05-14 鷺沢公園の決闘。
内膳が放ったペイント弾によって突如姿を現した戦車。
九七式中戦車 チハは戦車としてはかなり小さな車両であり、せいぜいニトンの軽トラックほどの大きさでしかない。
しかし、いくら小さいといっても白昼の公園に唐突に兵器が出現したことによって、たまたまその場に居合わせていた人々は悲鳴をあげて逃げまどうことになった。
中には、慌てるあまり転んで、泣き叫んでいる子どもなんかも居る。
……さて、どう出るかな?
と、木立の中で姿勢を低くして移動しながら、内膳英知は思った。
内膳は、戦車の主砲がむいている方向を避けるように動きながらペイント弾を発射してはまた移動するという行為を繰り返している。
何度も発砲しているのは少しでも敵戦車の視認性を高めるためであり、同時にスキル『デリンジャー』のレベルをあげるためでもあった。
一発を発射するごとに移動をするのは、こちらの居場所を敵であるプレテダーに把握して欲しくないためである。
小さいとはいえ敵は戦車。
本気でこちらを攻撃しだしたら、主砲を持ち出すまでもなく機銃であっさり一掃されてしまう。
攻撃力を比較したらどうしたってこちらの方が不利なのだから、内膳としてはできるだけ敵に自分の居場所を知られないように小細工をする必要が出てくる。
今のところ、『エアタンク』の戦車は出現したときから少しも動いていない。
……動くに動けないのだろうな。
と、内膳はプレデターの思惑を推察した。
無関係の子どもやお年寄りが大勢居る、白昼の公園。
こんな場所で戦車を持ち出して本気で暴れ出したら、さてその被害はどこまで大きくなのことやら。
リライターにスキルを与えられているのは一年D組の生徒に限定されている。
つまりは、プレテダーの正体は十五、六才の高校生に過ぎないわけで……そんな年齢の人間が、たまたま手にしたスキルという大量殺戮兵器を兵器で乱用できるとも思えないのだ。
「どうせゲームが終わればすべて元通りになるはずだから」と割り切って、被害がどこまでも拡大しても構わずにプレデターが暴れまくる可能性もあるのだが……。
いくらなんでも、そこまで思い切りがいいやつは早々いやしないだろう……と、内膳は予想している。
実際のところ、プレデターの予想するしかないわけだが、思惑は内膳としては敵が動きを止めているこの隙に少しでも『デリンジャー』のレベルをあげておきたいところだった。
……出遅れたなあ。
と、スキル『エアタンク』で出した戦車の中に居る知念はなは、そんなことを思っていた。
今や、見えないはずの九七式中戦車 チハは、内膳が放ったペイント弾によってカラフルに彩られていた。
いや、外見上の変化はどうでもいいのだが、それ以上に深刻な問題として、外部から塗装されたおかげで戦車の外の光景を確認できない、というものがある。
第二次大戦中に製造された九七式中戦車 チハには、当然のことながらいっさいの電子部品が装備されていない。
徹底的にアナログ、なのだ。
レーダーどころか、テレビカメラさえ、搭載されていない。
外部の様子をうかがうのには、覗き窓から外を見るかハッチを開けて直接顔を出すしか方法がなかった。
その上、その覗き窓はペイント弾によって塗り潰されており、その他の透明な装甲板も同じように塗料で塗りたくられている。
戦車の中に居る知念には、戦車の外の光景を確認する術がない。
しかし、直接顔を出したりすれば、今度は外に居る内膳から狙撃される恐れがあった。
スキル『ぼっち王』を使用すれば知念自身の姿を隠すことは可能なはずだが、戦車のハッチを開ければそれだけで内膳の注意を引く。
姿が確認できないというだけで、内膳が攻撃の手を緩めるとも思えなかった。
内膳が持つスキル『デリンジャー』は、口径が小さいとはいえ立派な拳銃である。
戦車の装甲の外に出た知念にとっては、十分な脅威となり得る。
つまり……。
知念はなは、自分の判断ミスによって自分のスキルで出した戦車の中に閉じこめられた格好となっているわけだった。
半世紀以上も前に開発された旧式とはいえ、戦車の装甲を拳銃で打ち抜けるとも思えない。
