とか叫びながら、内膳は木の陰から姿を現し、両手に出現させた単発拳銃を交互に発射した。
拳銃を出しては発射して、また拳銃を出現させる。
そんな調子だったから、機関銃のような連発はできない。
しかし、今の知念にとっては、十分な脅威となった。
内膳は、ペイント弾と実弾を交互に発射した。
知念の周辺に、ばらばらと着弾していく。
すぐに地面に、カラフルな塗装がなされた。
実弾でもペイント弾でも、そのどちらかが命中したら、今の知念にとっては致命傷となりかねなかった。
知念は、必死になって左右に、ジグザグに走り出す。
内膳は、やはり、スキル『リベンジャー』を巧みに使いこなしていた。
それに対抗するためには……危険は承知で距離を詰め、なんとか自分の有効射程距離内に知念を捕らえる必要があった。
降りかかる水に全身を濡らし、弾丸とペイント弾をかわしつつ、知念は全力で内膳が居る場所へとむかう。
もっと距離を積めることができたら、スキル『リベンジャー』を使う以外にも、対策のしようはあった。
走りながら知念は、銃口を内膳の方にむけて引き金を絞った。
命中させることは不可能であっても……スキル『見取り稽古』を持っている今の知念には、内膳に一矢報いる方法があるのだ。
「……おいっ!」
白煙を吐きながらまっしぐらに自分にむかって来るグレネード弾を視認し、慌てて内膳は木立の中から飛び出した。
直後に、知念が放ったグレネード弾は木の幹に直撃。
爆発音をさせて、周囲の大気を揺るがした。
盛大に粉塵があがり、周囲の視界を一気に悪くする。
「……くそっ!」
地面に伏せた内膳は、悪態をついた。
「あいつにが『見取り稽古』を持っていたことを忘れてた!」
『見取り稽古』とは、誰かスキルを使用するところを目撃したら、同じスキルが使用できるようになる……スキルだという噂が、瀬川の襲撃からクラスの中で流れていた。
名称からして、まず間違いがないだろう。
そのことを失念しているとは……。
内膳は、自分のうかつさを短く呪った。
これで、やつ……プレデターの姿を、一度見失ってしまった。
やばいぞ。
と、内膳は思う。
単純に攻撃力とか使える手数を比較したら、あのプレデターの方がずっと有利なのだ。
これまで知念が有利に事を運べたのは、相手に反撃する隙を与えずに攻め続け、こちらのペースに填めていたからにすぎなかった。
現在、内膳はプレデターの現在地を見失っていた。
加えて、周囲はグレネード弾の命中によってあがった粉塵により、極端に視界が悪くなっている。
どこから、どのような攻撃に晒されるのか……わかったもんじゃない。
内膳は、油断することなく、急いで周囲を見渡した。
今の状態では、安易に発砲しても自分の現在地をプレデターに教えるだけだ。
相手が自分の居場所を突き止める前に、相手の居場所を把握しなければならない。
そうしないと……内膳自身が、詰む。