だから、このまま放置しておいても内膳から実効性の危害を加えられる可能性はほとんどないわけだが、かわりに、こちらから内膳を的確に攻撃する方法もない。
いや、厳密にいえば、戦車の主砲や機銃を当てずっぽうに撃ち続けて、いつか偶然内膳に当たることを期待するという、かなり頭が悪く効率も悪い方法もあるのだが……。
普通に考えれば、そんなことをしても、相手はすぐに逃げ出すよなあ。
とか、知念は思ってしまう。
この戦車も全力で走ればそれなりの速度が出るはずであったが、外の様子を見ることができない現状では、内膳をまともに追いかけることさえできないのであった。
あとは……。
と、知念は、考える。
スキル『ぼっち王』を発動して姿を隠したまま、一度スキル『エアタンク』を解除して、仕切り直す。
スキル『エアタンク』を解除した一瞬に、かなり大きな隙を相手に見せることになるが……。
結局、現状を打破するのには、それしかないか。
と、知念は思った。
スキル『エアタンク』は強力な攻撃力と守備力を持っている。
が、それだけに小回りと融通が効かないところもある。
知念はなは、改めて自分自身にそういい聞かせた。
【
Levelが30に到達ししました。
新たに特殊弾頭「グレネード弾」が使用可能となります。
】
ステータス画面をチェックしていた内膳は、内心で「来たー!!」と叫んでいた。
もちろん、声に出して喜ぶというへまはしなかったが。
しかし、グレネード弾か。
どれくらいの威力なのかは実際に試して使ってみないことにはわからないが、これで戦車が相手でも対抗できる可能性が出てきたことになる。
内膳はすぐにスキル『デリンジャー』で拳銃を出現させ、カラフルに塗装された戦車に銃口をむけ、引き金を引いた。
小さな護身用拳銃から間の抜けた音を出して銃弾が発射され、内膳から二メートルほど離れた場所から太い噴煙を吐きながらまっすぐに戦車の方にむかっていく。
しかし、そのグレネード弾が命中する前に、唐突に戦車の姿が消えた。
「……ちょとぉ!」
スキル『エアタンク』を解除して戦車を消したとたん、木立の中から煙を吐いてこちらにむかってくる物体を、知念はなは視認した。
ミサイルか? ミサイルなのか!
知念はなは、混乱しながらその場から駆けだした。
今時の平均的な女子高生らしく、知念はミリタリー方面の知識には乏しい。
当然、ミサイルとグレネード弾の区別はつかなかった。
とにかく、「あれが命中したらただでは済まなそうだ」という予感に従って、全力疾走でその場から離れる。
グレネード弾は、さっきまで知念が居た付近の地面に命中して、かなり大きな爆発を起こした。
知念は、背後からおそってきた爆風に煽られる形で、しばらく地面を転げ回る。
爆発は、思いの外規模が大きかった。
命中した地面が数メートルほじくり返され、窪地を形作っている。
地面を転げまわったあと、その爆心地を確認した知念は、しばらくぽかんと口を開けて惚けてしまったほどの威力だった。
あんなのが命中したら……たとえ戦車の中に居たとしても、戦車ごと破壊されていたのではないか?
いや。
実際には、知念があの戦車を放棄することをもう少し躊躇していたら、あの一発でほぼ確実にゲームオーバーになっていたはずだった。
スキル『エアタンク』の防御力は確かなものだと思っていたが、敵である内膳が持つスキルも、その『エアタンク』に十分抵抗できるだけの破壊力を秘めていたらしかった。
……これは……。
と、知念は、改めて思った。
……できるだけはやく、内膳からあのスキルを取り上げるしかない。
そうしなければ、安心できなかった。
幸い、スキル『ぼっち王』は正常に機能しているらしかった。
地面を転げ回ってすっかり汚れている知念の姿を気に止める者は、皆無だった。
そのとき公園に居合わせた人々は、突如出現して爆発した……ように見える戦車のことばかり気にしているようだ。
遠くから、サイレンの音が近づいてくる。
誰かが、警察に通報したらしかった。
知念は立ちあがり、慎重に周囲を見渡した。
まだこの近くに、内膳が居るはずだ。
スキル『ぼっち王』で姿を消したままなら、内膳を片づけてスキルを取りあげることも十分に可能なはずだった。




